5-6 契約付与

 皆と別れて風呂に向かったのだが、男風呂には商人やら旅の冒険者など数人が先に入っていた。

 こっそりシャンプーをインベントリから出して使ったのだが、やたらと泡立っている俺の頭を目ざとく商人が見つけ色々聞いてきた。当然分からないとすっとぼけてさっさと出てきたのだが、風呂くらいゆっくりしたいものだ……。


『ナビー、新しいログハウスの風呂はどんな感じだ? 俺の図面どおりか?』

『……いえ、勝手ながらかなり拡張しております。マスターお風呂大好きですよね?』


『そうだな、かなり好きだな。夏でも湯船に浸かりたい派だしな』

『……お風呂の方は完成しています。お披露目の時を楽しみにしていてください。ですが、現状だと湯船用に使ってる水系魔石がシャワー用に使ってる物と同じやつなので、湯船にお湯が溜まるのに時間がかかってしまいます。湿地帯でワニかナマズの魔石が手に入ると良いのですが……』


『じゃあ、牛を狩った後にでも優先してワニを狩るとしよう。できれば数匹狩りたいところだが、効率よく色々な肉が欲しいのでユグちゃんと連携してルートを選定してくれないか?』


『……でも、それだと案内役に立候補してくれたサリエに失礼じゃないですか? それにサリエから斥候としての探索技術やサーシャから狩人としての追跡技術を学んだ方がマスターの為だと思うのですが?』


『確かにそうだな、ここは彼女たちの技術を教わった方が身になるか。だが余りに効率が悪いようだったらやはりナビーに頼むかもしれない。チート無双は俺の特権だからな』


『……マスターにはチート無双より、技術に裏付けされた上での無双をしてほしいものですね』

『勿論目指すのはそっちだけどね、今回は時間も限られてるから』


 そうこうしてる間にフェイが風呂から上がってきた。

 俺が飲んでる冷えたレモン水を欲しそうに見ていたが、先にマチルダさんの部屋に来てほしいそうだ。


「レモン水は良いのか?」

「欲しいけど、パエルさんがお風呂に入ってる間に兄様の気が変わったりしてないかとやきもきしてるみたいなの。だから先に安心させてあげてほしいです……それに、皆も兄様のレモン水飲みたいだろうし」


「分かった、向こうで皆の分も出してやるよ」


 マチルダさんの部屋に向かい、まずは皆に冷えたレモン水を出してあげた。

 風呂上りなので、遠慮しないでお替りができるようにとピッチャーで出してあげたのだが、皆がぶ飲みしていた。


 フェイの言う通り、パエルさんがなんかそわそわしている。先に安心させてあげた方がいいなと思い俺の方から話を切り出した。



「さて、色々俺たち兄妹には秘密があります。呪文で縛ったからと言って、わざわざそれをこちらから全部話すことはありません。知り合って一週間程度で話す義理もないのですが『灼熱の戦姫』のメンバーは珍しく全員が信仰値60以上の信用のおけるクランだと思います。それとフェイがクラン全員を気に入るのはそうそうないと思いますので、『灼熱の戦姫』と少し友好を深めたいと思います。こちらからは、祝福とサリエさんたちに行ったような個人授業をしたいと思います。そちらに求めるのは、マチルダさんから剣術指導、パエルさんからのヘイト管理技術、サリエさんの斥候技術、サーシャーさんの狩人技術です」


「「エッ? 私は!?」」


 ハモッたのはコリンさんとソシアさん。だが魔法技術は俺たち兄妹の方が上なんですよね。


「後衛職は俺たち兄妹の方が上なので、特にないですね。俺上級ヒール使えるし、全属性の上級魔法ぶっ放せるしね」


「全属性って嘘でしょ!? そんなこと有り得ないわ! 火が得意なら水はダメって法則が有るのよ!?」


 魔法使いのコリンさんが食って掛かるように言ってきたが、気持ちは分かる。


「普通はそうなのでしょうけど、ほれ御覧の通り」


 俺は自分の周りに初級魔法のボール系7つを浮かべて衛星のように周回させた。


「ウソなんで! どういうことなの?」

「危険なので初級魔法ですが、上級でも同じく全属性同時発動できます」


「その技術も教えてもらえるの?」

「残念ながら、これは覚えられる技術じゃないので無理ですね」


「でも、リョウマ君もフェイちゃんも使えるのよね?」

「俺たち兄妹もこの【多重詠唱】は習得したのじゃなくて神様から貰った物なので教えられないのですよ。欲しいなら神様に貰ってくださいとしか言いようがないです」


「あーそういうことなのね、加護や祝福のような、ユニークスキル系なんだ」


「そういうことです。でも【無詠唱】は習得できる技術ですよ?」

「え! そうなの?」


「ええ、水の神殿巫女たちが、いま一生懸命頑張って習得中です。スキル名だけで発動できるようになった者も3名ほどいるようですが、結構難しいようですね」


「スキル名だけの発動も凄いことですよね?」

「勿論凄いことですよ。対人戦だと圧勝してしまうでしょ。勿論PT戦になったとしても、ヒールがすぐ掛けられるとしたら、どっちが有利か歴然としていますよね」


「【無詠唱】の技術を教えてくれるの?」

「コリンさんが望むなら、いいですよ。コツ程度ですが教えます」


 とても素敵な笑顔だ。それだけで教えたくなってくる。


「では、マチルダさんから始めますね。縛りは10年、制約は俺たち兄妹のことと教わったことを部外者に漏らさない。教わったことを悪用しないという条件で良いですか? 破った場合のペナルティーは、その間に教わって習得した技術と記憶の剥奪とします」


 パエルさんは少し考えて、縛りの条件を変えてきた。


「やはり10年と言うのを100年にしてほしい」

「それはどうしてですか?」


「リョウマ君から貰った祝福が消えた10年後がとても怖いのですよ。祝福があればそれなりの名のある冒険者に成れるかもしれません。でもその祝福が消えた時、その時のランクの依頼がちゃんとこなせるのかがとても不安です。なら一生消えない祝福が欲しいです。流石に100歳超えたら祝福云々より引退して隠居しているでしょうから、必要ないでしょう」


「納得のいく答えですね。そこまで考えていませんでした。ですが一つだけ理解していてほしいことがあります。この契約魔法はあくまでスキルです。なので魔法で縛ってる間は毎朝俺のMPが消費されます。縛った人数が増えればその人数分が毎朝消費されます。今回6人と契約すれば、毎朝6人分MPが食われます」


「リョウマ君にそんなリスクがあるんですか……毎朝どのくらいMPを消費するのですか?」


「俺はMP消費量を軽減するパッシブを持っていますので、18ポイントで済みますね。でも本来縛るだけなら強制的に縛る事も出来るのですけどね。そっちだとMPもその時の一回きりで済むんですけど」


「じゃあ、何故そうしないのです?」

「もしそのスキルを使う時があるとしたらどういう時だと思います?」


「問答無用で縛る時? 犯罪者とかかな?」

「そうですね、未遂とか殺すほどの悪人じゃない場合とかに、執行猶予として縛ったり、次また本当にやったら死ぬとかの条件で使うのもいいかもですね。あなたたちに使わないのは、強制じゃなくてあくまで契約として使用したかったからです。契約ならなにかそっちにもメリットが要ると思いましてこんな魔法になっちゃいました」


「私たちのメリットが祝福ってことですね。でもリョウマ君のデメリットの方が大きいと思います」

「普通の人のMP量だとそう感じるかもしれないですが、俺のMP量からすれば大した量じゃないですので別にいいですよ。100人分とかになってきたら流石にきついので、祝福を与えるメンバーは選ぶ必要がありますけどね」


「私たちは貰ってもいいと?」

「そうですね『灼熱の戦姫』のメンバーとは今後も懇意にしたいと思います。俺たちへの技術指導と冒険者としての有用な情報を教えてくれるという条件を付けさせてもらいますけどね。後、そのうちダンジョンに行きたいです」


「あはは、それはこっちからお願いしたいぐらいですね……マチルダ、クランリーダーとしてあなたが決めなさい。リョウマ君たちのリスクも考慮したうえで、この祝福を貰うかどうか判断してね」


「私に決めさせるの? パエルは欲しいんでしょ?」

「欲しいけど、私一人だけじゃ意味がないし、リョウマ君にリスクがあるの知らなかったでしょ? もう一度考えてクランとして答えを出すべきだと思ったの。なので最終決定はマチルダに任せるわ」




 結局クランとして何かあったら全体責任という形になり、全員が契約することになった。


 ・縛りは終身契約

 ・縛る内容は、リョウマ君たちの情報と教わった内容を漏らさない、悪用しない

 ・契約を破った場合のペナルティーは、教わった全てのスキル技術と記憶の消去

 ・クランメンバー一人でも破った場合、全員がペナルティーを受ける



 俺たち兄妹の記憶は消さないようにした。消すのは技術と内容のみだ。俺たちも思い出が消えて、次会った時に誰? みたいな顔をされるのは辛い。


 与える祝福なのだが、パエルさん以外皆凄く悩んだが、最終的に選んだのはこうだ。


  マチルダ:力・敏捷UP

   パエル:物理防御・各種耐性(毒・麻痺・精神汚染・魅了・混乱)UP

   サリエ:敏捷・各種耐性(毒・麻痺・精神汚染・魅了・混乱)UP

   コリン:知力・MP回復量UP

  サーシャ:器用度・各種耐性(毒・麻痺・精神汚染・魅了・混乱)UP

   ソシア:知力・MP回復量UP



 耐性はちょっとヤバいかなとも思ったが、色々付けてやった。マチルダさんや魔法職のコリンさんソシアさんも本当は耐性も欲しいようだが、職種で有用な方を選んだようだ。あまり与えすぎもダメだと思い2つずつという条件を付けたためだ。


「各自ステータスを開いて、確認してみてください。ちゃんと付いてますか?」

「うん、ちゃんと付いてるよ。ありがとうねリョウマ君」


「なんかパエルさんが一番嬉しそうですね」

「ん! そんなことない! 私も嬉しい!」


「実際どれくらいの耐性があるか、火力や防御力が上がるかは、個人差がありますので各自で検証してみてくださいね。充てにし過ぎてダメージを食らって死なないようにお願いしますよ」


「個人差があるのですか?」

「はい、元々各自で持っているパラメーターの数値が高ければ、その分火力や防御力も上がります」


「成程……分かったわ。じっくり検証してみるね」


「それからソシアさん、明日はちゃんと街案内宜しくね。昼食はそっちの奢りです」

「奢るのはいいけど、私もあまりハーレンは詳しくないのよ……冒険者になってまだ半年だし」


「ん、私が案内する。ソシアの奢りで!」

「えー! なんでサリエさんの分まで奢りなんですか! 自分で出してくださいよー」




「【エアーコンディショナー】皆さん【エアコン】と唱えてみてください」


「「「「なっ! なにこれ!」」」」


「ん、涼しい」


「俺たちが真夏にフード被ってても暑くない理由なんですけどね。これ、良いでしょ?」

「良いってものじゃないわよ! ズルい! 自分たちだけ快適に涼んでたのね!」


「ソシアさん、ズルいって言いますけど、バレたら今みたいに大騒ぎでしょ? 早々教えられませんよ」

「いや、そうだけど……なんか釈然としないわ」


 ズルいというより、羨ましいようだ。


「一応危険な魔法なので、注意事項と使い方を説明するので守ってくださいね」


 例のごとくいつものように説明し、12時間の快適を与えてあげた。


「ちなみにこの魔法、習得できます」


 この発言で、皆の目の色が変わったのだが、残念ながら全員は無理だ。


「ん! リョウマ教えて!」

「勿論私も教えてくれるわよね?」


「なんか、ソシアさんがツンデレ系みたいになってきてるのは気のせい?」


「私でも覚えられるのかな?」

「あー、残念ですがマチルダさんとパエルさんは無理ですね。サリエさんでなんとか1年程あれば覚えられるかなってレベルです。サーシャさんで半年、コリンさんが3か月、ソシアさんが1か月ぐらいでしょうか」


「その基準は何か教えてもらっていい?」

「覚えるのに必要なのが、生活魔法程度ですが、火・水・風・聖・暗黒の5つの属性が必要になります。魔力のコントロールが苦手な人はまず習得が無理なのです。今ソシアさんがこの5属性を持っていますが、魔力操作が難しいので1カ月ほどの練習が要りますね。魔力操作が得意な魔法職が有利なのは仕方ないですよ。ちなみに水神殿の巫女さんたちは早い人で1週間、遅い人で1カ月程度で全員習得済みです」


「神殿の巫女様でも1カ月ですか。難しいものですね」

「聖属性がネックなのですよね。なかなか加護が付きにくいので意外と【クリーン】持ちも少ないのですよね?」


「そうですね、なのでダンジョンとかでは【クリーン】持ちは歓迎されます。フィリア様も【エアーコンディショナー】の魔法を覚えているのですか?」


「フィリアは15分ほどの指導で覚えたのですが、最初は持続時間が3時間で、タイマー機能もなかったですね。でも流石というか一発で発動させましたよ」


「流石フィリア様ですね! 凄いです、尊敬します!」

「でも、完全習得はナナに先を越され拗ねてましたけどね」


「8歳で巫女入りした、天才児のナナ様ですね?」

「ええ、素直で可愛い子ですよ」



 色々と雑談をしながら、明日の事も少し話し合った。

 俺はとりあえずガラさんにメールを入れ、朝8時に迎えが来てくれることになっている。同行者はフェイ、ソシアさんとサリエさんだ。他のメンバーは明後日の晴天決行の時の為に買い出しをするそうだ。


 一応回復剤等は俺持ちと伝えているのだが、ギルドでもう一度どんな依頼があるかとかの確認もしたいとのことだ。

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