第18話 再会

 家の扉を開こうとするが鍵が掛かって開かない。もう一度、鍵を回すとガチャリと音がして扉が開いた。


「遅いじゃないか」


 部屋の中にはレイラが居た……。彼女の顔を見て頭を抱えそうになったが冷静さを装い


「どうして部屋に入れた?」 


「鍵が開いてたからだな」


 まあ、至極当たり前の答えが彼女から返ってきた。この世界に来てから防犯意識は最大限に上げているつもりだった。特に施錠という基本的なことは、日本に住んでいた際も忘れたことなどなかった。


「お腹空いてんだから、早く風呂に入れ」


 家主の二番風呂にもう突っ込む気も失せ、仕事の疲れを落としにさっさと風呂に入る。湯船に浸かりながら、風呂より先に飯を作れと言われないだけましかと変に納得をした。


 火照ったからだを冷やしたかったが、雛鳥が五月蠅く鳴きそうなのでキッチンに向かう。


 レイラが座っているテーブルを抜け、キッチンに行く途中に違和感を感じた。


 違和感ではないです!! 亜麻色の髪の毛をした中学生ぐらいの女……もとい冒険者のルリがレイラの正前の椅子にちょこりと座っていた。


「おま、おま、おまえが何故ここにいる!?」


「おっちゃんがここに住んでると聞いて……部屋で待ってた」 


  彼女はそう言うと椅子から立ち上がり、俺の腰に小さな手を回して抱きついてきた。


 パーティー内で虐められて、逃げてきたかと心配したがそうではなく安心した。彼女が前の住居に俺が居なくて探していたらしい。この世界で自分を探してくれる人がいたと思うと少し涙が出た。


「部屋には鍵が掛かってなかったか?」


「自分で開けた」


「ハァ!?」


 彼女の言っていることが理解できずに困惑する……。


「仲間のドリスちゃんに解錠の仕方習った」


 突っ込み満載の会話を隣で聞いていた雛鳥が、膝を叩きながら爆笑していた。


 揚げ物を準備する気にもなれず、鍋にケチャップとソースと鶏ガラだしをベースに、刻んで叩いた挽肉とタマネギを入れて煮込んだ、なんちゃってミートソースを作る。ソースさえあれば、パスタを追加すればお代わりにもすぐに対応できるので、自分の中では簡単レシピ。麺をゆでながら、学生時代にお金が無くて、塩パスタばかり食べていたこと思い出す。


「このパスタうめえなぁ」


「う~美味しいです」


「秘密の調味料を加えているからな」


 天才料理人気取りで答える。レイラは案の定、口の周りを真っ赤に汚しながらパスタを頬張る。それとは対照的に、フォークの先でクルクルとパスタを小さく巻き上げ上品に食べるルリ。どちらの皿も大盛りにしたにも拘らず、あっという間に消えてしまう。追加のパスタを茹でながら年の差を感じてしまう。


 お腹が満たされたので冷蔵庫からデザートを取り出す。ルリには特別可愛いお皿の上にプリンを乗せて出してあげた。レイラには冷やした容器ごと出したらジト目で睨まれた。どうせお前は二口ぐらいで食べるから、皿を汚すだけ無駄という目で返事をしたらきちんと伝わった。


 ルリは皿に乗っかったプリンを不思議そうに見ている。そして恐る恐るスプーンですくい取り一口食べた。目をつぶり首を左右に振り、喉から『ん~~ん♪』という声を出す。


 そう、これだよこの反応だよ! ジジババに食べさしたときも、残念美人が食べたときも――俺はこういう反応を待ってたのよ!


 ルリはプリンの甘さを噛みしめながらあっという間に完食し、無くなった皿をジッと見つめた。


「ほら、俺の分!」


 俺のプリンをルリにあげた。隣でウーと唸る動物がいたので、冷蔵庫からアイスを出したら鳴きやんだ。  


 夜もだいぶ更けたのでルリを家に帰すことも出来ず、仕方なく隣の部屋に寝床を作ってやった。俺も疲れて直ぐにベッドに入る。天井を見ながら、彼女と元いたパーティーのメンバーことを懐かしく思い出す。布団の中で良い気分に浸っていると枕を顔に被せられた。


 枕をどけるとニシシと笑うレイラが居た。彼女は俺に抱きつき顔を近づける……甘いキスを交わし、舌と舌が混じり合う。口元から唾液がこぼれ落ちる。彼女の豊満な胸をそっとなでながらスキンシップを楽しむ。最後までしないことがいつの間にか二人の中でルールになり、その枷が彼女を大胆にさせる。突然、彼女の動きが止まりそのままベットから転げ落ちた。あまりにもな出来事に唖然とすると、小さな身体ルリが布団に潜り込んできた。


 亜麻色の髪の毛が胸に埋もれてくすぐったい。頭を撫でながら優しく抱きしめる。上目遣いで俺を見つめ、小さな口で耳を甘噛みしてくる。法力で動けないレイラの前で、ルリが悪戯をしかけてくる背徳感が堪らない……。俺はムッチリとした太ももの内側をさすると「くん」と可愛い声が漏れる。ルリの法力がようやく解け、ヤレヤレという顔でレイラが俺の顔を覗き込み、もう一度ベッドに入ってきた。


 若い二人の匂いに包まれ俺は目を閉じる……。

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