調律の巫女と再編の魔女

雨宮羽依

第1話

 想区と想区の間にかかる深い深い『沈黙の霧』。それを抜けて、今日も旅人たちは想区の中へと入り込む――…。


「ここは何の想区なのかしら……」

「ここは何の想区なんだろう……」


 ふと、二人の少女の声が合図も無しに重なった。二人はお互いに驚いたような表情で顔を見合わせる。

 一人は気品のある仕草に金髪の美しい少女、もう一人はまだ幼さを残した黒髪の可愛らしい少女だった。


「もしかして、あなたたちも『空白の書』の持ち主なの?」


 金髪の少女がもう一人の少女と、その仲間であろう人物たちに尋ねる。

 黒髪の少女が答えようとすると、緑髪の青年がそれを遮り、警戒した様子で吐き捨てた。


「他人に尋ねる前に、まず自分たちから名乗るのが筋なんじゃねーの」


 それを聞くと金髪の少女とその仲間たちは顔を見合わせて、もう一組の旅人たちへと向き直った。


「失念していたわ、ごめんなさい。私はレイナ、『調律の巫女』よ」

「初めまして、僕はエクス。よろしくね」

「タオってんだ、よろしくな。んで、こっちが妹分の……」

「ども、シェインです」

「私はファムだよ~、よろしくね、かわいい旅人さんたち」


 レイナと名乗った金髪の少女に続け、仲間の四人も次々に自己紹介をしていく。それを聞いているうちに、眼鏡をかけた少女の表情がみるみる変わっていった。


「へ……『調律の巫女』って、あの、で、伝説の――」

「落ち着け、お嬢サマ」


 今にもレイナたちに抱きつきそうな彼女を、先ほどの緑髪の青年がたしなめる。それからシェインと名乗った少女をチラッと見て、自分の定位置へと戻っていった。


「こちらが名乗ったんですから、もちろんあなたたちも名乗ってくれるんですよね?」


 緑髪の青年の様子を見ていたのか、不服そうにシェインが呟く。ただし、彼女は人見知りらしいので、ずっと兄貴分のタオに隠れたままだったが。


「あ、うん。もちろんだよ。私、エレナっていうの。よろしくね!」

「僕はレヴォル、よろしく」

「私はアリシア・キハーノ! あの、あなたたちって本当の本当にあの伝説の調律のみ――」

「ちょ、落ち着けお嬢サマ。俺はティム、ま、よろしくな」

「私はパーン。フォルテム学院で、そこのティムとアリシアに勉強を教えている」


 一通り、お互いの自己紹介が終わると、レイナが何やら辺りをキョロキョロと見渡し始めた。


「レイナ? どうかしたの?」

「いえ……今回も、この想区のカオステラーにはカーリーたちが関わっているのかと思って……」

「あー、そういえば、さっきパーンさんが『フォルテム』って言ってたもんね」


 レイナたち、『調律の巫女』一行と因縁のある相手、それはカオステラーを生み出し、想区の住民たちの解放を目的とする『フォルテム教団』だ。いきなりそれと関連のありそうな話を出されても、警戒するなと言う方が難しい。


「待ってくれ、この子たちは『教団』とは何の関係もないんだ。むしろカオステラーの『再編』を行ってまわってて――」

「『再編』?」


 パーンが誤解を解こうとすると、調律の巫女一行が声をそろえて尋ねる。

 それから、エレナの『再編』の力について話すと、調律の巫女一行は一応納得はしてくれたみたいだった。その様子を見て、アリシアは調律の巫女一行に、目的が同じなのだからこの想区では一緒に旅をしようと提案した――…。

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