第52話 NKOTB(ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック)

 今や全世界の注目のダンスボーカルグループは『BTS』。

 これは誰も文句を言えないでしょう。初めて目にしたのは「防弾少年団」として日本の音楽番組にもチラホラ出ている時は、まあまあK-POPって最近いいよね、くらいに思ってましたが、『Dynamite』を聴いちゃったら完全に持ってかれてしまいました。K-POPまでは手を出すまい、と思っていたがベストアルバムが出ると聞いた瞬間に我慢できなくなり、発売日に早速買いに行ったもんです。


 まあ元々、ヒップホップだとかのダンス系ミュージックはかなり好きで、ジャスティンテンバーレイク、その彼が在籍していた★NSYNC。ロビーウィリアムズ、その彼が在籍していたTake That。それにバックストリートボーイズなんかは聴きまくりましたね。ちょっと雰囲気が変わりますが、ボビーブラウンが好きで、ボビーブラウンが在籍したニューエディションはダンスグループとは言わないものの、ソロになったボビーのダンスにはハマりましたね。


 でも、もっと元を辿れば、なんでそういう系が好きになったかというと、それは中学の頃に遡ります。


 小学高学年の頃バンドブームが始まり、中1くらいではホコ天ブーム(見に行ったことはないけど)、ロック、パンクなどを日本風にアレンジしたバンドがたくさん出てきた中、僕もその一員になろうとバンドを始めたわけです。湧き出る衝動も、叫びたいポリシーもなく、ただただ「ロックとはなんぞや」と何でもかんでもロックに繋げて、調査コイてた時期でもあります。

 まだまだ中1じゃあ子供で、一丁前に洋楽のCDなんかも買い始めたのもこの頃。好きな日本のミュージシャンが影響受けたと語っていた海外のミュージシャンのCDを勉強のために聴くのですが、全然頭に入ってこない。レッドツェッペリンが凄い、ドアーズがカッコいい、JAPANって知ってる?なんてカッコつけて人に言うんですが、まだその良さが全然わからなく、中坊なのにこんな洋学聴いてて凄いだろ、と思っていただけの時期。前出した3者は後々もの凄く好きになってくるアーティストですが、中1の僕には「なんか良さそうだけど無理やり聴いているCD」というだけ。

 原因は「英語の歌詞の良さ」がわからない。何言ってるかさっぱりわからない。JAPANなんか好きになるのは高校生になってからで、ちょっと変わったベースが好きになり始めた頃。JAPANと同時期に買ったディペッシュモードなんか未だに良さがわからないけど。


 仕事や普段の生活に関しては割とゆるゆるな僕でも、音楽に対してはほんのちょっと勤勉家で、中1の頃は眠いのに深夜番組で研究するわけです。あの頃は深夜に音楽番組を毎日のように放送してたなぁ。今みたいにネットやYouTubeなんかないから、音楽番組でしか情報を仕入れられなかったから、頑張って見てたわけです。


 その深夜番組でビルボードなのか忘れましたがヒットチャートみたいな番組がありまして、そこで出会ったのが『ニューキッズオンザブロック』。


 くわ〜、懐かしい。


 これは中学時代にメチャメチャ聴きました。この人たち、それこそ今のBTSのように世界中で人気で、日本ではまだSMAPはデビューしない。クラスの女子たちは光GENJIでキャーキャー言ってる子が多い中、ロックやってる人間はアイドルなんて聴いちゃダメだ、なんてロックのロの字も知らん中坊がイキがっていたわけです。

 そんな中で出てきたのがニューキッズオンザブロック。ライブ映像なんか見てると、観客の女の子たちがバッタバタ失神して倒れてるわけです。まさにアイドルの中のアイドル。海外で言うアイドルっているのは、日本のアイドルとちょっとニュアンスが違うのが、顔が良くてキャーキャー言われてるだけじゃないんです。歌もメチャメチャ上手いし、ダンスも纏まってる。当時のアイドルは、なんかアクロバット入れたらいいみたいな風潮でバク転やバク宙、それでもってローラースケートと、それはそれで凄いんですけど、なんか違う。

 日本のアイドルの価値観って、SMAPからガラリとと変わった風潮があると思います。もっと前の僕らよりも上世代、歌謡曲の時代のアイドルは歌唱力もあって見た目も良くてって感じでしたが、僕らの中学の頃のアイドルはカオスな時代。なんだかよくわからない人たちがキャーキャー言われて、ただのやっかみだと思いますが好きになれなかった。そんなこと言ってるくせに実は中学の頃は永作裕美さんが好きで、当時永作さんはribbonというグループにいたんですね。だからこっそり『明星』というアイドル雑誌を定期購買で買っていて、終いには好きが溢れ出て雑誌の切り抜きをクリアケースに入れて下敷きにしたりしてて、バンドのメンバーに「全然ロックじゃねえじゃねえか」と怒られる始末。


 話をニューキッズオンザブロックに戻します。

 この深夜番組で見た映像は、『ライトスタッフ』で、ちょっとセカンドアルバム『Hangin' Tough』が発売されたばかり。♪オッオッオ、オーオーオ、と歌いやすい始まりに、アブドーラ・ザ・ブッチャーの地獄突きのような覚えやすいダンス。すぐにマネてしまいます。ヤンチャな5人組といったところで、なんだかラフで楽しそう。日本の「王子様」的アイドルと全く違う。

 まずはメインボーカルのジョーダン・ナイト。端正な顔立ちで、歌もダンスもキレキレ。通常時の高音とファルセットを巧みに使い分ける達人。そしてジョーダンの実兄ジョナサン・ナイト。落ち着いた風貌で決して前に出ることはない縁の下の力持ち的な存在でしたが、実は女性ファンが多し。続いて最年少のジョー・マッキンタイヤー。当時まだ中学生か高校生くらい。高い美声で、幼少期のマイケルジャクソンを彷彿させます。メインでボーカルを取ることも多く、ジョーダンと人気を二分していたニューキッズオンザブロックの貢献者。そしてブラック系ダンスでは右に出るものはいないダニー・ウッド。一時ニューキッズ休止中は、プロデュース業やソロシンガーとして活動していた根っからの音楽好き。

 そしてそして、僕が1番好きなメンバーはドニー・ウォルバーグ。この人、他のメンバーに比べてちょっと悪い奴みたいな不良っぽさのせいで男性ファンの方が多かったと思います。映画ファンの人は気づいた人もいると思いますが、この人は実写のトランスフォーマーでお馴染みのマーク・ウォルバーグの兄さんなんです。ちなみにマークは、ニューキッズオンザブロックの前身ナヌーク時代に在籍しており、ナヌーク脱退後に兄ドニーのプロデュースにより、『マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチ』を結成し、俳優よりも先にラッパーでデビューしてるんですね。ウィル・スミスみたいにミュージシャンから俳優になった1人なんです。

 このケンカもしないくせにヤンキーに憧れる中坊としては、ドニーがカッコよく映るんです。アルバム『Hangin' Tough』に収録されている表題曲『Hangin' Tough』では、ドニーがリードをとりライブ映像では『Hangin' Tough』からの『Cover Girl』で2曲のリードで、ドニーが歌いながら客席に指を差せば、ファンが泣き叫ぶ。


 俺もキャーキャー言われたい、だからバンドを始めたのに、あまり目立たないベースを選んでしまった。ホントは歌が上手ければボーカルでキャーキャー言われたかった。


 これが中坊時代の僕の本音。歌が上手ければと思いヘッドホンをして大きい声で歌うと上手くなるなどとガセ情報を得て夜中練習すると次の日の朝婆ちゃんに「リュウは昨夜、大きい声で本を読んでたよ」と本気なのか嫌味なのかわからないことを言われる始末。

 歌が上手くなることは諦めて、しっかり練習してベースが上手くなればいいのですが、この練習が苦手で。前出ではギターをやっていた親父への唯一の抵抗としてベースを選んだと書きましたが、正直なところボーカルは音痴だし人前で歌うなんて恥ずかしいし、ドラムはなんか足と手が上手くできなそうだし高くて買えない。ギターはコードとか難しそうで、ちょっと弦の少なかったベースを選んだという消去法であったことは否めない。実際始めてみれば色んな奏法があって、これはこれで難しかったのですが、なかなかナメた状態から始めたわけです。8分音符を刻んでいれば楽なのですが、いかに苦労せずなんとか目立てないか。

 そこで辿り着いたのがプリングからのハンマリングオン。いわゆる音が「パイン」と鳴るやつです。譜面だとただの8分音符のところ最後の音だけ「パイン」とやるわけです。それは曲調とかも関係なくやるもんだから、バンドメンバーに「そのパインいらない」と怒られるわけです。

 そしてYouTubeなんかで見ていただけると分かりやすいいですが、『Cover Girl』にはベースソロがありまして、バックバンドのベーシストが前に出てきてニューキッズのメンバーと一緒に客席に背中を向けて腰を振る。ベーシストというのはダンサーでもあるんです(!?)そこで確立したのが、どんな曲調(特に単調なキザミの場合)でも「パイン」をし、客席に向けて尻を振り、観客を指差すという謎の行動。当時ビジュアル系のコピーバンドで観客も少なかったくせに。キャーキャー言われるどころか、メンバーからの冷ややかな視線。

 と、まあこんな感じですぐに影響される僕は、ドニーのマネして修学旅行ではアメ横で安い革ジャンを買い、ジーンズの膝を破り、腰にチェックシャツを巻くのでした。


 そんな個性溢れるニューキッズオンザブロックは、今の日本のアイドルにも多大な影響を与えた、と勝手に踏んでいます。SMAP以降のアイドルは、多分この個性の点で大きく変わったのではないでしょうか。

 ニューキッズが好きにならなければ、バックストリートボーイズやインシンク、BTSも聴かなかっただろうし、40歳を越えてYouTubeで検索して『ダイナマイト』の振り付けを覚えようとは思わなかったはず。お陰で股関節を少々痛めましたが。


 とにかくこのアルバム最強です。ほとんどがヒットソング。そして次のサードアルバム『Step by Step』で人気を不動のものにするわけです。この頃、ジョーは声変わりの真っ只中であの美しい高音が出なくなっていた。子供の頃から活動しているとそんなこともあるんですね。のちに解散しましたが、大人になってまた再結成。動画で見る限り、いい歳の取り方をして皆さん渋くなってました。最年少のジョーも、今年50歳ですよ。


 懐かしいと思い立った瞬間、聴きたくなるわけです。そしてCDを探すわけです。

 あれ?ない。


 そうだ。高校卒業して金がない頃、もう聞かないと思って売ってしまったのだ。

 そして我慢できない僕は、CD屋さんやネットの中古サイトを漁り、また買い揃えてしまうのでした。

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