愛し方


ロサンゼルスで仕事があったので藤木家とはフロリダで分かれた。コンドミニアムに戻り一人夕陽を眺める。

綺麗だ──子供達に見せてやりたかったな。




「これ以上はダメなの」




さくらさんの言葉が蘇る。

俺が欲しいものは何か?

勿論、さくらさんが欲しいけど、彼女はそれを望まないし、家族も悲しむだろう。

子供達を悲しませたくない。藤木さんには複雑だけど、さくらさんの大切な人だ。あの家族を壊したくない。だったら俺が引くしかないけど、それ以外に道はないのか?



側にいたい。それだけでいい。

さくらさんの幸せを守りたい。

俺に出来ることは、藤木さんの仕事をサポートして成功させることだ。





伊豆のヴィラでのことを思い返す。

あの時のさくらさんは間違いなく俺を求めていた。

体だけではなく全てを愛してくれていた。

いつもはぐらかされていたけど肌を重ねてはっきりと解った。



「リツさんを愛してる」



その言葉だけで生きていける。



さくらさんは俺に『人の愛し方』を教えてくれたんだと思う。

それまでの俺がしてきたことは、男女の関係は持つけど、面倒になれば切り捨てる。綺麗な女を連れて見栄を張り、パワーゲームに勝つための道具にしていた。女達もそうだった。俺の顔と金と肩書きにしか興味がなかった。


さくらさんは違った。

仕事のことは一切聞かなかったし、バッグやアクセサリーをねだったり、インスタの写真を撮ったりしなかった。二人で同じものを食べて「おいしいね」って言い合ったり、好きな音楽を聴きあったり、何が好きとか、どんなことが楽しいとか、いろんな話をして



俺自身を見てくれた。



そのことが、こんなにも心地よく安らげるなんて知らなかった。仕事で認められるのとは違う、何も持たない俺を丸ごと包み込んでくれるさくらさんに、俺は甘えていたんだ。

だから俺も、さくらさんを丸ごと包み込みたいと思う。藤木さんの奥さんで、子供達のお母さんであるさくらさんの幸せを守りたい。



愛していたい。

これからも。

想うだけならいいよね?

俺の感情が俺の理性を許すまで……

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