『シュレーディンガーの猫』と有馬記念の関係性について

暗黒星雲

第1話 マッハは時間を跳躍する!

 ここは三谷朱人みたにあけひと教諭が居座る理科準備室である。


 現在昼休み。準備室の隅で石油ストーブ上にのせてあるヤカンから絶えず蒸気が噴き出している。

 いつものようにお弁当をパクパク食べているのは三谷の教え子、黒田星子くろだせいこだ。すでに弁当を食べ終わっている綾川知子あやかわともこは相変わらずキーボードを叩いている。PCのモニターを眺めながら何やらぼやいている。


「マッハのパーツって少ないよね。ゼッツーとは大違いじゃないか」


「見たな。貴様の目玉をえぐり取ってやる」


「ふははははは。これだ、これしかない」


 三者三様、各自の世界に浸りっていた。お互いに干渉しないのが暗黙の了解となっている。

 星子はベアリングを撫でまわし、知子はヤホオクでパーツの検索をしている。そして三谷教諭が眺めているのはこの資料だった。


[2017年有馬記念出走表](※)


「枯渇している研究費を充当する絶好の方策を思いついたのだ。このあいだの屈辱を晴らしてやるぞ」

 

 その話に知子が食いついてきた。


「え? ミミ先生どうやって稼ぐのさ。あ、ついでにマッハのパーツも仕入れてくれる?」

「うむ。儲かればな。星子は何か欲しいものあるかな?」

「私は2TBのハードディスクかな。アニマックスを録画しまくるから」

「ふふふ。そんなものは即買ってやる。儲かればな」

「ミミ先生。何ニヤニヤしてんだよ。本当に儲かる話があるのかよ」

「ある」

「平和など幻想にすぎない」

「星子黙ってろ。で、どうするのさ」

「ふふふ。先の実験でマッハが光速を超えられる事が実証された」

「そうですね」

「それは時間軸に対して駆動力を持っているからだ」

「うん、ミミ先生の話ではそうだった」

「それはつまり、時間を超える能力があるという事なのだ」

「時間を超えてどうするのさ」

「強盗とか。うひゃあ」

「ちがう。競馬だ。これは昨年の有馬記念の出走表だな」

「そういえば去年の暮に盛大に外したって自慢してたよな。それじゃあ結果が分かってるレースの馬券を過去にさかのぼって買う。そして儲けるって話?」

「さすがは綾川。察しがいいな」

「大佐は競馬なんかやっても絶対に儲からないって言ってるよ」

「普通はそうなんだ。結果は見えない。でも、あらかじめ結果が分かっているなら100%的中するって事じゃん」

「そうだとも。後はマッハが正確に過去にさかのぼれるように調節しなくてはいけない」

「また改造するのかよ」

「ふふふ。今夜8時に集合だ。遅れるなよ」

「行っても手伝えることないだろうけど、面白そうだな」

「調子に乗るな、このクソガキが」

「何訳わかない事言ってんだよ。ギー先生釣らなきゃいけないから星子も来いよ」

「了解しました。大佐殿」

「私は大佐じゃないんだけどな。面白そうだなミミ先生」

「ふははははは。時空を超えて大金を掴むのだ。ははははは!!」


 理科準備室に三谷の笑い声が響く。もちろん、通りがかった教頭に注意されたことは説明する必要はないだろう。


※詳細は説明文を参照してください。

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