未来の僕から今の僕へ

いつのまにか、この携帯電話は

世界と繋がっているようです

そんなこと知らない僕は

気ままに生きていますれば

鳴り止まないコールに辟易していて

「もしもし? 誰ですか」と聞いてみても答えは一つ

「未来の僕だよ」と電波かよ、コラって

とりあえず着拒否ちゃっきょひしておいておく

だけど、そんなのお構いなしに

「未来の僕だよ」とかかってきちゃうからさ

何十回目かのやり取りで諦めて

「なんかようかよ?」

「実は、話さなきゃいけないことがあるんだ。それは過去の僕に塗り変えてほしい未来で」

「そんなことしたら、お前がいなくなるだろ?」

「そんなことないさ、僕は僕の世界で生きていくから」

「そんでなんだよ、その変える未来ってさ」

「簡単さ、過去の僕。普通に生きて進学もして簡単に就職して、辛かったら辞めて、また仕事をすればいいさ。だから大きなことをしなくていい。結婚だってしていいから流れに身を任せてもいいんだ。危なかったら警察を呼んで、誰か溺れていたらレスキューを呼んで、倒れている人がいれば救急車を呼ぶ、それだけでいい」

「そんなの当たり前だろ?」

「それが出来るようで出来ないんだ。例えば、この未来からの電話をしたのは何十回目なんだから」

「ふうん、まあ、わかった」

「よろしく、過去の僕。今度は失敗しないようにね」

会話もそこそこ、これ以降かかってはこなかった

だから僕もなんとなく生きてきたけど、そうそう普通の、ただ普通の人生さ

時々、事故に合いやすいけど。そのたびに電話の『未来の僕』を思い出す

なんとなく気をつけていよう、そんな気にさせる電話だった

ある日の休日はコンビニ弁当ですまそうと出かけてみました

そしたら公園の出入り口からボールが飛び出してきてさ

やっぱり子供が飛び出してきてさ

そして前から車が来ていて、どこの漫画だよ、と思いながら

子供の手を引っ張って無事に助けることが出来たわけで

ホッとしているのも束の間、大声をあげた女に殴られて地面に頭を撃ちつけた

あとから聞いた話だと子供の母親だったらしく、僕が不審者だと、世知辛い世の中で

ドライバーが見つかるまで理不尽極まりない待遇だった。しかも頭を撃ったせいで記憶の節々が曖昧で、無駄に怒られたのと無駄に金がかかったこと、仕事を辞めさせられたこと

何もかも嫌になり引きこもりの日々、もっと上手く立ち回れたはずなのに失敗の日々

ぼんやりした日々の中、思い出した『未来の僕からの電話』

そういえば、そんなこともあったなあ、と携帯電話を取り出して

番号を打ち込む

学生の頃から変わっていない電話番号なのにコールができたもんで

「もしもし? 誰ですか」なんて声が聞こえちゃったりして

だから言うんだ、僕は「未来の僕だよ」

ガチャリ、ツーツー

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