第23話 AIは人間を超えられるのか?

〈登場人物〉

アイチ……高校2年生の女の子。

クマ……アイチが子どもの頃からそばにいる人語を解するヌイグルミ。

情報学者……AIが人間を超えることに懐疑的。



情報学者「昨今のAIブームで、ネコも杓子もAI一色になってしまった。AIが人間の生活を向上させているということは認めましょう。これは、事実だ。しかし、それ以上に、ヨーロッパの学者の中には、AIが人間を超えた神にも等しい存在になるのではないかと思っているものもいる。ちょっと冷静になってもらいたい。そう簡単に、機械が人間を超えることなどあってたまるものですか」


クマ「そう言われると、なんだか残念な気もするな。機械が人間を超えるなんて話、ちょっと面白いじゃないか」


情報学者「それですよ。そういう考えで面白がるだけで、AIと人間の本質の違いに思いを致さない。問題だとは思いませんか?」


クマ「まあ、確かにね。そもそも人間を超えるというのが、一体何によって判断ができるのかというところからして、よく分からないからね」


情報学者「そうでしょう。人間を超える存在というのは、その定義によって、人間では理解できないわけなのだから、いざ超えたかどうかなんていったいどうやって判断するんでしょう」


クマ「純粋に哲学的に考えるとそういうことになると思うけど、このAIが人間を超えるっていう話は、もうちょっと情緒的なものなんじゃないかな。AIに任せていれば、すべて大丈夫みたいな」


情報学者「そうですね。特に日本ではそういうところがあるように思われます。冗談じゃありませんよ。AIに任せるというのは、AIに責任を取らせるということじゃありませんか。ある出来事に対して責任を取るというのは、人間固有の領域ですよ。それをAIに預けようなどと恥を知るべきだ! ……ちょっと、わたしの方が感情的になりましたね。学者らしく論理的に話をします。機械と生命というのは、大いに異なっています。たとえば、目的ということを考えてもですね、機械というのは、『原因があって結果がある』というこの枠組みから抜け出すことはできないのに対して、生命というのは、自ら目的を設定することができるわけです。生命の第一の目的は生きることですが、この目的のために生命は、環境に適応していくことができるわけですが、機械にはそのようなことはできません」


クマ「なるほどね。機械に目的を持たせるというのは、確かになかなか難しそうだよね」


情報学者「できませんよ、そんなことは。この一点からしても、機械は生命と同じように振る舞うことはできない。AIが人間を超えるなどというのは、とんでもない話だ」


アイチ「でも、囲碁とか将棋だと、AIが人間に勝ち始めているんでしょう?」


情報学者「あれはね、囲碁や将棋というのは、勝った状態というゴールから考えると、そこに至る道筋は有限だからなんだ。有限なパターンを処理する能力は、AIの方が優れている。しかし、だからといって、それで、AIが人間の知性を上回ったなんてことは言えないんだよ。囲碁や将棋をするだけが、人間の知性の役割じゃないからね」


アイチ「今のこの世界でも機械が日常の中に普通にあって、かなり便利だと思うけど、どうして、さらにAIに人間の仕事を任せたいと思うんだろう」


情報学者「より便利にというのは、人間の基本的な欲求なんだね。これによって、人間の文明は発達してきたんだ」


アイチ「本来人間が自分の手でしていたことを機械に任せるようにしたわけでしょう? 臼でひいていたお米を、精米器にかけるような具合に」


情報学者「そうだね」


アイチ「そうやって、段々と人間の仕事を機械に任せるようにしていったら、最後に残る人間の仕事ってなんだろう」


情報学者「それは、やはり、考えることになるだろうね。あるいは、同じことかもしれないが、文化を創ることだ」


アイチ「そういうところまでAIに任せようとしている人がいるってこと?」


情報学者「その通りだよ。まあ、そんなことはできない、というのがわたしの考えだがね」


アイチ「もしもそんなことが実現したとしたら、人間がするべきことっていうのが、一つも無くなっちゃうような気がするんだけど、どうして、そういうことを目指して、AIを開発する人がいるんだろう」


クマ「それは便利さを求めるということとは、また別の次元の話かもしれないな。人間を超えたものを作り出せるのかという純粋な知的欲求や、人間を超えたものを作り出したいという宗教的な願望といったようなね」


情報学者「特に宗教的な願望というのはあるような気がしますね。自分たちの手で神を作り出したい、神を見たいという考え方がね」


アイチ「もしもの話だけど、もしもそういうAIが実現して、人間の代わりに何でも判断してくれるようになったら、人間ってどうなるんだろう?」


クマ「それはちょっと愉快な想定ではあるんだけど、まあ、別に特にどうにもならないんじゃないかな。人間の代わりに何でも判断してくれるようになるって言ったって、それじゃあ、今現在、どのくらいの人間が、自分自身で判断しているって言うんだい? そのときの流行や大勢に従っている人がほとんどじゃないか。その流行や大勢がAIの判断に代わるっていうだけの話じゃないかな」

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