第18話
展望台から歩いて駅に戻ってきた頃には、既に19時を回っており、街はすっかり夜に包まれていた。
それでも街のいたるところに設置されてある街灯とまだ営業している店の明かりで、辛うじて周りの風景を視認することが出来ている。
それと今日は空が晴れているため、ここからでも星がよく見える。星座のことはよく知らないが、濃紺の夜空に一際目立つ星が蒼く輝いているのを見つけた。今度、名前を調べておこう。
そんなことを考えていると、隣を歩く白月が「そういえば」と口を開いた。
「皇くんの家ってどの辺にあるの? 6年間一緒にいるけど、今まで一度もお邪魔したことなかったわね」
「今後もお邪魔させる機会はないから安心してくれ」
「まぁ、それは確かに安心ね。迂闊に家に上がって皇くんに何されるかわかったもんじゃないし」
「家に上げたところでなにもしねぇよ。お前にはお茶も出さない」
凡人云々の前に、こいつは一生命体として俺のことを馬鹿にしている節がある。
それに、事あるごとに俺に何かされることを想像しているあたり、自分の身体に相当な自信をお持ちのようにも見受けられる。
自分が天才だから何にでも自信満々なのか、ただ単に自意識過剰なだけなのかよく分からん。
「で、実際のところ家はどの辺にあるの?」
その話は上手く逸らしたはずだったのだが、白月はしつこく食いついてくる。
まぁ、ストーキングされるわけでもないだろうし、家を知られたくらいで問題はないため素直に教えることにした。
「2丁目」
「へぇ、なるほどね。ちなみに私は3丁目。三角屋根で白い壁、庭付きの家」
「え、お前んちってもしかして、あの馬鹿でかい城みたいなやつか? クリスマスになるとよくギラギラしたイルミネーション飾ってる……」
「あら、知ってたのね」
「クリスマス期間になると、お前んちだけネオン街みたいになってるから目立つんだよ……」
6年間、共に同じ学校で過ごしてきたが、今初めてこいつの家が意外と近所にあると知った。これほど嬉しくないご近所さんもなかなか珍しい。
「6年目にしてようやくお互いの住所を知ることが出来たことだし、今日は最後まで付き合ってもらうから」
「は? お前、さっきの展望台が最後って自分で言ってただろうが!」
「『は?』はこっちのセリフよ。小学校で習わなかった? 遠足はお家に帰るまでが遠足なのよ。責任持って私を家まで送り届けなさい」
「人をタクシーみたいに言うんじゃねえ」
でもまぁ正直なところ、万が一、帰り際にこいつが何かトラブルに巻き込まれでもした場合、真っ先に疑われる可能性があるのが俺のため、仕方なく家までは送っていってやることにした。どうせ家に帰る通り道だし。
そういうわけで、俺たちは隣り合いながら星が見下ろす夜の街の中を、それぞれの家に向かってゆっくりと足を進めていった。
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