おまけ(バースィル編5)
「じゃあ、そろそろ帰る」
「あの、バースィル……ありがとう」
立ち去ろうとすると、彼女が服の裾を掴んで引き留める。ぎこちなくほほ笑む彼女がなんだかかわいく思え、彼女の手を取った。
「えっと、その、今言うことじゃないかもしれないけど、10年前からずっと好きだ」
「え……」
急に言われて驚くのは無理もないかもしれない。けれども、この思いに偽りはなく、それだけはどうしても伝えておきたかった。
「その、将来の事を考える中に、俺と共に歩むこともちょっとでもいい、考えていてくれないか?」
「バースィル……」
「とにかく今は体を治すことに専念して、余裕が出来たらおいおい考えてくれたら嬉しい。じゃ、また来るから」
やっぱり恥ずかしい。耳まで赤くなるのを感じながら、俺は返事を待たずにそそくさと部屋を後にした。
アブドゥルの即位から1年。都は皇子殿下の誕生でにぎわっていた。その光景を眺めながら俺は通いなれた救護院への道を馬の背に揺られて進んでいた。行き交う人々は俺に気づくと気さくに声をかけてくる。力で民を抑圧していたジャッシム1世の治世では考えられない光景だった。
救護院は後宮を解体してできた資材で改修され、見違えるくらい立派になっていた。国の管理下に置かれた今も、その運営はアブドゥルの指名によってライラ様が
ちなみに少し離れた場所には安価で治療が受けられる治療院も開設され、旧知の医者はそちらの責任者になっている。
「あ、将軍様だ!」
俺の姿を見つけた子供達が駆け寄ってくる。簡単な読み書きと計算だけだが、無料で勉強も教えているのでここで保護している子供達だけでなく、近隣に住む子供達も一緒だ。最低限の学問でも身に付けていれば、その子供達の将来の選択肢はいくらでも広がる。更には優秀な子供が居れば、国の補助を受けて上の学校に進むこともできる。
ファイサル3世やナディア様から人は国の財産と教えを受けたアブドゥルが定めた制度だ。今は都にしかないが、いずれは地方にも広げていきたいと彼は言っている。資金を心配する
ちなみに時間があれば、俺は武術の基礎も教えている。将来騎士になりたいと言っている子はもちろん、そうでない子も熱心なので教えがいがある。時間が早いので子供達が教えてほしいと言ってくるが、昨夜は宮城に泊まり込みでほとんど寝ていない。代わりに護衛としてついてきている若い部下を差し出せば、今度はそちらに群がっていく。
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