第276話謎の空間の中で

 見るものには明るく、見るものには暗い。虚であり実である、ここはそういう空間。



「あのダイスと言ったか。他の者程とは言わんがちと肩入れが過ぎるのではないか?」



 聞こえる言葉こそ古臭いがその声は幼い。人であれば違和感に囚われるであろう。



「そうかの? 主等に比べれば随分平等だと思うが。それに使徒に近い扱いで接触できる個体は大事だろう。加えて言わせて貰えば、賽の数をあの男より振っているのだって大勢いる。そもそもこの世界に生まれ出た者全てに与えている物だ」



「然り」低く厳つい声が同意を示す。



「そう言われるとちと痛いの。アレは実力で機会を勝ち取った。そういう事にしておこう」



「大体お前ほど贔屓はせん。しかも奴は交渉次第ではどの神にでも協力をする可能性がある。本人曰く商人らしいからな。精々高く買ってやれば良い」



「そこじゃ。それが問題になるのではないか?確かに我々各自の悩みを解決する可能性はある。しかしじゃ。それは我々から寵愛ないし恩恵を報酬として受けるという事じゃ。それが分からぬお前ではあるまいて」



「それこそ我に関係ないな。ここにいる神あるいは聞いてるだけの神。多々いるだろう。その判断は各々がすべき事。我は既に下した決断だ」



 一時の静寂が覆うが、それを切り裂いたのはやはり幼い声であった。



「ええい、なんの為に集まったか分からぬではないか。わしの好きにさせて貰うからな」



 そう言うと一つ気配が消える。



「騒がしいのが行ったか。それでお前はどうするのだ?」



「見極め、不相応なら他神に注意を促す。尤も今の所その必要は無さそうだ」



「ほう、その心は?」



「あの男の有り方と憧れは見てれば分かる。思慮も浅い訳ではあるまい。懸念があるとすればあの楽園が落ちて復讐鬼と化せば、直接手を下せない以上、相応の希薄化は覚悟せねばなるまいよ。我々は大きい意味での人種在ってこその存在だからな」



「饒舌なお前を見るのは久ぶりだ。基本一言二言しか話さない奴が。それほどまでに面白いか」



「生命は物語を紡ぐ物。退屈な物の中に変わり者があれば心が動く。停滞は神とて腐敗の元だ」



 その声には先ほどの厳つさに加え、嬉しさと終わりのほうに寂しさのような感情が入り混じっているように聞こえた。


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