第13話 自立のお祝いをしてくれた!
銀行へ行った帰り道におじさんは洒落たイタリアレストランがあるのを見つけた。Openは6時と書いてあった。まだ3時を少し過ぎたばかりだったけど「未希に自立できたお祝いにここで夕食をごちそうしてやろう」と言ってくれた。おじさんは店の電話番号を携帯に入れていた。
ゆっくり歩いてアパートに着くともう4時になっていた。おじさんはレストランに電話して6時に2名予約してくれた。私が来てから2人で外食したのはマックだけだった。おじさんは何を思ったのか食事をご馳走してくれるという。せっかくだからご馳走になろう。イタリアンレストランで何が食べられるのか楽しみだった。
6時少し前に電車に乗って洗足池の二駅向こうの雪谷大塚で降りた。店に入ると窓際の席に案内された。
「今日は自立のお祝いだ。遠慮するな」
「ありがとう」
「礼はいらない。これで心置きなく未希を抱けるから」
幸いまだ店にはほかの客はいないけど、おじさんは小さな声で話をする。やっぱり私がまだ17歳なので後ろめたいのかなと思う。
「家出した訳は大体未希の父親から想像できるが、学校はどうして行かなくなったんだ?」
丁度、料理が運ばれて来た。食べながら話をする。
「行けなくなって、止めました」
「いつ止めた?」
「今年の7月ごろから」
「3年生になってからか?」
「4月に母が急死したんです。疲れが溜まっていたんだと思います」
「今年亡くなったのは聞いたが」
「働いているところで倒れて、救急車で運ばれたけどだめでした」
「収入がなくなった?」
「母が一生懸命に働いて私を高校へ行かせてくれていました。父は定職につかず仕事をいつも変わっていましたから」
「そういえば、そんな感じだったな」
「お葬式をして暫くしたら、段々お金が無くなってきたみたいで、毎日の生活費が無くて、私はコンビニでアルバイトを始めました。それでなんとか食べることぐらいはできていました」
「それで」
「11月のお給料を父がお金を無断で持ち出して遊びに行ってしまいました。それで」
「それで家出をした?」
私は話をしているうちに思い出して泣いてしまった。
「そういう事情だったのか。未希も苦労しているなあ。あんな親父さんと離れてよかったな」
「私にはどうすることもできませんでした」
「余計なことを聞いてしまったな、それより今日はお祝いだ。食べよう。折角の飯がまずくなる」
私は気を取りなおして、料理を食べる。おいしい。おじさんの視線を感じて目をあげるとおじさんと目が合った。おじさんが喜ぶと思ったから、私はニコッと笑ってみせた。
「学校のこと、差し出がましいようだけど、元の学校の先生に相談したらどうかな?」
「うーん、石田先生なら相談にのってくれるかもしれないけど」
「石田先生って?」
「私の2年生の時の担任で、3年生の時も担任になった」
「俺も付いて行ってやるから、一度会って相談してみたらいい。俺にはどうしたらいいか知恵がない」
「ずっと、行っていないから、相談にのってくれるか分からないけど」
「それなら、俺が頼んでやる。学校名は?」
「都立大田高校です」
「明日、会社から電話して都合を聞いてあげる」
おじさんの好意を素直に受け入れることにした。できれば学校に行きたい。生活のために学校に行けなくなったのは今も残念に思っている。私のことを心配して気にかけてくれているのが嬉しかった。
ここのところおじさんは随分私に優しくなったように思う。父から50万円で私を買ったと聞いたころからだ。私について責任を感じたから? そうだとしたら、おじさんは結構いい人かもしれない。
でも、寝るときのおじさんは別人みたいに私を思いどおりにしている。私はそんなことにはもう慣れて、なすがままになっている。これで安定した生活ができるならそれでいい。
次の日、おじさんは8時過ぎにアパートに帰ってきた。私は食事を終えてテレビを見ていた。
「食事は済んだのか?」
「うん、おじさんは?」
「これから食べるところだ。お湯を沸かしてくれないか?」
「いいよ」
おじさんは缶ビールを飲みながら買ってきたお弁当を食べ始める。
「石田先生と連絡が付いた。女の先生なんだ。25日月曜日の午後4時に会って相談にのってくれるそうだ。行くだろう? 俺から後でオーナーに電話で理由を話して、来週の月曜日の3時以降は休ませてもらえるように頼んでやろう」
「分かった。一緒に行ってくれるの?」
「俺が付いて行って聞いてやるから、その方がいい」
「ありがとう」
「それから、大事なことだから言っておくが、俺と未希には身体の関係はないことにしておく。そういうことにしておかないと面倒なことになるから、いいね」
「分かっている。そんなことになったら私も困る」
おじさんは本気だ。私と一緒に学校へ相談に行ってくれることになった。その夜は私の方からおじさんに抱きついた。おじさんは嬉しそうに私を可愛がってくれた。私はその夜初めて快感を覚えた。
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