第10話 同居のための書類が揃った!

私は下のコンビニでアルバイトを始めた。朝9時から夜7時まで。以前にしていたことがあったので、大よそのことは分かっている。ただ、コンビニもいくつかあるので少しずつ違っているけど、基本的に仕事の中身は同じだ。


店のオーナーはアパートのオーナーでもある。もう70歳は過ぎている年のようだけど、私に丁寧に仕事を教えてくれた。丁度私と同じくらいの孫がいるそうだ。アルバイトが他に4~5人いて、シフト制になっている。


久しぶりに働いたので疲れた。丁度7時にアルバイトを終えて部屋に戻ってきた。期限が近づいた弁当とケーキをオーナーが半額にしてくれた。おじさんは相変わらず毎日千円くれるので、財布の中にお金が貯まっていくのが嬉しい。


いつもより遅く10時を過ぎておじさんが会社から帰ってきた。


「今日、親父さんから連絡が入った。頼んだものを準備しているそうだ。国民健康保険料の支払いが滞っているので未払い分を払わないと新しく未希の保険証を作れないと言われたというので、さっき10万円を先払いして渡してきた」


私は話を聞いているだけだった。おじさんがやりたいようにすればいいと思っている。おじさんの言うとおりにしていればここにおいてもらえる。おじさんは約束を守るので、安心していられる。


金曜日の夜に父から頼まれたものがそろったとの連絡があったとかで、土曜の朝9時過ぎにおじさんは父に会いに品川駅に行くと言って出かけた。私はコンビニで9時から働いている。


お昼を過ぎたころに、おじさんが戻ってきて、私のお昼休みの時間を聞いた。一緒に食べようと言って、お寿司の詰め合わせを買っていった。午後1時に私も新製品のお弁当を買って部屋に戻った。おじさんはソファーでテレビを見ていた。


「一緒に食うか? お湯を沸かしたらお茶を入れてくれ。うまくいった。まずは飯をくってからだ」


私がお茶を入れるとおじさんはお腹が空いているのか黙ってお寿司を食べ始めた。私も黙って食べ始める。食べ終わるとおじさんの容器も片付ける。


おじさんは「これで同居するのに必要なものはそろった」と預金通帳、カード、印鑑、保険証を私に渡してくれた。私はすぐにそれらを整理ダンスの自分の引出しにしまった。それから父の書いた同居の同意書も見せてくれた。


「親父さんに未希の荷物をまとめておくように頼んでおいた。後で引越し屋に頼んで取ってきてもらうようにするから」


「ありがとう。お金がたくさんかかったでしょう」


「締めて50万円だ」


「私が身体で返せばいいんでしょうか?」


「そうだな、それでいい。ただし、絶対に誰にも話すな! 未希は17歳だ。これがばれると俺は捕まって刑務所行きになるかもしれない。そうすれば同居もできなくなる」


おじさんはきつい調子でそう言った。私もそうなっては困る。


「誰にも話しません」


「近くの区の特別出張所があるから、転入届と保険証の住所変更などの手続きをしよう。シフトは土日以外ではいつが空いている?」


「今度の火曜日の午後が開いています」


「それなら、火曜の午後に休暇を取るから、一緒に行こう」


「分かった」


「今日の夕飯は俺が作るから一緒に食べよう。弁当は買わなくていいから。何時に終わる?」


「8時」


「準備しておくから」


もう2時になっていた。私は下へ降りていく。おじさんはああ見えてしっかりしている。やることはやってくれる。このまま同居させてくれるのは間違いない。私に50万円も使うなんて信じられないけど、おじさんは私を思いどおりにしたいみたい。それなら、それでいい。もう慣れた。


丁度8時に部屋に戻ってきた。夕食の献立は野菜炒めだった。テーブルに料理がならんでいて、出来上がったばかりに見えた。


「いいところに帰って来たな。丁度できたところだ。疲れたか? 無理するなよ」


「うん、少し疲れた。夕飯ありがとう」


「すぐに食べよう」


私はお腹が空いていたので、すぐに食べ始める。なかなかおいしい。いつもながら、おじさんは味付けが上手い。二人無言で食べ終えた。


後片付けは私がした。おじさんは「疲れているだろうから俺がする」といってくれたが、それこそ申し訳ないと私がすぐに洗い終えた。


「明日は昼のシフトだから、大丈夫です」


「じゃあ、今夜はゆっくりできるな」


「うん」


おじさんのお世話になっているのだから、好きなようにさせてあげようと、私は答えた。おじさんは私が初めて答えたので私の顔をじっと見ていた。


お風呂から上がったおじさんは私をベッドで待っていた。私はバスタオルを身体に巻いてベッドまでくるとその横に座った。そしておじさんに身体を寄せて預けた。


「どうしたんだ、今日は?」とおじさんが言うので、抱きついた。おじさんは今までにない私に驚いていた。


今日もおじさんはしたいことをした。はじめのころはいやでいやでたまらなかったが、このごろは慣れてきたせいか、ゆとりができてきた。それもあって、おじさんの方を向いて寝た。


おじさんの顔をはじめて近くでしっかりと見た。おじさんもいつもは背中を向けて寝る私を不思議に思ったみたいだった。よくみるとイケメンとは言わないまでも整った顔立ちをしている。このままずっとここにいるのも悪くないと思えてきた。おじさんが私をジッと見ているので目をそらしたけど、これまでよりもずっと優しい目だった。


「どうした」


「ありがとう」


「気にするな、このとおり身体で返してもらっている」


おじさんは照れたのか、そっけない返事をして私を抱きしめた。私は頷いてそのままおじさんの腕の中で眠ってしまった。

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