第3話

 ――翌朝。

 ライが目を覚ますと、窓の外から太陽の光が差し込んで、部屋を照らしていた。

ファルとルウラはもう起きたのだろうか、二人とも姿が見えない。

二人は朝食を取りに行ったのかもしれない、と思い、ライも支度をして、昨日の酒場へ向かった。

 二人は昨日と同じテーブルに着いていた。

ライも二人に「おはよう」と言って、同じ席に着く。

「ライ、今朝も開発から連絡来てたよ」

ルウラがパンを食べながら、そう言った。

「ん? どんな?」

「αテストはこの町がある島だけがゲームの範囲で、そこから先は作ってないってさ」

「そうなんだ、ここが島だってことは、周りは海か」

「そうなるね。それで、この島から出る船に乗るところまでが、このαテストで実装されてる部分なんだって」

「そっか……、そこまで進んだらどうなるんだろうな?」

「そこまで行ってみないと分からないと思うよ」

「じゃあ、今日もゲームを楽しもう!」

「そだね、悲観してもどうなるもんじゃないし。遊んでれば今のバグが直るかもね」

「……そうかもな、気楽に行くか」

こうして三人は、今日もこのゲームで遊び続けながら、状況が好転するのを待つことにした。


 今日も三人は、ここリーナスの町のクエストをやることにした。

ゴブリンの住む洞窟、オークの集落、コボルトの廃坑などのクエストを消化して、それぞれ装備を買い替えた。

町のNPCから聞いた話によると、ここから西に行くと港町ポートリムがあるらしい。

三人はリーナスの町のクエストを一通りこなすと、そのポートリムへ向かった。


 港町ポートリムに着くと、そこの港には大型の船が泊っていて、この船に乗れば大陸に行けるらしい。

とは言っても、その先は実装されてないようなので、大陸までは行けそうにないが。

ともかく三人は、このポートリムでもクエストをやることにした。

 そうしてこの町のクエストを消化していると、時刻は昼となり、三人は街の中で食事を取り始めた。

「俺達以外のプレイヤー、見ないね」

「そうだね、みんなどこ行ったんだろうね」

「町の中にいるのは私達とNPCだけ。普通に考えると不気味だけど、ゲームの中では普通のことだよね」

「他の人達はどこで何やってるんだろうな……」

「どっかで遊んでるのかもね」

「船に乗ってこの島から出ると、ゲームからログアウトできたりとかね」

「だといいんだけどな~」

「え~、私、まだ遊び足りないよ」

「ファルはそう言うと思ったけど、ずっとこの島でゴブリン達と生活する気?」

「オークとでも結婚してここに定住したら?」

「そんな意地悪言わないでよ~」

「冗談は置いといて、この町のクエは残り一つだね」

「だな、廃城のドラゴンを倒せば『乗船券』を貰えるんだよな」

「残念だけど、遊びも間もなく終わりか~」

「いつかはそうなるものよ」

三人は昼食を取りながらそう話すと、廃城のドラゴンを倒しに向かった。


 彼ら三人は廃城へ着くと、雑魚の魔物を倒しながら奥へ進んだ。

そしてその最奥に、ドラゴンはいた。

そのドラゴンの周囲には、人骨と思しきものが散乱していて、彼らはドラゴンに食べられたのだろうか。

「ねぇ、あの骨って、他のプレイヤーが食べられたとかじゃないよね?」

「怖いこと言うなよ。これから戦うって時に」

「私は一度ゴブリンの所で死んだけど、食べられなかったよ?」

「そういえばルウラと初めて会ったのは、死んで町に戻された時だったね」

「じゃあ、死んでも町に戻されるだけかな」

「めっちゃ痛いから、もう死にたくはないけどね」

「とにかく、こいつ倒して終わらせるか」

そう話して、三人はドラゴンと戦い始めた。

 ライがドラゴンと切り結び、ルウラが魔法で攻撃する。

ファルは回復魔法で傷ついた仲間の傷を癒す。

そういった事を繰り返すうちに、三人はなんとかドラゴンを倒すことができた。

 その後、ドラゴンを倒した三人は、港町ポートリムへ帰って行った。


 三人がポートリムに着くころには空は暗くなり、夜になっていた。

クエストの報告をしようとNPCの所へ向かったが、夜は会えないようだ。

仕方なく三人は、宿で食事を取り、クエストの報告は翌朝にして、今晩はポートリムの宿に泊まることにしたのだ。




 ライが目を覚ますと、VRルームのソファーの上だった。

VRヘッドセットを外し、ソファーに付いていた輪から手足を抜き、立ち上がる。

(やっと元に戻れたのか……)

そう思い、下を向いて自分の服を確認する。

……鉄の鎧だった。

腰には鉄の剣を下げ、足に鉄の脛当て、手に鉄の小手、頭に鉄の兜を被っていた。

(くそっ! やっぱここもゲームの中かよ!)

そう思い、鉄の兜を脱ぎ、壁に叩きつけた。

(ファルとルウラはどうしたんだ……?)

次にそう思い、二人を探す為、個室から出た。

 個室から出ると、ファルとルウラはすぐ見つかった。

この部屋の出口に二人は立っていて、何か話していたのだ。

もちろんその二人の姿は、ゲーム内と同じである。

ライは二人に近づき、声をかけた。

「やっぱここも、ゲームの中みたいだな……」

「そうね……、ここからどうやって出たらいいのかしら……」

ルウラも困惑していた。

「ここもゲームの中なら、どこかに出口があると思うよ?」

ファルは相変わらず事態を深刻に受け止めていないようだ。

 ライは一度ため息をつくと、

「廊下に自販機があったよな、なんか飲んで考えてくる」

そう言って、廊下に出た。


 ライは自動販売機の前に立ち、腰に下げた小さい革袋から1シルバー硬貨を出し、自動販売機に投入する。

コーヒーのボタンを押し、それが下から出てくると、缶を取り出して、コーヒーの缶の蓋を開けて一口飲んだ。

(どうなってんだよ……、ゲームの中の銀貨で自販機でコーヒー買えるって……)

そう思ったが、買えてしまったものは仕方ない。

この奇妙な状況に頭が混乱しているものの、なんとか頭を回転させる……。

 すると突然、防火シャッターの非常扉が開き、誰かが出てきた。

――『木造創介』である。

ライは手に持った缶を投げ捨て、彼に掴みかかった。

「おい! てめぇ! どうなってんだ! 説明しろ!」

そう怒鳴りながら、木造創介の胸倉を掴み、揺さぶった。

「えっ、あの……、僕は……」

木造は急な出来事に驚きつつも何か喋ろうとする。

「いいから早く説明しろって!」

再びライは木造に怒鳴りつける。

ライの怒鳴り声は廊下に響き渡り、その後、静寂が廊下を満たした。

その大声を聞いたファルとルウラも、廊下に出てきたようだ。

木造は口をパクパクさせて、何か喋ろうとしているが、言葉が出てこないようだ。

彼のその様にイラついたライは、彼の胸倉を掴んだまま廊下を引きずって、会議室の扉を開けた。

 ライは会議室に入ると、木造を投げ捨てるように床に放った。

ファルとルウラも会議室へ入って来たようだ。

ライは少し落ち着きを取り戻し、再び木造に聞いた。

「ここは一体どうなってるんだ? ゲームの中から出てきたら、そこもゲームの世界なんて……」

木造は動揺しながらも、言葉を選ぶように答える。

「知らない……、僕はただ仕事をしていただけで……」

その様子を見ていたルウラが口を開く。

「木造さん、あなたもしかして、この会社の人を誰も知らないんじゃないかしら?」

その発言を聞いた木造は、少し考えた後、目が泳ぎだした。

「そ、そんな……、馬鹿な……、僕は仕事をしていたはず……」

明らかに木造のようすがおかしい。

ライはルウラを見て、彼女に聞いた。

「それってどういう事なんだ?」

「私が思ったのは、ここもゲームの中で、この木造さんも何かのゲームのプレイヤーの一人なんじゃないかしら」

「それは……、そうなのか……、僕もゲームをやっていたのか……?」

木造の動揺している様は、彼が何も知らないという事を物語っていた。

「だとすると、今のゲームのログアウトのやり方もあるはずだよな?」

ライは落ち着きを取り戻すと、考え出した。

「木造さん、あなた、何か知らないかしら?」

ルウラは木造を見て、優しく話しかけた。

木造は何かを考えながら沈黙した後、話し出した。

「……そうだ、開発室に行こう。二十八階と二十九階が開発室で、三十階に事務と社長室がある」

木造はそのように言うと立ち上がり、

「みんな僕に付いて来てくれないか? 開発室は僕のIDカードが無いと入れないはずなんだ」

「分かった、木造さんも何も知らないみたいだしな」

ライがそう言い、ファルとルウラも一度うなずくと、木造に付いて行く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る