春夏秋冬
春夏秋冬、花鳥風月。あなたが欲しいと望むのはどの季節か。
私は春に焦がれる。
春は転機。出会いと別れ。人々が一歩、また一歩と階段を上ってゆく。過ぎた時間に別れを告げ未来へと歩き出すその時である。春色の空に想いを馳せ、またひとつと階段を上る。
夏は懐古。良くも悪くも思い出となる出来事が多い。鳴き止まぬ蝉の朽ちてゆく様に形容し難いほろ苦さを感じ、しみじみと思い、己が琴線に触れるのだ。
秋は縁。何かと味覚の秋、芸術の秋、スポーツの秋だのと、秋と他のものを関連付けたがる。異国の収穫祭なども味覚の秋に乗じて参入してきたように思う。
冬は枯れ。植物は枯れ、人の心も枯れて凍る。寒さは死への恐怖を。日が短くなり明るい時間は減り闇が増えれば漠然とした不安を。年末年始の慌ただしさは焦燥感をもたらすのだ。
生き急ぐ私は冬にいて、いつまでも春を待ち望んでいる。春は来ない。寒さに身を強張らせ、ただただ心の飢餓と闘うのだ。
反して生き急いだ成れの果てとも言える大人たちは、然して当時は華やかでもなかったであろう夏に囚われ続けている。輝かしさを放つ『青春』という言葉に絆されて、現状から逃避するのだ。
儚い時間ほど短く人々は永久を願う。無理だと分かっていても手を伸ばさずにはいられないのが人間。仕方あるまい。手に入れたいものほど届かぬのだから。
霙に濡れたアスファルトの上を独り寂しく歩き、春はまだかと待ちわびる。陽光のあたたかさは無理でもせめて人肌くらいは感じたいものである。寒い。
とうに冷めたオレンジキャップのミルクティ。その甘さだけが下に絡みついて離れてくれなかった。
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