第42話

正門前で白月と別れた後、自宅に向かって夕暮れの街中を1人とぼとぼと歩いている途中、俺はとあるコンビニエンスストアの前を通りがかった。


コンビニの入り口付近には『揚げ物半額!』と書かれた旗がいくつも立てかけられており、それを目にした俺はそのコンビニの前でふと足を止めた。


それと同時に、腹部が何かに締め付けられるような軽い圧迫感と酸で溶かされるようなヒリヒリとした熱さに襲われたかと思うと、ぐぅっと控えめに音が鳴り出した。



白月からも言われた通り、さっさと家に帰ってテスト勉強をしなければならないところではあったが、『腹が減っては戦はできぬ』ということわざがあるように、空腹状態では十分な活動は出来ず、満足な結果も得られない。



「適当になんか買ってくか……」


そんなことを呟きながら、宣伝用の旗が立てかけられているコンビニの入り口に足を向けると、ちょうどそのコンビニから客が1人、ビニール袋をぶら下げて出てきた。



軽くウェーブのかかった栗色のショートヘア。

白ワイシャツの上から紺色のカーディガンを羽織り、胸元には真っ赤なリボンを付けている。下は、紺の生地に青いストライプの入ったスカートを膝上まで短くして履いていて、白く柔そうな太ももがチラリと顔をのぞかせている。



そんな女子生徒が身に纏っているあの制服は、俺が通う凪ノ宮高校のものだ。


ちなみに我が校では1年生が赤、2年生が青、3年生が緑と男女共、学年ごとでリボンとネクタイの色が異なっている。


つまり、今コンビニから出てきたあの女子生徒は凪ノ宮高校に通う1年生ということになる。


女子生徒が手に持つビニール袋からは、ホットスナックが入った袋や串が飛び出していて、チラリと見ただけでもその量の多さがよく分かる。


そんな大量のホットスナックを手にした女子生徒は、るんるんという擬音が聞こえてきそうなほど幸せそうな笑みを浮かべて、こちらに近づいてくる。


なんだかあまりじろじろ見つめるのもよくない気がして、俺は自然に目を明後日の方向に向けると、女子生徒が今しがた出てきたコンビニの方に向かって足を進める。




—— その時だった。





「あれっ? もしかして晴人くん?」


「……え?」


正面からやってくる俺の存在に気づいたのか、その女子生徒はビニール袋に向けていた視線をこちらに向けると、突然俺の名前をぽつりと口にした。

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