第150話
「——ねぇ、晴人くん……」
名前を呼ばれて、ハッと我に返る。
そのまま目線を正面に立つ葉原に向けると、葉原は涙を拭った瞳で俺の顔をジッと見つめ、先ほどとは打って変わり芯の通った強い声で言葉を口にする。
「蒼子ちゃんに、何があったの?」
「……それは」
真意を突くような葉原の一言に、思わず口籠る。それと同時に、俺はふと気づく。
こいつは……葉原は、とっくに白月が何か重大な問題を抱えていることに、気づいていたんじゃないか?
それを知った上で葉原も俺と同じように、どうあいつに接すればいいのか、思い悩んでいたんじゃないか?
「蒼子ちゃん、ここのところずっと様子がおかしかったもん……! 私たちに心配かけないように、必死で隠してたつもりかもしれないけど、私にははっきりと分かったよ」
葉原は続ける。
「……ねぇ、晴人くん。晴人くんは、蒼子ちゃんに何があったのか知ってるんだよね?」
「…………」
「私だって、同じ天文部の一員なんだよ? ……だからさ、私も一緒に悩ませてよ。何ができるかは分かんないけど、それでも何もせずにはいられないよ……!」
周りの喧騒に負けじと、葉原がその想いを強く口にする。
目には再び涙が滲み、けれど、それを零さないよう必死に堪えている。
そんな葉原の姿を見て、俺は爪が掌に食い込むほど拳を強く握りしめた。
ずっとこのことは、白月がタイミングを見つけ、自分の口から葉原に話すべきだと、そう考えていた。第三者が他の誰かにベラベラと喋ることではないと、そう考えていたのだ。
けれど今、俺の目の前で彼女のことを誰よりも真剣に思い、涙を浮かべる少女の姿を見たことで、その考えは変わった。
そうして俺は、閉ざしていた口を静かに開くと、周りから聞こえる沢山の雑音に紛れるようにして、白月蒼子と柏城翔太の過去について話を始めた。
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