映画コラム
グロリア斎藤
第1話 明日に向かって撃て
映画『明日に向かって撃て』原題:Butch Cassidy and the Sundance Kid 監督:ジョージ・ロイ・ヒル 主演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、キャサリン・ロス
1969年のアメリカ映画
ファーストシーン
馬の蹄の音で静かに始まるファーストシーン。
19世紀末のアメリカ。
銀行を下見に来たブッチ・キャシディの飄々とした姿。
実在したアウトローたちの激しくも美しい青春の物語はそんな静かなる期待を抱かせるファーストシーンから始まった。
映画館のシートに身をうずめてひそかに息を整える。
何十年たってもその記憶を取り出せるファーストシーンを持つ映画は名作である。
というのは一つの真理である。
そしてさらに、映画史上に残るその見事なラストシーン。
雨にぬれても(Raindrops Keep Fallin’ on My Head)
全編に流れる映画音楽と美しい映像
バート・バカラックの映画音楽LPを有り金はたいて買いに行き、何度も聞いた。そんなLPも、大事にしていたつもりの映画のプログラムも手元にはなにも残っていない。
「雨にぬれても」は映画のヒットと共に大ヒットしたが、全編に流れるバート・バカラックのメロディーは忘れられない映像美と共に蘇ってくる。
ブッチ役の軽妙なタッチのポール・ニューマンに改めて魅了されながらも、何といってもそれまで無名だったサンダンス役のロバート・レッドフォードの、カッコ良さは、あらゆるシーンで目を奪われるのはもちろんわたしだけではないだろう。
監督のジョージ・ロイ・ヒルがサンダンス役には無名で誰もが反対したロバート・レッドフォードを推したとのことだが、結果としてスーパーヒット作となったのは素晴らしい。
追手に追われて撃ち合いになり、ついに二人は眼下に水音のする険しい崖まで辿り着いた。
ブッチは、
「いいか」
サンダンスを促した。
彼ははまだ応戦するつもりだ。
ブッチは、はるか下に流れる急流を確かめながら、
「いや、飛ぶぞ」
と言って服を脱ぎ始める。
しかし、
どうしてもサンダンスは飛びたがらない。
「一発撃たせろ」
崖は相当高く、流れる川は何メートル下にあるか分からないほどに切り立っている。
「飛ばないと殺されるぞ。死にたいのか」
「お前こそ死にたいのか」
言い合いになって、
「俺が先に飛ぶ」とブッチ。
「いや」
「ならお前が先に飛べ」
「いや」
「どうしたんだよ!」
とブッチ。
ブッチを振り返って見ながら、
「泳げないんだよ!」
その時のサンダンスの表情。
随所に描かれている笑いを誘う男たちの会話。
いつもは考えることはブッチに任せている。
そんな無口で、セクシーな男の追い詰められた時に見せた魅力。
映画であって、もはや映画ではない。
ファーストシーンからすでにくぎ付けにされ、このレッドフォードともちろん、ポール・ニューマンのブッチとの掛け合いがあってこそだが、映画の始まりからこのあたりまでに完全にロバート・レッドフォードはスーパースターの階段を駆け上ったということになるだろう。
最初は、ビッグスター二人、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンで撮る予定だったらしいので、そんなことにならなくて本当に良かった。
後の主演の映画でさまざまな主人公を演じたレッドフォードだが、この鮮烈な印象を超える名演はない。
こう感じるのは私だけだろうか。
サンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)とブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)
ラストシーンに切り取られた永遠の青春像
実際の人生が必ず一度終わらねばならないように、永遠に続いてほしいと思われたブッチとサンダンスの、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの逃亡劇も南米ボリビアで絶たれた。
しかし、無残な銃弾の痕も流血もさらすことなく、それまでがそうだったように、未来への希望を語りながら最期まで援護し合いながら生を共にした男二人。
決して止まらないはずの時間が止まり、その魅力的な青春像は永遠に我々の記憶に刻まれた。
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