第30話 第一皇女は王国を滅ぼしたい
*
その後、僕らは帝都にあるカフェにやってきた。
店内に入り席に着くとメニュー表に目を通した。
(さて、何を頼もうかなあ……)
そんなことを考えながら悩んでいると不意に声をかけられた。
「決まりましたか?」
顔を上げるとそこには期待に満ちた眼差しを向けてくるバーシアさんの姿があった。
そんな彼女に向かって僕は答えるのだった。
「まだですよ……」
その返答に満足した様子の彼女が頷きながら言った。
「なるほど。では、あたしも一緒に考えてあげますね!」
そう言うと彼女は真剣な表情を浮かべて考え始めた。
その様子を見て改めて思うことがあった。
(それにしても本当に綺麗だなあ……)
それは顔立ちが整っているというだけではなく立ち振る舞いや仕草にも表れていた。
だからこそなのか自然と目で追ってしまうのだ。
そんな風に考えていると急に顔を上げた彼女と視線が合った。
その直後のことだった。
彼女がクスリと笑った後で言った。
「ゴーシュ君、そんなに見つめられると恥ずかしいですよぉ〜」
そんな彼女の言葉で我に返った僕は慌てて謝った。
「す、すみません……!」
それに対し彼女は微笑んでみせると優しく語りかけてきた。
「別に怒っていませんから大丈夫ですよ! それともぉ〜もしかして見惚れちゃいましたかぁ?」
その言葉を耳にした瞬間、僕の顔は真っ赤になってしまった。
「ち、違いますよ!」
そんな僕を見た彼女は悪戯っぽく笑った後で楽しそうに言ってきた。
「ふふふっ! やっぱりゴーシュ君は、かわいいですね!」
(ああ、また、からかわれているな……)
「それよりも注文は何にしますか?」
それを聞いた彼女は小さく頷くと答えた。
「そうですねえ……あたしはこのチョコレートパフェにしようと思いますけど、ゴーシュ君はどうしますか?」
その問いに僕は悩みながらも答えた。
「じゃあ、僕はショートケーキでお願いします」
するとバーシアさんは笑顔を浮かべながら頷いた後で店員さんを呼ぶために手を上げた。
それを見た僕が声をかけようとした時には既に呼んでしまっていたようで、そのまま待つことになった。
それから少ししてからやってきた店員に対して彼女が話しかけた。
「すみません、チョコレートパフェを一つとショートケーキを一つください」
そんな様子を見ていた僕は思わず呟いてしまった。
(なんか慣れている感じがするなあ……)
そんなことを考えている間にも話は進んでいたらしく、やがてバーシアさんが再び口を開いた。
「あと、食後の紅茶をお願いできますか?」
それを聞いた店員さんは軽く会釈をするとその場を後にした。
それを見送った後で彼女が話しかけてきた。
「ゴーシュ君、今日は付き合っていただいてありがとうございました!」
そんな彼女に向かって僕は返事をした。
「いえ、こちらこそ色々とお気遣いいただきましてありがとうございました!」
すると彼女はクスクス笑いながら言った。
「そんなかしこまらなくてもいいんですよ? あたしたちはお友達なんですからもっと気軽に接してくださいね!」
その言葉を聞いた僕は少しだけ躊躇った後で思い切って言ってみることにした。
「それじゃあ、一つだけ聞いてもいいですか?」
その問いかけに対して不思議そうな顔をしながら頷いてくれたので僕は続けた。
「どうして僕を誘ってくれたんですか?」
そう尋ねると彼女は穏やかな表情を浮かべながら答えた。
「うーん、そうですねぇ……ゴーシュ君が、かわいかったからですかね?」
(えっ!?)
予想外の答えに戸惑っている僕をよそにさらに続ける彼女。
「それに一人で食べるよりも二人で食べた方が楽しいじゃないですか?」
その発言を受けてハッとした。
確かにその通りだと思ったからだ。
だから、僕も素直な気持ちを彼女に伝えることにした。
「確かにそうですね! バーシアさんと一緒に食べられてよかったです!」
その言葉を聞くと彼女は満足そうに微笑んだ後で尋ねてきた。
「そう言ってもらえて嬉しいです! それでは、そろそろ本題に移りましょうか!」
その言葉の意味が理解できずにいると彼女は再び口を開いた。
「ゴーシュ君に聞きたいことがあるんです」
(なんだろう……?)
そう思いながらも僕は黙って話を聞くことにした。
そして、次の瞬間に発せられた言葉によって僕は完全に固まってしまうことになる。
*
「ゴーシュ君はスプリング王国を滅ぼす覚悟はありますか?」
「……えっ?」
あまりにも唐突な問いだったので思考が追いつかなかった。
そのためか間の抜けた声で聞き返すことしかできなかった。
すると彼女は真剣な表情のまま続けて言った。
「もう一度言いますね? あなたはスプリング王国を滅ぼしたいと思いますか?」
その瞬間、ようやく思考能力が戻ってきたのか反射的に言い返してしまう。
「そんなことできるわけがありません!!」
(何を言っているんだ、この人は!?)
そう思った直後だった。
彼女が悲しげな表情で呟くように言った。
「そうですか……でも、それが本心ならきっと後悔することになると思いますよ?」
(一体どういう意味なんだ……!?)
疑問を抱きながらも僕は尋ね返した。
「どういうことですか……?」
しかし、それに対する答えは返ってこなかった。
その代わりに別の話題を振ってきた。
「ところでゴーシュ君は魔法を使うことができますよね?」
その質問の意図がわからずに困惑しながらも答えることにした。
「はい、一応は……」
そう答えたものの実際に使ったのは数えるほどしかなかったので自信を持って言うことができなかった。
すると、彼女は僕に近づいてきてそっと耳打ちしてきた。
「実はあたし、魔法を使える人を探しているんです」
「――!?」
――どういうことだ……?
突然のことに驚いていると彼女から衝撃的な提案がなされた。
「もし、よろしければ、あたしと組みませんか?」
「へっ!?」
(なんでそうなるんだ!?)
あまりに突拍子もない話に混乱していると彼女は説明してくれた。
「あたしの目的はただ一つです」
そして、一呼吸置いた後で彼女は言った。
「スプリング王国の滅亡ですよ」
「なっ!?」
突拍子がなさすぎて、正直、対応しきれない気持ちが勝るけど、僕は彼女に疑問を投げかけることにした。
「でも、どうして、そんな計画を僕に話すんだ……?」
「ダメッシュさんも、この計画に賛同しています。だから弟であるゴーシュ君にも賛同してほしいのです」
きっぱりとした思いであった……だから、か……お兄様がオータム城にいたのは……。
「さあ、どうしますか?」
そう言いながら見つめてくる彼女を前に僕は考えることにした。
(これは何かの冗談だろうか? いや、でも……)
頭の中であれこれと考えていると彼女の方から声をかけてきた。
「すぐに答えを出す必要はありませんからね」
そんな優しい言葉をかけてくれたのだが、僕の気持ちは決まっていた。
(いや、もう決まっているじゃないか……!)
そう思うと迷わずに口を開くのだった。
「すみません、せっかくですが、お断りさせていただきます」
はっきりと断ったつもりだったのだが、なぜか目の前の彼女は嬉しそうに笑っていた。
そんな彼女の反応を見て戸惑いながらも尋ねた。
「あの、何かおかしかったですか……?」
すると、彼女は微笑みながら言った。
「いいえ、むしろ逆ですよ!」
「えっ?」
「だって、あたしが思っていた通りの答えを出してくれたんですから!」
「それって、どういう……」
僕が聞き返そうとしたその時だった。
突然、彼女の表情が険しいものへと変わったかと思うと、いきなり立ち上がり叫んだ。
「伏せてくださいっ!!」
それと同時に激しい爆発音が響き渡る。
店内にいた人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う声が聞こえてきた。
その直後、窓ガラスが割れて辺りに飛び散った。
幸いにも怪我人は出なかったようだが、パニック状態になっていた。
そんな中で僕は呆然としていた。
(何が起きたんだ……!?)
状況を理解できない。すると、不意に彼女が言った。
「ゴーシュ君! 急いでここを離れますよ!」
その言葉に我に返った僕は慌てて頷き返すと言った。
「わかりました! 早く行きましょう!」
それから、僕とバーシアさんはカフェを飛び出した。
しばらく走った後で、僕らは近くにあった路地裏に身を潜めるのだった。
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