冬の雨が上がる時

登夢

第1部 家出・同居編

第1話 初冬の雨の夜の出会いからそれは始まった!

五反田駅から池上線に乗った。夕方から雨が降り出していた。初冬の雨は冷たいからいやだ。今日は12月1日のはずだ。着の身着のままで飛び出してきたから上着も着てこなかった。寒いし、財布の中にはもう小銭しかない。


暗くなってきたので、地下の駅を選んで降りた。長原駅。ここなら、雨も当らないし、風も凌げる。しばらくここで休んでいることにした。でもベンチがないから立っているしかない。


電車が来るたびに大勢の人が降りていく。帰れる家があっていいなと思って見ている。私はあの家にはもう帰りたくない。


今日の朝のことだった。父が私の机の引き出しに入れておいた家計のお金を勝手に持ち出したことが分かった。先月の末にアルバイトで貰ったお金だった。それだけでひと月の生活費に充てなければならなかった。


父に問いただしても「知らない」の一点張り。苦労して稼いだお金をどうせお酒かパチンコに使ったのだろう。文句を言ったら殴られて蹴とばされた。いたたまれなくなって、家を出てきた。もう一緒に暮らしていけない。


どうしよう、行くところもお金もない。外は冷たい雨が降っている。でも、ここにいてもどうにもならない。電車が来たのでまた乗った。確か次の駅は洗足池駅、公園の前だ。公園に行けば、雨露が凌げる場所があるかもしれない。


電車を降りて駅前に立っても、相変わらず雨が降り続いている。電車が着くたびに大勢の人が急ぎ足で家に向かう。


それを見ていると男の人が近づいてきて声をかけられた。


「どうしたの? 誰かを持っているの?」


「いいえ、行くところがないので」


「家出?」


普通の30過ぎのおじさんだった。イケメンと言うほどではないが、どこか精悍な感じのする人だ。私は何とかなるかもしれないと思って、頷いた。


「うちへ来ないか?」


「泊めてくれますか?」


「条件によるけど」


私はもうどうでもなれと思って、周りに聞かれないように小さな声で答えた。


「したいようにしてもいいです」


「歳は?」


「18です」


「じゃあ、うちへおいで」


歳を聞いたのは、18歳未満だと淫行になることを知っているからだと思った。それでとっさに18歳と答えた。おじさんはすぐに手を引いて歩き出した。もうこれしかないとついていった。


おじさんの住まいは意外と近かった。歩いて3分の駅前の5階建てのアパートで、ここの4階だという。駅前だけど築年が古いのがすぐに分かった。


1階のコンビニでお弁当を買う。何がいいかと聞かれたけど、何でもいいと答えた。お腹が空いてとにかく何か食べたかった。


おじさんとコンビニのオーナーは顔見知りで、売れ残っている弁当を2個買って、値引きしてもらっていた。このアパートのオーナーでもあるらしい。おじさんは相当な倹約家みたいだ。


おじさんが部屋の鍵を開けている。戻るのなら今だけど、もう覚悟はできている。おじさんの後について部屋に入る。


誰もいなかった部屋は冷え冷えしている。おじさんは部屋に入るとすぐにエアコンのスイッチを入れた。部屋の造りは2DKで、ウナギの寝床のようにダイニングキッチンに6畳の部屋が二つ長く続いている。時計が9時半を指していた。


おじさんはお湯を沸かしている。促されてダイニングのテーブルについた。


「弁当食べる?」


私が頷くと弁当を電子レンジで温めてくれた。幕の内弁当だった。お腹が空いているのですぐに食べ始めた。おじさんも隣で缶ビールを飲みながら弁当を食べ始めている。


お湯が沸いたのでお茶を入れてくれた。弁当はすぐに食べ終えた。お茶を飲むとようやく一息ついた。おじさんがカバンの中を探している。お菓子が2個でてきた。1つを私にくれた。おじさんはもう食べている。


「おいしいから食べてみて」


私も食べてみる。


「おいしい?」


「・・・・」


お菓子を食べながらこれからどうなるのか気になって返事も上の空になっている。おじさんが立ち上がって私の後ろにきた。後ろから腕を廻して抱きしめた。私は驚いて身動きができない。おじさんはしばらく抱きしめたまま動かない。


「いいんだね」


私は頷いた。


「お風呂を用意するから入ろう。それからにしよう」


おじさんはバスルームへ行って、お風呂の準備を始めた。それから一番奥の部屋に行ってベッドを整えているのが見える。大きめのベッドがある。


おじさんがお風呂の様子を見に行った。


「お風呂に入って」


私はバスルームに入った。


雨で湿った服を脱いで裸になって、シャワーを浴びてバスタブに入ろうとした時におじさんが浴室に裸で入ってきた。驚いてその場にしゃがみこんだ。


「いいんだろう、だったら、そんなに隠さなくても」


私は恥ずかしいけど立ち上がっておじさんの方を向いた。でも恥ずかしくて顔をあげられない。


「こっちへおいで、洗ってあげる」


おじさんはシャワーでお湯をかけて、タオルに石鹸を付けて、身体を確かめるように洗っている。身体のところどころに青あざがあるのに気がついたようだった。でもおじさんはそれ以上何もしなかった。


「髪は自分で洗って」


そう言われて髪を洗う。久しぶりのお風呂だから気持ちがいい。


「髪を洗い終わったら俺の背中を洗ってくれる?」


私は言われてとおりにおじさんの背中を洗ってあげる。母とはお風呂に一緒に入って背中を洗い合っていたが、男の人の背中は大きい。


洗い終わるとバスタブに浸かるように言われた。おじさんは自分の髪を洗ってから私が浸かっている狭いバスタブに無理やりに入って来る。バスタブからお湯があふれた。おじさんの身体が密着するし、手で身体をさわられて、思わず身をすくめる。


しばらく触られるのを我慢してジッとしていると、身体が温まってきた。おじさんが先にバスタブから出て行った。ほっとした。私がバスタブから出ていくと、バスタオルで身体を拭いてくれる。私も促されておじさんの身体を拭く。


それから、二人はバスタオルで身体を巻いて、ベッドに向かう。おじさんが背中を押してくる。ベッドが見えると緊張する。これからどうなるのだろう。怖くて身震いした。何でこんなことになったのだろう。どうしよう。でもなるようにしかならない。もうおじさん次第だ。

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