第126話 エビだ――――――!!!!

 死ぬまでにこの台詞を言いたい、っていうのありません?

「この瞬間ときを待ってた!」とかそういうやつです。


 要は、漫画とか小説の台詞なんですけど、私だって一生のうちに一回くらいはそんな漫画みたいな展開に身を投じたいわけです。


 だけど悲しいかな、いくら私の人生の主役は私だといっても、私のストーリーなんて、所詮大した浮き沈みのない現代ドラマ(コメディ要素あり)なのです。


 だけれども、子ども達は違います。

 ウチの子ども達はいつだって毎日が冒険であり、手に汗握るアクション(被害者は旦那)もあって、色んな出会いもあるし、これから胸キュンのラブコメ展開もあるでしょうし、受験編や就活編などなどイベントも盛りだくさんです。


 さて、未来のイベントは目白押しなわけですが、まずは目先のことですよね。

 視点を私の方に戻しますと、この『宇部物語(こう書くと古典っぽい)』は現在、子育て奮闘編でして、まぁ誰でも最初は一年生と言いますけれども、『お母さん』としては6年めなんですが、『小学生のお母さん』とするとまだまだ初心者。ママ友もおりませんしね、毎日が手さぐり。入浴一つとっても、一体いつまで親が頭と身体を洗ってあげるのか、いつまでタオルで全身拭き拭きしてやるのかとかね、そういうこともわからないわけです。寝る前のぎゅーとかもね、悩むところですよ。


 いつまでも手元に置いて、守っていたいわけです。

 ウチの可愛い子達を傷つけるやつぁ許さないのです。

 

 ちょっと過保護かなぁとも思うんですけどね。子ども達のちょっとした喧嘩とかにもね、どこまで介入して良いのかな、とか。

 

 さて、そんな過保護(?)な私ともなりますと、『ガチャガチャ(これの名前ガチャガチャで良いの?)』とか、マックのハッピーセット、食玩などなど、何が出るかわからない系のやつも私の頭を悩ませるのです。


 幼児ってほら、もう絶対自分の欲しいものが当たると思ってるじゃないですか。けど、そうもいかないじゃないですか。だからね、開ける瞬間、もうドキドキなんですよ。欲しいものじゃなかった時、当てが外れた時に、どうやって励まそうって。


 特に息子は小さい頃、本当に気難しい子で、自分の思い通りじゃないとかんしゃくを起こすタイプだったもんですから。いまはさすがに違いますけど。

 だからね、もう開けた瞬間が勝負。


「すっごぉ~~~~~~いっ! これ超っ良いやつじゃん!! うわっ、何これ、すっごい恰好良いっ!! ヒュ~ウッ!!!」


 本気のテンションでね。子どもって案外鋭いですから。演技力勝負。


 例え前回のと同じやつが出てきてもこの調子です。


「ぃやったぁぁぁぁぁ!! 2個もあるじゃん!? 2個もあるじゃぁぁぁんっ! 妹ちゃんと仲良く遊べるじゃぁぁぁんっ!!! ヒュ~ウッ!!!」


 これね。3個めでもやりますよ。その場合「パパとも遊べるね!」になります。ママは最後の砦。


 でもね、さすがの私でもちょっとどうしようって思うやつがありまして。

 それがあれ、『フエラムネ』のおまけ。


 もうどこからどう見ても、値段的にもサイズ的にもどう考えてもショボいやつしか入っていないことが約束されたフエラムネのおまけですよ。


 よりによってそんなフエラムネを息子が欲しがってしまったわけです。

 買っちゃいますよ、買っちゃいましたとも。


 さて、ラムネをぴいぴいしながら(可愛い)食べ、お待ちかねのおまけ開封タイム。私もドッキドキですよ。何せ絶対ショボいですから。だってサイコロキャラメルの半分くらいの大きさの箱ですからね? ここから逆転させるなら砂金かダイヤの指輪でも入ってないと。


 でもね、中から飛び出したのは――、


 エビ。


 ロブスター風のエビ。

 真っ赤なやつね。着色されてるっていうよりは、赤いプラスチックそのまんまって感じの色のやつ。こんなん出てきてどうすんの。これでどうやって遊ぶの? シルバニアファミリーに与えるの? あいつらエビ食うの?


 ……ごくり。


 いやもう我々ならね? ほら、ツインテールってエビ味だしね? そういう点でかなり美味しいんですけど。でも、たぶん息子はまだツインテールがエビ味って知らないだろうしなぁ。


 と、ためらってしまったのです。

 この一瞬が命取り!


 しまった!

 完全に出遅れた!!


 と、思っていたら。


「エビだ――――――――!!! やったぁ――――――!!!!」


 うっそ、まじで?

 お前そんなにエビ好きだった?


 まさかのエビが大当たりというパターン!

 にしてもこんなに大袈裟に叫ぶ?


 ……あっ、もしかして、私のせい?


 


 

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