第4話 揺るがない離婚の決心

6時に見覚ましが鳴った。セットを外すことを忘れていたとおじさんがとんできた。まだ暗いけど、今日は朝から晴れている。冬の冷たい雨は上がっていた。


「おはよう、しばらくそのままにしていて、朝食を作るから」


「私がします」


「いいから、休んでいるといい」


あの時のように、おじさんは朝食の準備をしてくれた。準備をするおじさんはどことなく嬉しそうで張り切っているようにも見える。


受け入れてもらえたんだ。嬉しかった。おじさんは今でも私のことを好いてくれている。よかった。昨夜の心配が消えた。


おじさんは準備ができたと私を呼んでくれる。


「いつも同じ朝食で悪いね」


「懐かしい食器ですね」


おじさんの作ってくれた朝食を久しぶりに味わう。


「未希は戻って彼とやり直す気はないのか?」


「もう何回かはやり直そうとしましたが、同じことでした。もうやり直せません。別れます」


「そうか、しかたないか」


私の決心は堅かった。私はいままで大事な時には自分で考えて決めてきた。だから、これまでのことも後悔はしていない。


チーフとの結婚を決める時も後悔しないと決めてきた。あの時はそれがベストと思えた。


それにいろいろなことが分かった。それを今後に生かせればいいと思えるようになっている。


やり直すことも別れることも自分でよく考えてこれがベストだと思う方に決める。そして今度は彼とは別れることを決心した。


決めた以上、後悔はしない。その時その時でベストだと考えたことに決めるだけだと思っている。これまでの経験からそんな考え方になっている。


「それでこれからどうする。家出したのなら、衣食住を確保しなければならないけど」


「銀行のキャッシュカードは持っているから、お金は引き出せる。健康保険証もある。携帯もある」


「それなら、俺は今日、休暇を取って、衣食住を確保する力になろう。この週末の3日間でなんとかしよう」


「ありがとう。心強いです」


「預金はいくらぐらいある?」


「私の口座に100万円ぐらい。彼が勝手に引き出しているから残額は分かりません」


「離婚するとなると、俺のところで同居していてはいけない。どこかを借りた方が良い。あとでオーナーに部屋が空いていないか聞いてあげる。未希が住むと言えば割引してくれるかもしれない」


朝食を食べ終えたので、今度は私が後片付けをしてあげる。おじさんはあの頃を思い出しているのだろうか? 後片付けをしている私をジッと見ている。


あのころと同じとても穏やかな優しい目だ。これからもこんな優しい目に見守られて暮らしていけたらと思った。


それから二人でオーナーのところへ部屋が空いていないか聞きに行った。オーナーは私と久しぶりに会ってとても喜んでくれた。


そして部屋の相談をすると事故物件があるので良かったら入ってみないかと言ってくれた。


半年前に3階の4号室の高齢の住人が亡くなって1週間後に発見されて、事故物件になったとのことだった。


ずっと借り手が見つからないので家賃は半額の4万円でいいと言う。私はその場で借りることに決めた。


キャッシュコーナーから現金を引き出す。通帳と印鑑は手元にないが、カードはいつも財布に入れていた。


すでに20万円が使われていた。彼が引き出して使った額だ。幸いまだ80万円位は残っている。


残金をすべて引き出そうとするが、カードでは1日50万円しか引き出せない。それでもこれだけあれば当分の間、生活するのには十分ある。私は貯金が大切なのが今実感して分かった。


今後のこともあるので、おじさんは医者で青あざの診断書を取っておくことを勧めた。それで二人して近くの整形外科の医院に診察してもらいに行った。


そして写真を撮って診断書を書いてもらった。これはこの後の離婚訴訟などで重要な証拠になるとおじさんが言った。


それから、ユニクロに着替えを買いに行った。戻って私は着替えをした。


そして、おじさんの部屋からバケツと雑巾と掃除機を持って行って、借りた部屋を二人で掃除した。


ルームクリーナーが入って前の住人の痕跡は何もなかったけど、随分とほこりが溜まっていた。おじさんの部屋が近いと何かと便利だ。


部屋がきれいになると、今度は家電量販店へ行って、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、炊飯器、テレビを買った。


それから、総合スーパーへ行って布団を1組注文した。また、ベランダのガラス戸にカーテンを買った。


安売りの家具専門店へ行って、食器棚、整理ダンス、テーブルと椅子、座卓、ソファーを購入した。


私はおじさんの部屋にあるものはすべてそろえたかった。そして調理器具をひととおり買いそろえた。食器はすべて2つずつ買った。


日曜の3時ごろまでには家財道具がある程度揃った。布団も届いたのでこれで私は自分の部屋で寝られる。


1週間以内には注文したものがすべてそろう。これもおじさんのお陰だ。


おじさんの部屋に二人で戻ってきて、コーヒーを飲んで一休みする。少し疲れた。


「ありがとう。これで、一人で生活できるようになりました」


「よかった。これで本当に自立だね。費用も全部自分で払えたから」


「これからもよろしくお願いします」


「俺はいつまでも未希の保護者だからサポートすると約束しよう。これから食事に行こう。自立のお祝いというのもなんだが、例のレストランでどうだ」


「嬉しいです」


私は嬉しいと言ったが、おじさんも嬉しそうだった。私はおじさんのところへ戻ってきた。そしておじさんは優しく受け入れてくれた。


でもそれに甘えてはいけないと分かっている。私は好いてくれていたおじさんの気持ちを考えないで結婚してしまった。


都合が悪くなったから戻ってきて優しくしてもらうというのは虫が良すぎる。でも私はおじさんの気持ちを大切にして、この先も一緒にいたい、そばにいたいと思った。

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