第1530話 シマウマとライオン

 さぁ、前話に引き続き、NHK『みんなのうた』より、私が初めて聞いた時に気になっちゃった曲のご紹介です。


 これはね、もうタイトルで「えっ」ってなったやつ。


『シマウマとライオン』


 これね。


 草食と肉食ですよ。

 えっ、これもう『みんなのうた』で扱えるようなハートフルな曲にはならなくない? 食うか食われるかのヒリヒリした感じのやつじゃない? それとも何、弱肉強食をこれで教え込ませる感じ? 確かにね、世界っていうのは、子ども達が思っている以上に残酷ですよ。私達だってね、命をいただいているわけですから。そんな重いテーマぶっ込んで来た?! 食育ってそういうこと?!


 とはいえ、NHKです。

 アニメーションの方もなんかゆるくて可愛らしい感じです。てことはやっぱりそこは種族の垣根を超えたハートフルな内容なのかもしれない。そう思っておりました。


 するとどうやら何とこれは恋の歌であるようです。

 何せ、お互いに『かなわぬ恋をした』って歌ってるんですから。


 この曲、1番と2番で視点が違うんですよ。1番がシマウマ(♀)で、2番がライオン(♂)。


 シマウマ(♀)は歌うわけです。

 凛々しいたてがみに、優しいまなざしが素敵だと。

 けれど、やはり彼女の仲間は危険だと言うわけです。そりゃそうよ、相手はバリバリの肉食獣。百獣の王、ライオンです。彼女も、もっと知りたいと思いつつもやはり怖すぎる、と。危険な男に惹かれちゃう女性心理とかそういうやつなんでしょうか。


 だけどそんな恐ろしい彼ですが、毛づくろいをしているところや照れる仕草も良いと。うん、恋する乙女。


 さて、その一方でライオン(♂)はというと、こちらもこちらでシマウマ(♀)が気になるようです。つぶらな瞳にそよぐタテガミを見ると、彼の心もざわめくようです。ちなみに、シマウマちゃんは『たてがみ』、ライオン君は『タテガミ』派のご様子。表記の違いによって受ける印象も違いますからね、細かい演出ですよ。その辺はまぁ良いです。歌えばどっちも一緒です。


 そう、それで、さんざんざわめいたライオン君は思うのです。 


 あぁ、なんておいしそう


 と。


 やっぱり!

 やっぱりじゃねぇかお前!

 ほーら見ろ! やっぱりそういうことなんだよ!

 所詮ライオン肉食獣はシマウマのことをそう見てるんですよ。食べ物だと!


 ですが彼は二番でこうも歌っているのです。


 優雅な縞模様と可愛い仕草にトリコになった、と。


 こーれは?!

 せめぎ合ってる?!

 物理的に食べたい本能と、肉食獣にあるまじき種族を超えた思いがせめぎ合ってる?!


 そして、彼はさらに続けます。


 君に伝えたい、熱い思い


 あぁ、なんておいしそう


 結局!

 結局のところはそっちの意味なんですよ!

 この場合、恋愛的な意味の『美味しそう』じゃないから。逆にそっちだった方がまずいですよ。子どもはね? 物理的に食べる以外の『美味しそう』なんてまだ知らないからね!? 


 たぶんこれ、シマウマの方はほんとに好きなんですよ。食べられたい(物理)とかじゃなくて、ほんとに恋してるっぽいんですよ。だけどライオンの方は、これマジで食べちゃいたい(物理)ですから! だってこれ、サバンナのお話だから!


 お前!

 これ教育テレビだぞ!


 ……いや、それも教育か。教育か?

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