スクラッチアース そのⅡ

 港には、武炉の姿はなかった。呼び出しておいてどういうことだ? 俺は不思議に思ったが、その疑問はすぐに消えた。

「これは…」

 封筒が一通。中を開けると紙が一枚入っている。

「なになに…。そこの小型船に乗れ…」

 紙にはそれしか書いていない。港で戦うわけではないらしいが、俺は船舶免許なんて持ってないぞ? 第一どこに向かうって…。

「何だと! あそこに島なんて、なかったはずだ!」

 俺は地図を広げた。八丈島には左側に太平山があるが、方向は違う。

 だがそこに、島がある。

「武炉、お前の思惑が読めてきたぜ…」

 あの島は、武炉が戦いのために用意したのだろう。もっともどうやったかは知らないが…。そしてあの小型船に乗れば…。

 やはり。勝手に動き出した。テレキネシスか。俺が乗るのがトリガーになり、島に向かって進む。

「武炉なら何か、知っているはずだ。アイツはこんな大掛かりなことをしている。そんなことをする奴が、末端の一兵に過ぎないわけがない。必ず勝って、全て聞き出してやるぜ」

 俺はまだ戦ってもいないのに、勝った時のことを考えていた。


 やがて船は、武炉の島に着いた。俺が上陸すると、船は少し離れた。逃げることすら叶わないということか…。

「こんなところに呼び出しやがって、武炉! タダじゃあ帰さねえぜ!」

「今のうちに喚いていろ。この俺と満足に戦えるかどうかも怪しい分際が」

 偉そうな性格だ。コイツがやっぱり三人の内のリーダーか? だとしたら、相当強いだろう。

 俺はふと、疑問に思った。まだ超能力者は残っているんじゃないのか? ならばどうしてこのタイミングで、武炉が出てくる? 

 それとももう、超能力者がいない? だとしたら武炉の超能力は、記憶に関するものになるはずだが…。

「粒磨…貴様の超能力は水。この俺の超能力と比べれば、スケールが小さすぎる」

「じゃあお前の超能力は何なんだ、武炉? 敗北が怖くて教えられないのかよ?」

 俺が軽く煽った次の瞬間だった。俺の目の前の地面が、火を噴いた…!

「なにが起きた? な、なんだ今のは?」

 反射的に俺は、後ろに下がった。

 よく見ると、溶岩のような赤い物体が出ている。だがそれを見ても、何が起きているのか、武炉が何をしたのかが全く理解できない。

 マグマや溶岩を操る超能力なのか? だが地表付近にそれが常に存在するわけではないはずだ。

「武炉! 何をした? 答えろ!」

 情けないことに俺は、大声を出して武炉に聞いた。

「ワザとはずしてやった。次は当てる」

 コイツ…。こんなのが俺の体に当たろうものなら、一発で蒸発する。それは避けなければ。

「溶岩を操る…のか。確かに俺の水なんか、通じないだろうな。だが、相当無理してるんじゃねえのか? 普通に考えて溶岩なんて、初動が遅す…」

 遅すぎる。そう言い切る前に俺の足元の地面が少し、きしんだ。若干亀裂が入っている。


 これは、ヤバい!

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