第93話 屑と女騎士【閉幕】
時計の針が動き出す――――
「私は騎士になりたくて幼い頃から剣を振り続けてきた。やがて夢にまで見た騎士になり、白薔薇騎士団の副隊長まで任された。しかもパトリシア王女を守って勲章を頂いた。けれども、私は騎士としては失格だ……主を守って命を失うのは騎士の誉れだ。なのに私と来たら、身体が蝕ばまれていくごとに黒い気持ちが溢れてくるのだ」
テレサは俺に身体を預けてくる……
「死ぬのが怖いんだ……。万が一助かったところで、こんな
テレサは俺の身体に顔を埋め、必死で涙をこらえていた。この若さでここまで上り詰めるのは並大抵の努力でなければ、たどり着くことは出来なかったであろう。自分に置き換えれば、学生時代は遊びほうけていたし、社会人になっても、なんの目標もなくただ一日を過ぎ去るのを待っていたに過ぎない。
「おっちゃん……じにだくないよ……」
俺の胸にすがって嗚咽する。そんな彼女の身体からは死の香りが漂ってきた。
俺は知っている。胸の中の
胸の中の秘薬を売れば、生まれ変わりを三回繰り返しても、豪遊出来るぐらいのお金が手に入る。彼女を見捨てて後悔するのは一瞬だけだ。大きな後悔は時間と共に小さな後悔となり、やがて後悔は幸せに上書きされ消えていく。そして贅沢な生活を続けるうちに、テレサの顔など直ぐに忘れることを――
泣き崩れる彼女の頭を優しくさすり、そのまま病室から出て行くだけで、誰も傷つけることもなく俺は幸せになれる。
俺は知っている。糞みたいな異世界でつかんだ幸せを――
「おっちゃんはな、人生で一回だけ魔法が使えるのよ」
そう言って、テレサのあごを左手で持ち上げる。そして、震える彼女の唇にそっと触れた。
テレサの口に生暖かい液体が流れ込んできた。その液体が身体全体に広がっていくのが分かる。身体が熱をあびる……傷口が発する熱さとは全く違う。おっちゃんに抱かれながら、膿んだ傷口から漂うツンとする臭いから、生命の息吹の匂いに変わった。
身体の痛みが消え去った。おっちゃんは私に巻かれた包帯を、頭からゆっくりと剥がしていた。顔を触るとごつごつした肌の感じが全くしない、触った手を見ると紫色に黒ずんでいたはずの指先が、元の肌の色に戻っていた。腕の包帯が巻き取られていくと、その肌は……
テレサは備え付けの鏡に恐る恐る近づいた。鏡に映る自分の姿は以前の輝きを取り戻していた。一つだけ違うところは、短く切られた髪が肩までしか伸びていなかっただけであった。
「おっちゃん、おかしいところはないだろうか?」
「ああ、お前のロケット型の胸も完璧な仕上がりだよ」
包帯を全部剥がされ、真っ裸な姿をおっちゃんに晒している。
「うわぁ~~~~~見るな!!」
テレサは胸を隠して縮こまり、おしり丸出しの姿はエロかった。
彼女の叫び声を聞いて、レイラたちが飛び込んでくるのまで、あと少しの時間しか残っていない。
果たして俺は無罪なのだろうか――
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