予言とかは信じない我
「真央、予言とか未来予知とか信じる?」
「予言? いや、信じたことはないし、これからも信じるつもりはないが」
前の世界では、予言師は時々来ては占い、我の事を最後の魔王だの、勇者に殺されるだの……。不吉な事しか言わないから大体追い払っていた。
凶兆ではなく吉兆の予言をしろ!! と言ってもあやつらうんともすんとも言わなかったからなぁ。
我は一度たりとも信じたことはない。
我には子どもがいなかったから、最後の魔王というのは当たっているかもしれない。とは思ったが、それもおかしい。
我には子どもがいなかったが、我は父が魔王であったから世襲で跡を継ぎ魔王になったわけではない。我らグレンダケイルの血筋は他の者たちよりも力にも
だから外れている……はず。
もう一つの予言は、勇者に殺されるだったか。
ああ、これも外れている。
勇者ではなく、配下の裏切りによって死んだらしいから。
これに関しては、未だに我は信じたくない気持ちの方が大きいが。
「そう、そうよね。あんた魔王だし。信じそうにもないし……」
「本当に、どうしたのだ沙羅。その……、前世の魔王とか勇者とかの話はもうしないようにと言ったのはお前ではないか? そんなことも忘れてしまったのか? 鳥頭か?」
「……ごめん」
我の軽口にも乗ってこない。
いつもだったら「誰が鳥頭よ! あんたと一緒にしないでよね! ぷんぷん!」みたいな返事のはずだ。ぷんぷんは言わないか。
これでは、我が沙羅をいじめているようではないか。
「……さっきの質問の後でこれを聞いても意味ないかもしれないけど、もうすぐ世界が滅びるって予言があったとしたら、信じる? さっきの口ぶりじゃ、信じないわよね?」
「そうだな、信じない」
「やっぱりそうよね……」
そこで、また沙羅は喋らなくなってしまった。
意味が分からん!!
なんなのだ!! イライラするではないか!!
「ええい、まだるっこしい!! 予言がどうかしたのか? 我が信じると言ったら、お前がそんな顔をしている理由を全部教えてくれるのか? 我で力になれる事ならなんでもする! だからその微妙な拷問を受けているような顔をやめろ」
「なによ、微妙な拷問って……」
口の端を少しだけ上げて、沙羅が笑う。
「顔の産毛を一本一本抜かれているような、いらんと言っているのにおかわりのわんこそばを入られ続けているような顔だ」
「おかわりのわんこそばって……」
「例えだ、例え!!」
少しだけ、沙羅の元気が出てきたように見えた。もう一息だ。
「お前が苦しんでいるのなら、我がなんでも解決してやろうではないか!!」
なぜかその一言で、沙羅は背景にゴゴゴゴゴゴゴゴと効果音が付きそうな鋭い瞳で我を射抜く。そのまま、さしている傘で我の心臓を突き刺しそうな瞳。
なんだかよく分からんが、調子が戻ってきたな。
「お前は、そうでなくてはな」
「えっ?」
「いつだって俺を殺してやるぞという、その力強い瞳がお前らしい。――誰に何を言われたか知らんが、グジグジと悩んで、お前らしくもない。予言だのなんだの、バカらしい話だ。未来を切り開けるのは、己だけだというのに。人の意見など知るものか。我は己で切り開く」
「……」
脇を通り過ぎる車が、水たまりの水を弾いてバシャバシャと音を立てる。
「で、予言とかさっきからボソボソ言ってるが、世界が滅びるとか言ったな。我は予言自体をばかばかしい話だと思っているから信じないが、お前は違うのだな?」
沙羅は一回目を固く瞑り顔を上げて、息をふうと吐き出した。
覚悟を決めた顔で、我に言う。
「その予言の回避の方法が、恐らくの域を出ないけど、誕生日まで真央が死なないことらしいのよ」
「えっ?」
――我が死ぬ?
世界の滅亡フラグは我が死ぬこと?
世界を征服もできずに? 流石の我でも今すぐ世界征服は流石に無理だと思っている。まずそもそも死ぬ気などなかったし。
本当に悔しいことだが、我の
――なんで?
多分、今まで生きてきて、一番間の抜けたあほ
これから甘酸っぱいラブでコメなやつ始めようと思ってたのに?
折角沙羅と付き合えたのに? コイビトカッコカリなのに?
我はちょっと力が強いだけの、ただの一般ピーポーにすぎないのに? 自分で言ってて悲しいが。
え、いやいや、だって……。
「なぜかは分からない。でもあんたが死なないように、嫌でも私は真央についてないといけない」
「」
嫌でもとか言われた。
「元勇者の私が、元魔王を死なせないように守るなんて暗い顔にもなるわよ」
「しかしそ――!!」
沙羅は我を肩に担いで、軽やかにステップを踏み5メートルくらいその場から下がった。
着地した際の、ぱしゃりと音を立てて水溜まりの弾ける音と、撥ねる水
降り注いでいる雨粒が、一瞬止まったかのように錯覚するほどのスピードだった。
移動の際に掛かったGと、担がれたことで腹が肩に押されて、朝食べたものを吐き出しそうになったが、ぎりぎり
ドガッシャーンと強烈な音が本来の進行方向、担がれている我の尻側から聞こえると、沙羅は我を濡れて黒く光るアスファルトの地面に降ろした。
振り返ると、今さっき我らがいたその場所に、ガードレールを突き破りトラックが突っ込んでいた。ぐしゃぐしゃになったトラック前方と、ぱらぱらと零れ落ちるコンクリート壁の一部。
さきほどの強烈な音の正体は、こいつか。
我がさしていた傘は、沙羅に抱えられた瞬間に手から放してしまったせいか、トラックの下敷きになっており、無残な姿のごみとなってしまっていた。
トラックの運転手席を覗き見る沙羅。
誰も、乗っていない。
――誰も乗っていない?
「……?」
「一本早い電車には、乗れそうもないわね」
沙羅の呟きに、我は呆然と立ちすくむしかなかった。
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