第614話 好きな人なら
先日、娘ちゃんの予防接種を打ちに病院まで歩いていた時のことです。
注射が好きな子どもなんてほぼほぼいないと思いますけど、娘ちゃんもそのご多分に漏れず、注射が怖い怖いと前日から騒いでおりました。
何ならパパから「明日お注射だよ」と告知されてフライングべそをかいてたりして。まだ痛いことは何もしていないのに想像だけで泣ける女。さすがは未来の女優です。
そんなこんなで迎えた本日。
歩いて行ける距離ということで、まずは早めのお菓子でテンションを上げまくってから、楽しくおしゃべりしつつゴーゴーです。
「おちゅうしゃって、蚊くらい? それくらいのいたさ?」
道中でも娘ちゃんはガンガン聞いてきます。
「蚊より痛いよ、確実に」
ママは正直に答えます。娘といえども容赦はしません。
どうせ痛いんですから。痛くないよって言われて痛かったらがっかりですからね。ママの嘘つき! ってなりますから。ママは嘘をつきません。
とまぁそんなこんなで多少怖がらせつつ歩いておりますと、工事現場にさしかかりました。
「あっ、あれパパのおしごとじゃない?」
旦那の仕事は別に工事をするやつではないんですが、それらしい仕事をしてはおります。外構のなんたらかんたらで、土間を打ったり、フェンスや塀を立てたり、そういうのをしています。妻の私ですら、正直なんの仕事をしているのか上手く言い表せません。とりあえず、外で家の周りに関するものを作っている、という仕事です。
「違うよ、パパじゃないよ」
「えー? ちがうのー? あっちにダンプカーあるのに?」
「この世のすべてのダンプカーがパパに通じていると思うな」
「そっかぁ。でも、こないだ、イオンに行くときー、パパおしごとしてるの見たよねー」
「ああ――……、それ去年の夏の話だけどね」
娘ちゃんは基本的に昔のことを昨日のことのように話します。去年の武勇伝なんかもつい先週くらいのノリで話してきます。
というわけで、去年の夏、まだ自転車の後ろに乗せることが出来た娘ちゃんとアイスを食べに行く道中で偶然お仕事中のパパを発見した時のことを言っているわけです。
「パパ、あの時、なんのおしごとしてたの?」
「さぁ? ママわかんない」
わかるわけがないのです。
ただでさえ普段からいまいちわからないんですから、去年のことなんて微塵たりともわかるわけがないのです。だから、正直に言いましたとも。わからん、と。
すると娘ちゃんは言うのです。
「えっ? ママってパパのこと好きじゃないの?」
――は?
好きだが?
「好きな人のことはなんでも知ってるんだよ!」
うっそ、マジで?
「好きな人のことはねぇー、ぜぇーんぶ知ってないとダメなんだからぁ!」
と娘ちゃんは得意気です。
畜生、娘に教えられるとは。
しかし、娘ちゃん、パパだってママのことで知らないことたくさんあるんだぜ?
そう、
とまぁ、そんな感じのおしゃべりをしながら病院に到着。
結局娘ちゃんは私に抱っこされた状態で注射を打たれました。泣かなかったです、偉い。
そんで、それから3日4日経つんですけど、「わたし、ちゅうしゃのとき、泣かなくてえらかった?」って何度も聞いてきます。何度でも褒めてもらいたい女です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます