8-14 ランクアップ

 ガラ商会を出た後、ギルドに向かう。


「ニリスさん、お久しぶりです」

「あ! リョウマ君! やっと来た! もう~昨日来ると思ってずっと待ってたのよ!」


「エッ!?」

「クラン『灼熱の戦姫』の方たちが依頼達成報告に来たから、リョウマ君も来ると思ってたのよ」


「昨日はガラ商会の仕事が残っていましてね。そのままガラさんの支店に泊めてもらったのですよ。待ってたって事は何か用があるのですか?」


「特に用はないけど……つれないわね~」

「あはは。えっと、ニリスさん、素材の買い取りお願いします」


「え? ああ、それで何売ってくれるのかな?」

「色々ありますが、良いものはガラさんが買い占めちゃいましたからね。屑魔石とかしか残っていませんね」


「ええ~、できたら直販しないで、ギルドを通してくれると有難いな~」

「うっ、そうですよね」


 相場で売るならどっちで売っても俺に入ってくる儲けは変わらない。

 ガラさんに直販すればギルドを通してない分ガラさんの儲けは増える。

 でも、ガラさん側は嬉しいが、ギルドとしては仲介料や手間賃が入らなくなるので、面白くないはずだ。


「ニリスさん、そんなに拗ねないで下さいよ。分かりました。湿地帯の魔獣を幾らか放出するので、それで許してください」


「エッ!? 本当! それならいいわよ! 全然許します! で、何を売ってくれるの?」

「そうですね、ワニ1、カメ1、カニ1、カエル5、ウシ5でどうですか?」


「嘘! そんなに売ってくれるの!? ちょっとこれは事件ですよ!」


 俺の気が変わる前にと、ニリスさん自ら裏の解体倉庫に連れて行かれ、魔獣を放出させられた。




「やっぱりリョウマ君の亜空間倉庫って時間停止のやつなんだね。できるだけ内緒にしなさいよ。でないと大騒ぎになるわよ……」


 受付に戻ると、そんなことを言ってきた。

 内緒にしろとアドバイスをくれるあたり、ニリスさんも実に良い人だ。


「ええ、分かっていますが、かと言って使わないのも勿体ないですからね」

「そうよね。でも悪用されないように気を付けてね。今回、魔石や革などの素材も売ってくれるのかな?」


「ええ、全て売ってもいいですよ」

「ギルドマスターが一度会いたいって言ってたけど、2日ほどいないのよね。多分湿原の魔獣のことだろうから、今回売ってくれたので、もう用はないと思うけど」


「どういうことです?」

「最近オークションでいくらか湿原の魔獣が流れたって聞いて、調べたらリョウマ君が関わってるってどこかで聞きつけたようなの。で、まだ持っていないか、リョウマ君に聞きたかったみたい」


「ならもう用済みですね。今日の午後に水神殿に出発するのでどのみち会えませんけどね」

「あ、出発前に一度騎士舎の方に顔を出してあげて。ガイアス隊長が報酬を預かってるそうで、渡したいって言ってたわ」


「ああ、例の誘拐盗賊犯のやつですね」

「ええそうよ。あの件は本当にごめんなさいね。まさかあの子が関わっていたなんて思わなかったわ」


「仲良かったのですか?」

「受付嬢はそれほど人数居ないからね。それなりに皆、仲は良いのよ。彼女、自分がやった事の罪の重さが解っていないようだったけど……今、身に染みているでしょうね……可哀想だけど、何の罪もないのに未だに今の彼女と同じ目に遭っている娘や、死んだ娘もいるのですもの、3年で解放されるだけまだましだよね」


「やはり無理やり客を取らされているのでしょうか?」

「娼館に買われたのだからそうなるわよね。冒険者がこぞって抱きに行っているって、よく話してるのを耳にするけどゾッとするわ。嫌がって泣くのがいいんだって下卑た笑みをしながら冒険者たちが言ってたわ。リョウマ君は行っちゃダメよ。流石にそれは可哀想だからね」


 俺が行くと例の受付嬢は間違いなく殺気を向けて本気で嫌がるだろう。なにせ自分を娼館に落とした張本人なのだからね。彼女を娼館に売ったお金が俺に褒賞として領主から入っているくらいだ。


 俺が彼女を買いに行ったら、合法レイプ……その言葉がピッタリだろう。嫌がる女を抱く気はない。俺はノーマルなのだ。


「嫌がる娘を抱けませんよ。それにそんな場所行かなくても、何故か最近俺はモテますからね」

「確かにリョウマ君なら寄り取り見取りでしょうね……」


「だけど、俺、まだ童貞ですけどね……」


 この世界でって事だけどね! 本当だよ! 向こうじゃ彼女居たんだから!


「エッ!? 嘘!」


「嘘言っても仕方ないでしょう。まぁ、こういうのは縁の問題ですし、俺、まだ若いですからね。そのうち良い縁もあるでしょう」


「そうね……まだ経験ないんだね。うふふ、私と一緒だね」

「ニリスさんこそ意外ですね。かなりモテるでしょうに」


「嫌らしい眼でナンパされてもね~。その気になれないのよ」

「ニリスさん可愛いですからね。冒険者たちが見惚れちゃうのは仕方ないですよ」


「ありがとう。リョウマ君に言われるのはお世辞でも嬉しいわ。ところで姉さんはどうだった?」


「イリスさんですか……俺、あの人苦手です。凄く良い人ですけど、ギルドに行くたびに何かお願いされちゃって、しかも凄く断りにくいし……俺はニリスさんの方が好きですね!」


「あらら、姉さんリョウマ君に嫌われちゃったみたいね」

「いつか恩を返すからとか言いながら、何も返さないまま次から次にお願いしてくるんですよ~」


「あはは、ごめんなさいね。姉さんも悪気はないのよ? それとフェイちゃん、リョウマ君おめでとう! はいこれシルバーランクのカード! ナシルさんはアイアンランクのカードね。メリルちゃんはごめんね。年齢制限があるので、記録だけの更新になるわ。でも13歳の年齢になったら、記録されている分のランクがちゃんと上がるからね」


「お! ありがとうニリスさん! あなたのおかげで気持ち良くランクもあげられました。紹介してくれた『灼熱の戦姫』のメンバーのおかげで、凄くいい社会勉強ができました。他のパーティーだったら、俺が小生意気なことを言った時点で色々トラブってたと思います」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


「これお礼にどうぞ、さっきから他の職員の期待の眼差しが刺さってきますので、期待どおり出してあげます。今、食べる用のバニラアイスと、お持ち帰り用の新作のシュークリームです。シュークリームも熱で溶けちゃいますので、できればお早めにどうぞ。60個用意しましたので、皆で分けてください」


 チラ見していた周りから歓声の声が上がる。


「リョウマ君、いつもありがとうね! 言っちゃダメなんだけど、凄く楽しみにしていたの!」

「ぶっちゃけましたね~。でも素直なのは好きですよ」



 どうやらハティがスヤスヤ眠ってくれていたのでバレずに済んだ。本来、魔獣をテイムしたらギルドに報告して従魔登録をしないといけないのだ。西門から入る時も従魔の首輪を嵌めておく必要があったのだが、この子はフェンリルの子……手に入れた経緯を話すとなると、間違いなく大騒ぎになる。


 時間を取られたくなかったので、服に忍ばせたまま隠していたのだ。

 神殿から帰った時にフィリアに一筆もらっておいてから登録するつもりでいる。





 衛兵の宿舎でガイアスさんを呼び出してもらう。

 既に俺たちが帰ってきた事は耳に入っていたようで、出かけず待っていてくれたようだ。


「ガイアスさん、お久しぶりです」

「ああ、リョウマ君お帰り。ハーレンから連絡があったよ。まだ残党が残っていたようだね」


「ええ、その残党が違うグループに声を掛けて、領主の娘とその侍女をターゲットに誘拐を計画したようでした」


「彼女たち可愛いからな。丁度公務でこっちにきていた帰りだそうだな」

「騎士たちが酒場で話してるのを聞いたそうなので、騎士たちも秘密保持のモラルをしっかり持ってほしいものです」


「そうだな、申し訳ない。何か対策を考えるよ。それとこれを領主様から預かっている。これまでの謝礼も含まれているそうだ。できれば直接礼を言いたいそうだが、どうだろうか?」


「すみません。この後、すぐに水神殿に出発するので、今回は見合わせてください」

「そうか、まぁ無理は言えないからな。次帰ってきた時は、是非顔を出してあげてほしい。オークキング討伐や、盗賊団壊滅で本当に感謝してるようだからな」


「分かりました。次回には時間をあけておきます」




 結構な額の報酬を得て最後に神殿に向かう。


「神父様、お久しぶりです。また頂きにきました」

「はい、お帰りなさい。今回、予定の数よりも多く集まっていますよ。今持ってきますね」


 そう、卵と牛乳だ。この2つはガラ商会ではなく神殿に依頼している。

 特に牛乳は傷みが早いので、ガラさんのところではこの夏場の時期、下手をしたら受け取る前に腐ってしまう。


 神殿には神器である神が設置したアイテムボックスがあるのだ。朝採取したものをすぐに運んでもらい、そのまま【時間停止】機能の付いたアイテムボックスで保管してもらっているのだ。当然鮮度は良い。


 今回かなりの収入があったので神殿に寄付をしようと思う。


「鮮度の良い品ですね。神父様、今回かなりの収入を得たので孤児院に寄付をしたいと思います。現金500万ジェニーとワニ肉500kg、カエル5匹、牛5頭、オーク10頭です。お金は子供たちに服でも買ってあげてください。肉は売ってもいいですが、できれば子供たちに食べさせてあげてほしいです」


「おお! これは有り難い! 食べ盛りの子たちなので、皆、喜ぶでしょう。ですがこのような高級肉、こんなに沢山頂いて宜しいのですか?」


「ええ、俺たちで狩ったものですので、原価はタダです。お気になさらず食べてください」


「では、遠慮なくいただきます。うちも結構カツカツでしてな。本当にありがたい。これだけあれば、暫く子供たちの食べるお肉は困らないでしょう」


「ところで神父様、ちょっとここの門番の事でよからぬことを聞いたのです」


 バナムの農夫が、神殿の門番に邪険に扱われ、もう少しで犯罪に手を染めようとしていた事を詳細に説明した。


「なんとそのようなことが! 詳しく調べて2度とそのような不手際がないようにいたします。申し訳ありません、私の監督が至らないばかりに……」


「その門番も不正をして金儲けや悪事をしているのではないそうですので、厳重注意程度にしてあげてほしいと女神様から言伝っています。なんでも、無償奉仕で回復の術者たちが損益を被らないように思ってのことのようですが、神殿の方向性とは趣旨が違いますからね」


「神殿の意向はあくまで奉仕です。金銭は御心、本来、無償でも奉仕するのが神官である回復者たちの務めです」


「その辺は難しいところですよね。完全無償だと、薬剤師たちが回復剤が売れなくなって困ってしまいます。神殿も収入が無くなれば孤児院を賄えなくなりますしね」


「それでいつも苦労しております。あはは」


 門番の件を神父様に任せて、バナムでの用件は片付いた。



「フェイ、出発前に飯にするけど、折角だから広場の露店を漁りに行くか? あの串焼きのオッチャンの顔も見たいしな」


「うん! フェイ、久しぶりにおじさんの串焼き食べたい!」


「フェイお姉ちゃんがここまで反応する串焼きって……ゴクッ」


 フェイの反応を見て、メリルも凄く興味があるようだ。

 広場に向かうと、いつもの所定の位置に串焼き屋のオッチャンが居た。


「おっちゃん、バナムに帰ってきたのでさっそく食べに来たよ! 3本ずつお願い! レモン水も4杯ね!」

「お! フェイちゃん帰って来たか! なんだ? 凄い別嬪さんが増えてるじゃないか」


「ええ、一応今一緒に旅をしています。今から水神殿に向かうとこですけど、その前におっちゃんの串焼き食べたくなってね」


「おっ、嬉しいこと言うね~。ほれ、おまけで5本ずつ焼いてあげた、旅の餞別だ」

「おじさんありがとう! フェイ、露店の中じゃ、ここの串焼きが一番好き!」


 フェイに満面の笑顔で言われたオッチャンはもう昇天寸前だ。

 ここのは確かに旨い、しかも安い。ナシル親子も大満足で食べていた。


 フェイを見かけた露店の主たちが、フェイにお供え物を供えるように次から次へと食べ物を持ってくる。

 昼時とあって、フェイが旨そうに食べているのを見た客が誘発されて、オッチャンの串焼き屋は行列があっという間に出来上がった。


「やっぱフェイちゃん効果は凄いな! サービスした分なんか、あっという間に取り戻せたよ」


 4人で食べきれないほどの貢物を手に入れ、フェイはご満悦だ。


「リョウマお兄ちゃん、フェイお姉ちゃん凄いね。歩くだけで食べきれないほど皆が持ってきてくれるなんて……」


 飢えで死にかけてたメリルからすれば、広場を一周しただけで持ちきれないほどの食糧を得たフェイが凄い存在に見えるようだ。


「フェイが食べた店では2、3割売り上げが増えるそうだよ。いつからかこんな感じになってしまったけど、久々に来たから今日はいつもに増して凄いな~」



 腹も膨れたところで、バナムから出発する。


 東門でセラム隊長に挨拶し、牛の肉をお土産だと10kg渡してあげたらとても喜んでいた。

 この人にも結構世話になったからね。



 さて、神殿に向かおう。

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