第33話もよおす催し
「ふぅ!HP・MP全回復!」
僕はベットから飛び起きて、部屋の床に着地した。
「さて、早速冒険に出かけよう!」
「はい、坊ちゃん!ベェ!」
僕とバフォちゃんは、城(カスデ・ムショクナ・モンデ)を出てカルマの街へ向かった。
しばらく歩くとカルマの街に到着した。
さらに進み商業地区に差し掛かった所で、僕の目を引くような光景が見えてきた。
「・・・・・また、なんか人が集まってる!・・・・どうせ大したことじゃないんだろうけど・・・なんか、気になるな」
「ですね!坊ちゃん!ベェ!ベェ!ベェ!」
僕は群がっているNPCやプレイヤーをかき分けて、人だかりの中心を目指した。
「・・・なんか、さっきもこんな事あったな!・・・さっきは尻ガールだったけど・・・」
「ですね!坊ちゃんはよだれを垂らして喜んでましたね♪男はだいたい尻か胸を見ると、よだれを垂らしますもんね♪」
・・・・何?その男性への偏見的な考え?
・・・ま、僕の場合はだいたい当たってるけど・・違うフェチの人もいるよ?
僕の友達は足が気持ちいいって言ってたな!・・・・どうゆう事だろう?
「あ、また!サングラスの人だ!」
中心部に行くと、簡易的な特設ステージが設けられていた。
その舞台の中央で司会のサングラスの男が話している。
「さぁ、毎回大好評のジョブ・ガチャ恒例のプレゼント企画~!!画面の前で見ている、そこの貴方に♪前前回はバラ色のグッズをプレゼントしましたね♪これを送られた方はバラ色の人生になりますね~♪前回は私がプロデュースしたサングラスのプレゼントでした!
限定30名様の中、多数のご応募いただき、誠にありがとうございます。応募総数といたしましては、31名!ありがとうございます!ホントギリギリ!もうすこしで、応募者全員プレゼントになるとこでした!あはは!さすがはジョブ・ガチャの運営・開発チーム、毎回太っ腹なプレゼント内容ですね!あ、よいしょ!」
言葉巧みに流暢に話している、サングラスの男。
言い終るとズボンのポケットから、ミネラルウォーターを取り出してゴクゴクと飲み干している。
まるで砂漠を数日彷徨っていたみたいに、そして一瞬にして2Lボトルを飲み干してしまった。
「・・・・ふぅ!ゲプ!さ、さぁ、そんな大好評のプレゼント企画!今回は全国・・いや、世界中から品物を集めてプレゼントします!え、何が贈られるかと言いますと・・・。捨てるに捨てれない、人にもあげれない。売っても二束三文にしかならない!そんな『世界中のつまらないモノ一年分』だ~!これは嬉しい!!」
会場中から大ブーイングが巻き起こった。
その時、一人のスタッフがサングラスの男に手紙を渡した。
「え・・お礼のハガキ?はい、一ヵ月前にも同様の企画をして、その時の当選者からお礼のハガキが送られてきたようです、嬉しいですね!はい、それでは読ませてもらいます」
サングラスの男はお礼のハガキを読み始めた。
「えっと、N県在住の5歳の男の子からですね♪名前は匿名希望のタカシ君となっていますね。ありがとう!え、なになに・・『ジョブ・ガチャうんえいさんへ。もうやめてください、ママがおかしくなってます。きんじょからはゴミやしきっていわれはじめました。もうつまらないモノをうちにおくらないで!ママが”毎日コンテナ1個分もゴミを送ってくるんじゃね~!!”っていってました。それから”コンテナのおかげで、家に日差しがはいらなくなったじゃねーか!太陽を返せ!”ともいっていました。やさしかったママをかえしてください。とくめいきぼう たかしより』」
サングラスの男は目じりを抑え泣き始めた。
「こ、これは嬉しい感想だ!匿名希望のタカシ君5歳!ありがとう、ありがとう!さぁ、こんなにもステキなプレゼント♪みんなどしどし応募してくれよな!今回は限定10名様へのプレゼントとなります。応募リンクは概要欄に貼り付けているので、そこからジャンプしてくれ!!!」
お礼のハガキを読み終わると、サングラスの男はポケットに手を突っ込んだ。
そして、ライターを取り出しお礼のハガキを燃やし始めた。
「匿名希望タカシ君5歳、ありがとう!ありがとう!」
それを見ていた、観客たちから大ブーイングが巻き起こった。
サングラスの男は手に持っているマイクで、また話始める。
「おおっと、これはボヤならぬ、大炎上だ~!!今テレビやネットで大人気ですね!見ない日はないぐらいです!・・・まさか、誠実で品行方正の私がこんな経験をするなんて・・・・。でも・・・これでまた私の人気が急上昇ですね!あはは!テヘ★ペロ!」
会場中から無数のゴミが投げ込まれる事態となった。
ステージの中心に立つサングラスの男の体に、ゴミがぶつかっていく。
ああ、ヘイトを一心に浴びる気持ち・・・僕にもわかるな!
でもこの場合は、原因はあなたが作ったわけで・・・自業自得だな。
「ベェ?どうします?坊ちゃんも応募してみますか!?」
「いや!絶対いらないでしょ!ゴミじゃん!しかもコンテナ一個分って!自分ちの周りが一人貿易会社みたいになるでしょ!?ってか、ただの嫌がらせでしょ?これ!」
司会のサングラスの男は、大炎上に動揺する素振りも見せずに進行を続ける。
なんて鋼の心をもってるんだ!・・・いや、もう慣れているのかな?
そういうキャラ設定で活動してるのかも?
会場中がざわつく中、運営スタッフがステージの上に投げ込まれたゴミを清掃していく。
しばらくすると綺麗に片付いた。
そして辺りに、大音量の音楽が流れ始めた。
「え、なになに?何がはじまるんだろう・・・ね?バフォちゃん?」
「はい、坊ちゃん!どうせくだらない催しでしょうけど・・・・ベェ!ベェ!ベェ!」
その時、すべてのライトが消えてステージの上は薄暗くなった。
そしてまた、サングラスの男がステージ上に登場した。
またしても、ポケットから水を取り出しゴクゴクと飲み干していく。
2Lあった水はすぐに空になり、近くに投げ捨てられた。
「・・あ、あ、もう飲めない!・・げ、ゲプ!さ、さぁ!今日はこの人の登場だ!上半期のガチャ動画でAランクを獲得~!そして投げ銭ならぬ、投げ札で会場中のボルテージをMAXにしたこの方!その節は私も沢山拾わせていただきました~ありがとう♪
ご紹介いたしましょう!資本主義社会の申し子!先日発表された、この人の半径10m以内で待機して、できれば美味しい思いをしたい!!ランキング~ナンバー1!!金ぁ・・・(かね)持ぃ・・・(もち)強ぃ!!!(つよし)」
「かねもち!かねもち!かねもち!かねもち!かねもち!!!」
「きゃー!!!つよし!すてき~♪」
「LOVE!つよし!LOVE!!つよし!!LOVE!!!つよし!!!」
熱狂的なファン?が大歓声を上げている。
ファンたちの目がお金マークに見えるのは僕だけだろうか?
「さぁ、今日は先日からスマッシュ・ヒットを飛ばしている、金持強さんの待望の新CDアルバムのリリースイベントだ~!」
次の瞬間、ヘンテコリンな歌が流れ始めた。
そして、スポットライトがステージ中央に立つ、一人の男を照らし出した。
「金ぇ持ぃ強ぃ(かねもちつよし)の登場だあああ!!!」
スポットライトに照らされた金持強は、自信満々の表情をしている。
そしてピ●太郎や、マツケ●のような、キラキラ・ギラギラと眩しいゴージャスな衣装を身に纏っている。
スポットライトの光が乱反射して、見ていて目がくらむほどだ。
「ってか、この人CDなんて出してたんだね?知らなかったよ、バフォちゃん!」
「そうですね、最近は人気のユーチューバーとかも、CDだしてますね!たいして歌上手くないですけどね!ベェ!ベェ!ベェ!」
たぶん金持強のアルバムの曲が流れているんだろうけど・・・。
正直・・下手・・・いや、かなりの音痴だ!・・・聞いていて吐き気をもよおすほどだ!
どうせヘタなら、のど自慢大会で「タッチ」の歌を歌った人ぐらい振り切って欲しいな!
あの人の歌は「ああ、歌って凄い!」って思わせてくれる音痴さだったな!この例えは知ってる人だけ分かればいいから!
ユーチューブとかで見れるかも?知らないけど・・・(適当)。
「さぁ、ステージ中央にいらしてください!金持強さん!」
金持強(かねもち つよし)は、眩い光を反射しながら、ステージ中央へと歩るいていく。
そしてサングラスの男の横に並んだ。
金持強の後ろからは、若い女性のバックダンサーが続く。
ステージの上はまるで、リオのカーニバルみたいな賑やかさを放っている。
「す、すごいね!バフォちゃん!眩しいし、女の人も綺麗で、衣装もステキだ!」
「はいはい、また鼻の下が伸びてますよ!ベェ!ベェ!ベェ!」
バフォちゃんのツッコミを受け流しつつ、僕はステージの上を注視した。
まぁ・・この時口からよだれが出てたかもしれないけど・・。
ま、誰でも時々たらすよね!サムtime時々だよ(意味不明)
ステージの上に立つ、サングラスの男が司会を続ける。
「さてそれでは、金持強さん!新しく発売されるアルバムの意気込みを、一言!」
マイクを向け、金持強に尋ねるサングラスの男。
口元にマイクを向けられた、金持強がボソボソと話している。
え、なに?すごくない?マイクで話しているのに・・・ここまで聞こえないなんて!いっこくどう?
そんなんで、どうやって歌を歌うんだろう?
「はい、よくわかりました!それでは私が代わりに説明させていただきますね!あ、よいしょ!金持ちはよいしょしとけば、だいたいOK~!・・・あ、取り乱しました♪あはは!テヘ★ペロ♪」
え?今の聞き取れたの?凄くない?専属の通訳さんかよ!
たまに声の小さい人がいるよね。あれのもっとひどいバージョンだね、金持強さんは!
「それでは、皆さんもご存知!金持強さんがこれまでに打ち立てた記録の数数をご紹介させていただきます!・・・このCDが売れない時代に、連続でミリオンセールス記録を継続!凄いっ!」
サングラスの男はポケットに手を突っ込んで、紙を取り出した。
「え、ファーストシングル『おれ金持ちサンバ!!』、続くセンカンドはバラード曲の『今夜こそお前に・・・!~金アゲアゲNight!~』、この曲も素晴らしい名曲です。
そしてサードシングル『初詣~賽銭箱が、おれ1人の投げ札で詰まった件・・・』・・こちらも記憶に残る迷曲ですね♪・・・今回発売されるアルバムにはこちらの名曲たちも、もちろん納められています!これは買いです♪」
サングラスの男が話し終る寸前で、後ろのモニターにアルバムの曲名が表示された。
・ 今夜こそお前に・・・!~金アゲアゲNight!~
・ おれ金持ちサンバ!!
・ 初詣~賽銭箱がおれ1人の投げ札で詰まった件・・・
・ 鳴りやまぬ電話・・・今日もおれの金目当てのオレオレ詐欺!
・ もしかしたら・・・おれ・・・銭形平次の子孫かもしれない・・・
・ 今日も巻き起こすぜ、投げ銭乱舞!
・ 自己顕示欲の塊・・・そう、おれ様が金持強!!!
etc
「なんじゃこりゃ~~!!」
「凄いですね、坊ちゃん!見事なまでの・・ゴミの様なラインナップですね♪ベェ♪」
会場中の人が、ものすごい脱力感を感じている。
「それでは今回発売されるアルバム名をお聞かせください!・・・ええ、はい・・おお!それは良いタイトルですね♪
それでは私の口から発表させていただきます!『ああ、気になる君のゲーム動画の生配信に釘付けの俺!ああ、君の動画のチャットリプレイ・・・全部おれのスーパーチャット(スパチャ)で埋めたい!』です!!!凄い長~い♪」
「なげーよ!」
最近ユーチューブなんかでやってる、生配信中の投げ銭・スパチャ(気に入っている動画配信主に、活動資金・応援・感謝の証としてお金をプレゼントする行為)だけど・・。
金持強が投げ銭?投げ札?したら、相手の人狂気乱舞するんじゃない?
実際に高額投げ銭されている動画とか、ちょくちょく見るけど・・・。
泣き出したり・フリーズしたりして困ってたもんな・・。見ていて面白くはあるんだけど・・。
「それでは、金持強さん!ここまでCDが売れる秘結なんかを・・・教えてもらったり、なんかしたりできますかね?ちょっとだけ、そうちょっとだけでいいんで?」
マイクを向けられた金持強は、ボソボソと話している。
いや、スゲーな!なにその特殊技能!腹話術師になれるよ!あなた!
「ええ、はい・・・!!!そ、そんな秘密が・・・!皆さんに話しても・・・・いいと?ええ、金持強さんがどうしてここまでの、大躍進を遂げる事が出来たのか・・・!今、ハッキリと分かりました!
そ、それは・・・・『自分で買ってるから!キリッ!』でした~♪あはは!これは見事な自作自演だ~!お疲れさまです~♪さすがは金持強!やっぱり金持ちは強かった~♪」
金持強の自作自演の茶番劇に、ステージの周りの客は目を点にして、口をあんぐりと開けている。
もちろん僕も・・・開いた口がふさがらなかった。
「ベェ!ベェ!ベェ!この人・・・面白いですね♪まさに・・金にモノを言わせるって、やつですね♪最高~♪」
バフォちゃんはベェ!ベェ!と汚い声を上げて笑っている。
僕はステージで繰り広げられた、熱のこもった茶番劇にげんなりしていた。
ステージ上ではサングラスの男が、なおも金持強に話を聞いている。
「それで・・・購入した100万枚を超えるCDをどうしたんですか?金持強さん?・・・答えれる範囲で結構です!できれば、話してもらうと皆が喜びますが・・・・。
・・・え?・・・はい、な、なななな!そうだったんですか!?」
おいおい、あんまり喋るなよ?金持強?
自分の首を自分で絞める事態になりそうだぞ?
「なんと~!・・・『ジョブ・ガチャ運営宛に送った』だそうです!・・・・も、もしかして、さっきのつまらないモノの中身はこれかもしれない~♪ありがとう!金持強!
最後にもう一点だけ・・・質問よろしいですか?金持強さん?・・・そんな小さな声でよく歌えましたね?・・・え?なになに?そ、そんな!ま、まさか!!!」
サングラスの男は絶句している。
どうしたんだろう?自分で歌ってるでしょ?
ステージ上では口パクとかで対応してそうだけど・・・。
「な、なんと!!!!『金を払ってプロの歌手に歌ってもらった!』だそうです!!凄い!そりゃもう・・まるっきりの別人ですね!」
それはCD出す意味あるのかな?
プロデュースって言うんじゃないのそれ?
え?プロの歌手に歌ってもらって、あのクオリティー?
ま、マジ?!聞いてて、吐き気しかしなかったんですけど?
逆にスゲーな!プロの歌手の魅力を殺す、プロデュース力って!
「そ、それでは金持強さんが発売するアルバムの方、興味ないでしょうがチェックしてみてくださいね♪
皆様・・・またな!!」
そう言うと、ステージ上に流れていた吐き気を催す歌と、正直眩しくて不快な照明が消え去った。
サングラスの男と金持強は、ステージ脇へとはけていった。
僕とバフォちゃんは目が合って、お互い失笑を浮かべた。
「さ、くだらない催しも終わったし・・・冒険に行こうか!」
「ですね~♪私は面白かったですよ?ベェ!ベェ!ベェ!」
僕はそのまま、フィールドに向かった。
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