宇宙彷徨記
山南修
第1話 出航
人類が宇宙に進出しはや千年。千年前、ある政治家が宇宙はフロンティアでありフロンティアが存在する限り人類は進化すると言った。当時の人々は希望に満ち溢れていた。しかし、今はどうだろうか。広がり過ぎた人類圏は個々の繋がりを薄くし、人間という同族である意識を下げることになる。ある場所で極度に資本主義に偏れば無秩序な開拓が行われ収益が悪化すると開拓地にいる
*
A.D.3501 7/16 連邦宙域辺境
辺境の寂れたステーションに有る船が近づいていく。ドッキングリクエストを船が送信しステーションはそれを受け入れ誘導ビーコンを作動させる。このステーションは幸運な方だ。比較的近くに連邦政治家を産出した惑星があったため辛うじて連邦いう枠組みに入れた。お陰で孤立せずに連邦のネットワークや航路に取り込まれている。ただ、辺境なのは変わらず訪れる者は殆どいない。
誘導ビーコン通りにドッキングパットに降りる船を見て初老の管制官は訝しんだ。こんな辺境に定期船以外が来ることは珍しくなおかつそれが民間船のコードを出す連邦の偵察艦であればいっそう怪しく感じた。船側から補給要請があった水素供給システムと船の燃料タンクを接続する。パット傍のアームが船の給油ノズルと接続され、同時にドッキングチューブが船のエアロックに繋がった。一体どんな者が操縦しているのだろうと疑問に思い監視カメラを見ていると若い蒼銀髪の女性だった。彼女は規定にある通り市民カードを見せるため管制官の元に向かってくる。窓口に立つと
「ステラ・ソリチュードだ」
といい、市民カードを出した。
女性にしては背が高い彼女の言った通りStella Solitudeと名前が書いてあり、認識番号もあっている。この連邦偵察艦はサルベージしたものらしく〈
「ここに訪れたは?」
興味が湧いたのでカードを返しつつ聞くと
「補給だ」
といい、小さい商業区画に向かっていった。随分淡白だなと思い要請された仕事をするのであった。
*
私は自慢じゃないが足は速い。走る速度自体はそんなんでも無いが歩く速度とそのペースの維持においては同期では一番だった。そんなことを考えつつ商業区画に向かう。辺境らしく最低限の情報センターを商店しかない。まあ、これが無ければわざわざこんなところで立ち寄ったりはしないのだが。定期船が来たばかりなのか僅かな利用客すらいない。これは好都合と私はーこれで最後にあるであろうー最終寄港日から今日までの新聞データと面白そうな電子書籍、流れ着いた古本、私の好物であるフィッシュアンドチップスを買いー紅茶もあったが見るからに不味そうなのでやめたー商業区画を後にした。船に帰る途中人っ子一人いない通路の窓から私の愛しい
「補給と補修は完了しました」
そう言ってくる管制官にチップを多目に渡す。
「当局が公開してない情報なんですが、この先は最近海賊が根城を築いたという噂がありますよ」
抜け目ない管制官はチップを取りつつニュースでは流れない情報を述べる。
「それはどうも」
追加でチップを置き、窓口を後にする。海賊か、少し迂回しようと考えつつ私はドッキングチューブに入る前で振り返り
「さらば人類圏、もう会うことは二度とないだろう」
そう言い残し、船へと入った。エアロックを閉めすぐ隣の艦橋に入る。
「おかえりなさい。ソリチュード」
私の目の前に人、いやアンドロイドが現れる。
「アマリア、状態は?」
「燃料100%、バッテリー充電率100%、船体塗装及び補修は全て完了です。武装エネルギーは長期保存モードで維持しています」
この船のメインコンピュータ、アマリアだ。彼女はこの船の中央電算室の中に本体がありこの義体は一種の端末なようなものである。
「ならば直ぐに出航しよう」
操縦席に座りつつ指示する。操縦席に備え付けられたホログラムが立ち上がり船の状態や3次元レーダーと光学観測の結果、チャートなどが表示される。
「発進リクエスト送信、機関始動、ケーブル切断、機関正常、重力制御システム正常稼働、メイン推進器始動、発進リクエスト承諾されました、メイン推進器出力安定、出航可能です」
アマリアが淡々と報告する。その一つ一つを聞く度に
心が舞い上がり最後のは待ちわびた言葉だ。
「さあ、行こう無限の大宇宙へ。〈エタニティートレッカー〉出航!」
ドッキングが解除されエ〈タニティートレッカー〉は上昇する。
「着陸脚収容、管制官より『幸運ヲ』」
「もう会うことはないだろうと返しておけ」
《エタニティートレッカー》はステーションから真っ直ぐ離れる進路を取り加速していく。
「マスロック解除、FTL機関始動」
ステーションの重力圏を離脱し超高速航法であるFTL航法に移行する。
「速度を巡航速度からFTL始動速度まで加速」
〈エタニティートレッカー〉のメイン推進器の輝きが増し、慣性制御システムが殺しきれない加速でステラは座席に押し付けられる。加速に伴い後ろにあったステーションはあっという間に小さくなりメイン推進器が残した航跡だけが後には残る。
「FTL速度到達、FTL航法に移行する」
「了解。秒読み入ります。5、4」
徐々に星が流れ、青い光が船体を取り巻き始める。
「3、2」
横からの光は届かなくなり正面の光はより青く見える。
「1」
正面の光も真正面の極わずかな円以外見えなくなり船が振動し始める。
「0」
ドォンという大きな音とともに船が揺れる。次の瞬間、船は亜空間フィールドに取り囲まれFTL航法に移行した。
「FTL航法移行完了。進路214-56へ変更してください」
「わかった、面舵72、上げ舵36」
私は進路を変えた後立ち上がり、背伸びをした。
「ふう、人類圏最後のティータイムを満喫してくる。自動航法システム起動。星系外縁までは最大加速で、その後星間巡航速度で航行しておけ」
「了解」
アマリアに指示を出すと艦橋後ろのエレベーターに入り生活フロアである第五甲板まで下がる。この船は6層の船体と1層の艦橋構造から成り立っていて1人で生活するには充分過ぎるほど大きい。そのお陰で部屋の一室を紅茶室として紅茶の保管庫になっている。私はそこからTanmark星系産の最高級紅茶を取り出す。紅茶用の水再生成装置からの水をティーポットに入れ茶葉を適量入れる。ティーカップに熱湯を入れ冷蔵庫からスライスレモンを取り出す。紅茶を熱湯で温めたティーカップに入れその上にスライスレモンを浮かべ砂糖を少量入れた。出来た紅茶を持ち隣の部屋に行く。窓、と言ってもホログラム窓だがに近い椅子に腰を掛け紅茶を嗜む。酒好きがアルコールで恍惚なさまになるように、ステラも紅茶に酔う。
「さらば人類よ。勝手に滅んでるがいい」
そう口走った私の口先が自然に上がるのを感じた。
ステラ・ソリチュードはこの先の航海を考えつつ、人類圏に永遠の別れを告げるのであった。
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