第38話 僕とメイドと元許嫁と女神様と第一皇女の旅立ち前




  *




 その後、予定通り準備を整えるために街へ向かった。


 まずは武器屋に立ち寄ってメイとドロワットさんの装備品を購入したあと道具屋でポーション類をいくつか購入した後、冒険者ギルドへ行く。


 中に入るなり多くの冒険者たちからの視線を浴びる。


 そんな彼らを無視してカウンターにいる受付嬢に声をかけた。


「こんにちは」


 呼びかけると彼女もこちらに気づいたようで笑顔で出迎えてくれた。


「あら、いらっしゃい! 今日はどうしたのかしら?」


 尋ねられたので用件を伝えることにした。


「実は、これから旅に出るので、その、ご報告をしたくて……」


 最後の方は恥ずかしくなってしまい言葉が小さくなってしまったがなんとか伝えることができた。


 そんな僕を見た彼女はクスッと笑うと優しい声色で話しかけてきた。


「――なるほどね、わかったわ」


 そう言ってから一枚の用紙を差し出してきた。


「これは……?」


 思わず質問してしまった僕に彼女は言った。


「ここに名前を書いてちょうだい、そうすれば手続きが完了するからね」


 言われた通りに名前を記入してから用紙を返す。


 彼女は受け取ったあとで何かを書き込んでから差し出してきた。


「はい、これを持っていってね」


 手渡されたものを確認する。


 そこにはギルドからの身分証明書のようなものだった。


 それを受け取りながら彼女に向かって頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 それに対して彼女は笑顔のまま、こう言ってくれた。


「いいのよ、気にしないで。それよりも無事に戻ってくるのよ?」


 その言葉に僕は頷いてから答えることにした。


「――もちろんです。あ、それと彼女の冒険者登録をお願いします」


「ドロワット・シストロン・ウィンターですわ。わたくしも冒険者として旅立つことになりましたので、よろしくお願いしますわね」


 それを聞いた彼女は一瞬だけ驚いたような表情になったもののすぐに笑顔を浮かべてこう言った。


「はい、よろしくお願いいたしますね! それでは早速ですが、こちらの水晶に手をかざしてくださいますか?」


 彼女に促されるまま差し出された水晶の上に手を乗せると淡い光を放ち始めた。


 しばらくすると光が収まり、やがて元の輝きを取り戻した。それを見た彼女が驚いたように声を上げた。


「――すごいですね。まさか、ここまでとは思いませんでしたよ」


 そんな彼女の言葉に疑問を抱いた僕は問いかけた。


「どういうことですか?」


 すると彼女は少し考えた後で答えてくれた。


「――通常であればEランクスタートになるのですが、どうやらDランク以上はあるようですね」


 その説明を聞いた瞬間、僕とドロワットさんは顔を見合わせたあとにお互いに喜びあった。


 なぜなら――それは僕たちの実力が認められたということだからだ。


(よかった……これで胸を張って冒険に出られる!)


 そんなことを考えながら改めてお礼を言った。


「本当にありがとうございました!」


 それに対し、彼女は笑顔で答えた。


「どういたしまして、これからも、がんばってくださいね」


 それからしばらくの間、彼女と談笑したあとで最後に挨拶をしてからギルドを後にすることにした。


 その際、メイが名残惜しそうにしていたのを見てしまったので頭を撫でてあげると嬉しそうに微笑んでくれた。


 そんなやり取りを見ていたドロワットさんが対抗心を燃やしたのか同じように撫でろと言わんばかりに頭を寄せてきたため苦笑しながらも撫でてあげた。


 こうして二人分の頭を撫でた僕は今度こそギルドを後にした。




  *




 オータム帝国の城まで戻ってきた僕たちは皇帝陛下への謁見を申し込んだところ、あっさりと了承してくれたので案内された場所へと向かった。


 そこは玉座の間というだけあってかなりの広さがあり、装飾なども豪華絢爛という言葉が相応しいほどに豪華な造りになっていた。


 そんな場所に足を踏み入れると、奥にある大きな椅子に腰かけている人物が目に入った。


 その人物こそがこの国を治める皇帝であり、バーシアさんのお父様だ。


 近くまで行くと彼が声をかけてきた。


「――よく来たな。ゴーシュ・ジーン・サマーと、その仲間たちよ」


 彼のその言葉に対して僕は軽く頭を下げて挨拶をした。


「お久しぶりです、皇帝陛下」


 すると彼は頷きながら言った。


「……うむ、そなたの活躍は聞き及んでいるぞ」


 そこで一度言葉を区切ったあとでさらに続けた。


「――ここに来たということは、つまり……バーシアを旅に連れて行きたいのだろう?」


 その問いかけに僕は頷いてから返事をした。


「……はい、その通りです」


 そう答えると皇帝陛下は少し考える素振りを見せてから再び口を開いた。


「――いいだろう、許可しようではないか」


「ほ、本当ですか!?」


「ただし条件がある。余の娘であるバーシアを絶対に守れよ? 傷物にしたら許さんぞ!」


「……わかりました。任せてください!」


「――では、頼んだぞ! 若き勇敢なる者よ! バーシアをよろしく頼む!」


「そんなことを言われなくたって、ゴーシュ君はわかっていますわよ。バーシア・ゲン・オータム……必ず、この国に戻って参ります」


「ああ、信じて待っておる!」


「……ええ、待っていてくださいませ」


 バーシアさんは、それだけ言うと踵を返して歩き出してしまったのだが――途中で足を止めると僕の方に振り向いて微笑みながら言った。


「――ありがとう、あたしを旅に誘ってくれて……」


「ううん、むしろ……こちらこそ感謝しているんだよ? だって君が一緒に来てくれるおかげで僕たちは強くなれるんだからさ」


 僕がそう言うと彼女は照れくさそうにしながら小さな声で呟いたのだった。


「……バカ……」


「えっ? なにか言った……?」


 しかし、それには答えずにそのまま立ち去ってしまったので、仕方なく僕も後に続くことにした。




  *




 その日の夜、夕食を終えたあと宿屋の自室でくつろいでいると、ノックする音が聞こえてきたので、入室の許可を出す。


 入ってきたのはメイだった。


 どうしたのかと尋ねると恥ずかしそうに顔を赤らめながら言ってきた。


「あの、えっと……今日は一緒に寝てもいいでしょうか……?」


 その様子を見てなんとなく察しがついた僕は彼女を手招きしてベッドまで連れていく。


 メイはゆっくりと近づいてきて隣に寝転がると身体を密着させてきた。


 そんな彼女を抱きしめるように腕を回してから話しかけた。


「――もしかして、不安なのかな?」


 そう問いかけてみると彼女は少しだけ間を空けた後で頷いた。


「はい、正直に言えばそうですね」


 そして話を続けた。


「――ゴーシュ様は不安ではないのですか?」


 それに対して僕は正直な気持ちを話すことにした。


「もちろん、僕だって不安だよ。だけど、それ以上にワクワクしている自分がいるんだ」


 僕のその言葉にメイはクスッと笑うと嬉しそうな声色で言った。


「――ふふ、やっぱりゴーシュ様と一緒だと安心できますね」


「そうかな……? でも、そう言ってくれると嬉しいよ」


 そう言いながら彼女の頭を優しく撫でると気持ち良さそうな表情を浮かべていた。


(――かわいいなぁ……)


 そんなことを考えながらしばらく続けていると不意に声をかけられた。


「――ねえ、ゴーシュ様……」


「うん? どうかしたのかな?」


 返事をすると彼女は僕を見つめながらこう告げた。


「――大好きです」


 それを聞いた瞬間、心臓の鼓動が早鐘を打ち始めたのがわかった。


 それと同時に顔が熱くなっているのを感じたので視線を逸らしながら答えた。


「……あ、ありがとう。僕も大好きだよ」


 それを聞くと彼女は頬を赤く染めたまま抱きついてきた。


「――嬉しいです!」


「うおっ!? あ、危ないって……!」


 なんとか受け止めつつ声をかけてみたのだが聞こえていないようだった。


 だから、仕方なく抱きしめ返すことにした。


(まあ、たまにはこういうのもいいよね……)


 そう思い直してしばらくの間、二人で抱き合ったままでいたのだった――。

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