第38話 FLYING KIDS(フライングキッズ)
米津玄師の後にFLYING KIDSですか、と僕の好みの振り幅が定まらないような順番ですが、僕にとっては、このFLYING KIDSというのは未だ大好きなバンドの1つであります。
FLYING KIDSというのは、このエッセイでもよく登場する「イカ天バンド」の1つで、初代グランドチャンピオンになりメジャーデビューした.......って言ったって、これわかる世代が40オーバーの人だけですかね。(イカ天とは、前のエッセイでも書いたことありますが、インディーズバンドのオーディション番組で、5週勝ち抜くとメジャーデビューできるという、バンドブームの火付け役というような番組がありました。歩行者天国のホコ天も、メジャーデビューのチャンスがあり、そこでスカウトされるという、まさにバンドブームのいい時代でありました)
ここ最近で言うと「カーリングシトーンズ」として活動していると言うと、わかる人が増えるだろうか。「カーリングシトーンズ」は、寺岡呼人をリーダーに、奥田民生、斉藤和義、トータス松本、YO-KING、そして浜崎貴司の6人。ユニコーンだとかジャンスカだとか真心ブラザーズとかウルフルズを聴いてた僕ら世代には夢のバンドですよね。しかも斉藤和義がドラム叩いてる、ううっ。そこにポコッといるこの人こそがFLYING KIDSのボーカル、浜崎貴司さんなんですねー。
大ヒットした曲『風の吹き抜ける場所へ 〜Growin' Up, Blowin' In The Wind〜』は、94年に丸井の夏の水着と浴衣キャンペーンのコマーシャルで使われてたりして、聴いたことある人も多いはず。
最近では、ウイスキー『角ハイボール』のCMでの『ウイスキーが、お好きでしょ』なら聴いたことある人、もっと増えるんじゃないでしょうか。この曲は石川さゆりさんや、竹内まりやさん、ハナレグミや藤巻亮太さん(元レミオロメン)、なんとEXILEのATSUSHIまでもが歌ってる名曲の名曲。
そして歴代この歌の「歌い方ねちっこい部門」の1位の座を田島貴男さん(オリジナルラブ)と張り合うのが、浜崎貴司さんなんですねー。
あとは実写映画『CASSHERN』で、実験室みたいなところでヌボーッと立っている人、これも浜崎貴司さんなんですねー。余談ですが、この映画で殺される民間人の役でGLAYのHISASHIとTAKUROが出てるの気がついてました?
さっきからディスってるわけではないです。とにかくインパクト大で出てきただけで嬉しくなってしまう存在なんですよ。
初めて見たのが、イカ天。中学生の頃です。当時の僕はヘタクソなくせにバンドを始めたばかりで、練習よりも形から入るタイプですから、ファッションばっかりバンドマン風にしていた時期。バンドブームの真っ只中、パンク系の人たちはビリビリにしたジーンズにボーダーのロンT。ビジュアル系はカラースーツに鎖ジャラジャラ。みーんな髪の毛立てていて、僕も例外なく学校で怒られない程度のギリギリの長さまで髪を伸ばし立ててたのであります。
僕の選ぶ服は紫か黒。安い量販店で、なるべくバンドっぽい派手な服を探して、ホームセンターで買った鎖を付けて、家族旅行で行った清里のお土産屋で買ったたくさんの安い指輪を殆どの指に付けて、こんな指輪だらけじゃベースは弾けません。ネックにガチガチ指輪が当たるし、鎖がベースのボディを傷つけて練習どころではありません。
そこでテレビを見てたらイカ天やってて、早く寝ろ!とか怒る親父は、音楽番組だと一緒に見ようと言う、なんとも親父の匙加減でイカ天を見ていると、パッと目に入ってきたのがFLYING KIDS。
この人、大丈夫な人かな?
またディスってるわけじゃありません。なんかフニャフニャした立ち方で、着ている服が赤やら緑やらで、ジャージにハット、ジャージだって体育の時間に着るような緑のジャージです。
ダセえ、と思ったのは自分の服装の方。断然、FLYING KIDSの方が、わけのわからないファッションなのですが、物凄くカッコいい。当時プロデビューを目指して、ビジュアル系の、そのまたそれ系の安い服を好んで着て(ブランドとかなんか中学生の頃は知らないし)、黒と紫ばかり選んでいた僕は、急に緑とか黄色とかピンクとか目立つ色に興味が映った。
そのオーディション番組で、あっという間にメジャーデビューし、初めてPVを見たときの感動。わかりやすいところであんな感じの帽子を探して、母ちゃんに買ってもらって、気がつくと緑が好きになってしまった。あとはデカいヘッドが付いてるネックレスを買って。その頃、本を読むのが嫌いだった僕が「村上龍」の本に出会って、どっぷりハマり、バンドをやりながら小説家も目指すという、どっちも中途半端な夢を抱き、派手な色の服を好み出して、「志茂田景樹を目指しているのか」と言われるのを阻止し、順調に派手な色の服を増やしていきました。
それでもバンドの練習はビニールレザーのパンツに紫のジャケット、何もないときは浜崎貴司の格好を真似て、当時はファッションがヒッチャカメッチャカでした。
あと浜崎貴司に惹かれたのは、あの歌い方。シャウトするところと抜くところが、今まで見たことない歌い方で、ソウルフルというか、その頃まだ洋楽なんてあんまり聴いたことなくて、ましてやファンクとかブラックミュージックなんか何がいいのかわからなかった。ファンクが好きになったのは、浜崎貴司と江川ほーじんの影響が強いです。
それにあのポーズ。怠そうにブラブラ歩いて、目は上目遣い。酔っ払ってるんじゃないかと手をブラブラさせて、上に挙げた時に、キツネの口を開けたような手の形、アレは真似しました。ボーカルじゃなかったけど。ビジュアル系を見てきた僕にとって、マイクの持ち方は小指だけマイクの下に回すもんだと思ってたから、普通にマイクを真っ直ぐ持っているのが、もう凄えカッコよく見えてました。
そして、なんと言っても曲がいい。『我想うゆえに我あり』ですよ。デカルトですよ。哲学ですよ。世界史が苦手だった僕でも、これじゃあ覚えちゃいますよ。「♪わーれ、想うゆえーにわーれ、ありWoo〜」って歌い出しからパンチが効いてて、そのあと喋ってるみたいな歌い方。洋楽聴いたことない中学生の僕からしてみたら、かなりショック受けましたよ。
でも中学生の頃は、たまにイレギュラーで母ちゃんに買ってもらえることはあっても、今ほどポンポンCD買う余裕なんでないから、何故かFLYING KIDSのメジャーデビューアルバム『続いてゆくのかな』を買うのが後回しになってしまい、FLYING KIDSで初めて買ったCDは、セカンドアルバムの『新しき魂の光と道』。タイトルからしてもなんか期待しちゃうし、初回盤にはなんかステッカーがいっぱい入っていて、それも剥がさず今でも綺麗にとっておいてあります。ギターの丸山史朗のインディアンみたいな帽子と、ベーシストの伏島和雄のドンタコスみたいなメキシコの帽子が気になるジャケットです。
この時の浜崎貴司の衣装は燕尾服みたいな着丈の長いジャケットに赤い帽子と赤い手袋、それにステッキ。僕が今、帽子が好きだったり、着丈の長い服が好きだったりするのは、この頃からだったのかなぁ、と今思いました。
そしてこのアルバムの1曲目『心は言葉につつまれて』でやられてしまいます。半分ふざけた曲も収録されているのが、またカッコいい。6曲目の『長い道のり』もオススメ曲です。それからアルバムがコンスタントに発売され、追っかけるように買って、天国まであと3歩シリーズの『ゴスペルアワー』の『胸のチャイム』『カナリア』もオススメ。
でもやっぱりファーストアルバムの6曲目から7曲目『我想うゆえに我あり』からの『幸せでありますように』、もうこれが全て。ファーストアルバムから、こんな名曲作られちゃうと天才と認めるしかない。1曲目の『あれの歌』も好きなんですよ。「♪春が来て〜、夏も来て〜、みんなあれについて考えてる」ときて、「♪秋が来て〜、冬も来て〜、みんなあれについて考えてる」と1年中あれについて考えてるわけです。
後の方のアルバムは、POP路線に変わってきますが、そちらにも名曲がたくさんあるのですが、初期の頃のファンキーな感じが好きです。最近また新メンバーが加入したりと再結成して、またファンキー&ふざけた(ちょっとエロ)感じになってるようで、まだCD買ってないので集めようと思っております。
歌詞じゃなくてCDのジャケットに書いてあった言葉をちょっと引用します。
「知らない間に私達はずっぽりと暮らしの中にうもれてしまいました。毎日はくり返され日々は続いてゆきます。〜中略〜、すべては続いてゆき、ただくり返すだけなのだと。でもこのくり返しを大切に守らなければなりません。もう皆さんはわかっているはずです。できる限りの力を出しきり、知恵をしぼって、ぼく達はこの続いてゆく生活を送らなければならないのです。」
超深くないですか。
なんか今コロナだったり、有名人の自殺だとか、暗いニュースが多くて辛くなってしまいます。良くも悪くも続いていく生活を、もっとのんびり考えたり、たまに真剣に考えたり、やっぱり考えなかったり。適当に考えつつ、でも大切な人だけは守っていこう、それが今の生活を生きていくヒントなんだ、という風に僕は解釈しました。この人の歌を聴いてるとそう思います。僕の中のデカルトは、浜崎貴司さんなんです。
それで辛くなっても、あれのことを考えてれば平和なんじゃないでしょうか。
あれって何?って、あれはあれじゃないですかね。
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