第24話

教室から廊下に出ると、家に帰るために昇降口へと向かう生徒たちとは反対の方向に向かって白月は進んで行く。


図書室か、理科室か、それとも雨の降り頻る屋上か……。白月が一体どこへ向かおうとしているのか定かでは無いが、場所なんて正直どこでもいい。


それよりも大事なのは、白月がどう話を切り出すのか。そして、それに対して俺はどう言葉を返せばいいのかという事だ。


俺はただそれだけを考えながら、廊下に足音を響かせて歩く白月の後ろをついて行く。



白月は、俺たちが在籍する2年2組のある東棟2階から階段を使って、3年生教室のある東棟3階へと進む。


それから、受験に向けて勉強でもしているのか、未だにちらほらと生徒の残る3年生教室の前を通り抜け、文化部の部室が建ち並ぶ西棟へ移動。


図書室は東棟3階だし、理科室は西棟2階だ。屋上に至っては、もう一度階段を使って上らなくてはならない。


白月がそのどれでもなく西棟の3階に来たということは、いくつかある文化部の部室の内の1つに向かっているということだろう。


西棟3階の廊下は奥まで真っ直ぐ繋がっていて、廊下の左側には校舎の裏側が見える雨粒のついた窓硝子、そして右側には文化部の部室が廊下の突き当たりまで等間隔に並んでいる。


確かこの階に部室があるのは美術部、手芸部、写真部、文芸部の4つだったはず。


うちの高校は運動部に比べて文化部の部員数が圧倒的に少ない。


そのせいもあってか、廊下には一切話し声が聞こえてこない。聞こえるのは、時折風に吹かれて窓硝子に当たる雨音だけ。


そんな静まり返った廊下に2人分の足音が響く。


歩く速度を少しも落とそうとしない白月は、美術部の部室の前を過ぎ、手芸部の部室の前を過ぎ、写真部の部室の前を過ぎ、そして文芸部の部室の前を過ぎると、廊下の一番奥のとある部屋の前でようやく足を止めた。



ふと、部屋の入り口上部を見上げると、そこには白のプレートが1枚貼り付けられていて、黒のマジックペンで丁寧に『天文部』という見慣れない部活動の名前だけが記されていた。

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