第6話・Informe(報告)

 ティオとの話を終えてジーナを待たせたままのカフェに戻ったウェルチを、ジーナは満足そうな笑みとともに迎えた。

 ジーナがそんな表情をしたのは、微かに頬を染めたままのウェルチがどこかすっきりとした顔をしていたからだろう。ウェルチが席に着くとその身を乗り出した。

「……で? どうだったの?」

「……うん、ちゃんと話せたと思う、よ?」

「なぁんか、歯切れが悪いわねぇ。おねーさんに話してごらんなさい」

 ジーナの言葉に、ウェルチは思わず噴き出した。

「おねーさんって……わたし達、同い年じゃない」

 けれど、あながち間違ってはいないのかもしれない。ウェルチの心の内をずばずばと言い当て背中を押してくれたジーナは、とても頼もしく見えた。姉がいたらこんな感じなのだろうかと思う時が、時々ある。

 そんなことを思いながら、ウェルチはさきほどの出来事をジーナに話す。

 相槌を打ちつつ話を聞いていたジーナは、事の顛末を聞き終えると呆れたようなため息をついた。

「……うん、まあそうよね。あんた達らしいほのぼの~な結末だわ」

 そう言ってから、ジーナは優しい笑みを浮かべる。

「……まあ、でも少しは前進出来たんじゃないの。よかったじゃない」

 周りから見たら呆れられるくらい小さな前進だ。けれど、小さくても一歩を踏み出せたことに意味があるのだと思う。

 少なくとも、今まで向き合うことすら避けてきたウェルチとティオにとっては、大きな変化だ。

「うん。ティオさんとお話出来て本当によかった。……ありがとう、ジーナ。わたしの背中押してくれて。……大好きよ」

 そう言うと、ジーナの頬がぼっと赤く染まる。

「そ、そういうことはティオに言いなさいよ! あたしに言ってどうするの!?」

「ジーナ、顔が真っ赤だよ。……もしかして、照れてるの?」

「ちっがーう! あんたがいきなりバカなことを言うから驚いただけよっ!!」

 さらに顔を赤くして否定するジーナからは、先ほどの頼りがいのあるお姉さんの空気はすっかりと抜け落ちていた。

「もう! ……で、ティオはあんたの答えが出るまで待っててくれるって言ったのよね?」

 ジーナの問いかけに、ウェルチはぽっと頬を染め頷く。

「うん。……ずっと待ってるから、いつでもいいよって。……わたし、ちゃんと答えだせるのかなぁ?」

 いきなり不安そうに眉を八の時にしかめるウェルチの額を、ジーナは再度指で弾いた。

「なっさけない顔しないの! そんなんじゃ出せる答えも出てこないわよ! ずっと待ってるって言ってんだから、待たせとけばいいじゃない。ティオの了解得てるんだから、あんたらしくゆっくりと答えを出せばいいのよ。ま、あんたのことだから答えを出すのに数か月とかかかったって仕方がないってティオも思ってるでしょ」

「うう~っ……」

 そんなことはない! と言い返せないのが、何だか悲しい。けれど、この調子では答えを出すのに本当に時間がかかりそうだ。

 ウェルチは弾かれた額をさすりつつ、ため息を一つ落とす。

「……でも、一年とかかかったらどうしよう……」

 自分で言っておいて何だが、十分にありえそうで怖い。だが、ジーナはあっさりと別にいいじゃないの、と言い切る。

「そもそもティオの片思い期間が十年近いんだから今更一年くらい増えたってどうってことないわよ」

 そうしてきっぱりはっきりと言われたジーナの言葉に、ウェルチは目を見開いた。

「じゅ、じゅうねん……?」

 ウェルチの反応に、ジーナは事もなげに頷く。

「そうよ~」

「それって、わたしがティオさんと初めて会った頃だよ!?」

「……そうね。それくらいの時から、ティオはあんたにあっつい視線を送ってたわよ?」

「う、うえええええええ!? う、嘘ぉぉぉぉ!?」

 驚愕の事実に動揺したウェルチの声が、青く澄んだ夏の空に響いた。

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