第27弾 身元不明
とある県の山中にて、推定90歳代とみられる男性の”遭難死”したと見られる遺体が発見された。
遺体発見から数日経過しても、この高齢男性の身元は一向に判明しないうえ、ちょうど同時期に同じ地域で”別の失踪事件”までもが発生していた。
その”別の失踪事件”――”4才男児失踪事件”の重要参考人として、警察署に呼ばれた1人の女の口から、俄かには信じがたい供述が紡ぎ出されることとなった。
以下は自己中極まりないうえサイコな女の供述を箇条書きしたものである。
・ 私は行方不明の男児・ケイスケくんの隣家に住んでいる。
・ 皆が必死で捜索中の彼はもうすでに亡くなっている。
・ けれども、私が”直接”彼を殺害したわけではない。
・ 私が彼を連れ出した理由は、大変に可愛らしい容姿である彼の「一生分の姿を見てみたかった」だけだ。
・ 私は今、タイムスリップ写真(昔、撮影した写真と同じ場所で、被写体の方の服装やポーズ、写真の構図などもできうる限り再現して撮影した写真)にハマっていて、その被写体に彼を選んだ。
・ 頸部を軽く圧迫して眠らせた(つまりは軽く絞めて落とした)彼を車に乗せ、彼と2人きりになれる山の麓へ連れていった。
・ スマホにダウンロードしていた「A miserable time slip picture」というアプリ(被写体に向けて画面下部に表示されているメモリを調整すると、0才から100才までの間の被写体の一生分の姿を画面に映し出すことができるアプリ)の年齢バロメーターを徐々にあげていき、眠ったままの彼の一生分の写真を私はノリノリで撮影していたのだが……ついに最終地点である100才にまで到達した時、スマホが電池切れ寸前となった。
・ と同時に、スマホ画面には「完全に電池切れとなる前に、被写体の年齢を元の年齢へと戻してください!!! そうしなければ、現在の画面に映し出されている姿が被写体に”そのまま適用”されてしまいます!!! 早く、一刻も早く、被写体の年齢を元の年齢へと戻してください!!!」というアプリからの警告までもが表示された。
・ 私は急いで年齢バロメーターを彼の元の年齢である4才にまで戻そうとしたが、間に合わず、年齢バロメーターが90才まで来た時、あっけなくスマホの電池は切れてしまった。
・ よって、後部座席であどけない寝顔を見せていた4才のケイスケくんは、90才の老人へとその姿を変えていまい……”見た目はおじいちゃんなのに、頭の中身は母を乞い泣き叫び続ける4才男児のままの彼”に、私はとてつもない不気味さを感じずにはいられなかった。
※女のこの供述には警察からも「お前がやったんじゃないか!」というツッコミが入っていた。
・ この姿のケイスケくんを彼のママの元へと返すわけにはいかないと思った私は、彼にタオルケット1枚だけを持たせ車から降ろした。私はケイスケくんが、通行人に身元不明の老人として保護されるものだと思っていた。彼が山奥へと迷い込み、そのまま山中にて、遭難死するなんてことは私は想定外でしかなかった。
そう、つまり『先日発見された推定90歳代とみられる男性の”遭難死”したと見られる遺体は、行方不明のケイスケくんの遺体である』と女は、供述したのだ。
その後のDNA鑑定によって、年齢が全く違うはずである高齢男性とケイスケくんのDNAは、見事なまでに重なり合い、”身元判明”を示すこととなった。
⇒【ややホラー風味な】身元不明【ショートショート第27弾】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888621177
(公開日:2019年2月24日)
★作者コメント★
たまたま隣の家に住んでいただけのサイコ女の身勝手によって、恐怖と孤独、寒さと痛みと空腹のなか、その短き人生を終えたケイスケくんの最期は胸が痛くなりますね。彼の無事を祈って必死で捜索していたご家族の悲しみも察するに余り有ります。
本作に登場するアプリ「A miserable time slip picture」ですが、本作の女とは逆の使い方をすれば、若返ることも可能な夢のアプリだと思いました。
話は変わりますが、最初は「第1弾から第10弾の公開まで頑張ってみよう」と考えていた【ややホラー風味なショートショート】も、先日公開した「銭湯モニター」で早くも28弾となりました。ということは、なずみワールドにおける、サイコな奴らのラインナップや酷い目に遭う(遭わされる)被害者たちがますます増えていっているということですね。
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