第5話
秘密と言っても別に隠しているようなものでもないし、かと言って明るみに出すようなものでもなかった。
俺の「秘密」というのを手短に述べるなら記憶喪失という言葉が丁度いいだろう。俺は小学生の頃、事故に遭って一命を取りとめたが記憶喪失になってしまったらしい。(記憶喪失で事故についての記憶もなかったので、ある程度落ち着いてから事故について聞いてみたがどうやら同年代の女の子が車に轢かれそうになっているのを助けに入って車と衝突したらしい。轢かれそうになった女の子は無事助かったようだがそれが誰なのか、今どこにいるのかはわからない)
目が覚めた時には病院のベッドの上で、周りには家族と思われる人間が立っていた。
すぐに家族と思わしき人間に声をかけられたがそもそも自分の名前がわからなかったので返事ができなかったを覚えている。
これは10年くらい前の話なのでここからどう復帰したのかは断片的な記憶としてしか残っていないが、わりと円滑に復帰することが出来た気がする。
しかし加藤さんの話と俺の秘密がどう関係があるのかわからなかった。
「ねぇ、なんで俺の秘密が今出てくるんだ?」
「なんとなくだけど、何か関係がある気がして。それにあっちが秘密を話したならこっちも話した方がいいのかなって思っただけ。ごめん、気にしなくて良いよ」
そういうことか、と納得した。
気がつくと屋上にいた生徒はみんな食べ終えた弁当を持って帰っていった。時計を見ると後10分で昼休みが終わることに気づく。
「じゃあ今日はこれで。木島、ありがとうな」
「別に大したこと言ってないしいいよ。頑張ってね」
木島はそう言って屋上から去っていった。
誰もいなくなった屋上で俺は太陽に手を伸ばす。指と指の間から漏れる光が思いのほか眩しくてすぐに目を閉じてしまった。
まずは加藤さんのことを知ろうと思う。それが解決するための一番の近道であると信じて。
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