第6話
ジャリル等を弾劾するのは朝議の場と決めてあった。それまでにまだ多少の猶予があったので、その準備に取り掛かるカリムや文官達と別れた私は後宮で扱う品々を納めた倉庫に来ていた。その扉は10年近くの間閉ざされ、後宮の女官達の間で開かずの扉と呼ばれていた。
友人達のおかげで命拾いをし、ジャルディードに匿われて最初の3年くらいは己の存在意義に疑問を持っていた。
帝位に正当性が有ろうと無かろうと、市井の人々にとってはそれ程重要な事ではない。極端な話、上に立つものは誰でも良く、日々平和に暮らせればそれでいいのだ。
そんな最中に自分の正当性を主張して混乱を起こせば、逆に彼らに恨まれてしまう。私を必ず復権させると友人達は誓ってくれたが、このまま叔父が真っ当な政をしてくれるのなら、このままでもいいのではないかともこの頃は思っていた。
正直に言うと、辺境で従兄妹達と過ごす生活が楽しくてこの生活を壊したくないと思いが強く、宮城で起こっていることを知ろうともしていなかったのだ。
「本当によくご無事で……」
ジャルディードでの暮らしが4年目を迎えた頃、私の元に旧知の女性が尋ねて来た。彼女の名はネシャート。義母ナディアの乳姉妹の娘で、義母が身罷れるまで傍近くに仕えていた女官の1人だった。
彼女は私の腑抜けた様子に気付くと大いに嘆き、続いて烈火のごとく怒りだした。ひとしきり説教をされ、その当時の宮城の有様を
私達母子を宮城から追い出した後、叔父はすぐに政務を投げ出し、酒浸りの毎日を送っていた。その為、政務は必然的に宰相のジャリルが取り仕切ることになる。要職を近親者で固め、自領の利益を優先していくうちにその権力にとり憑かれていく。やがて自らが皇帝になったかのような尊大な振る舞いをするようになるが、それでも皇帝の威を借る彼の力を恐れて誰も何も言えない。
一方で念願だった皇帝の正妃という立場を手に入れたモニールは、夫であるはずの叔父の存在も忘れて贅沢三昧の日々を送っていた。国庫を傾けてしまう勢いで浪費する彼女にネシャート達旧来の女官達は眉をひそめて換言するが、逆に無礼を働いたとして暇を言い渡される。代わりに自分の意のままに動く女官を呼び寄せて周囲を固め、後宮に君臨していた。
「貴方様が希望なのです」
仕えるべき主と仰いだ義母を喪い、もう一人の主ともいうべき母は姦計により幽閉され、その息子である私も死んだと聞かされたネシャートは変わりゆく後宮を目の当たりにして途方に暮れていたらしい。
モニールに出て行けと言われても後宮に居座り続けたのは、長年勤めて来た誇りと意地。そして出て行ったところで行くあてがなかったからだった。
無気力に勤め上げる彼女にある日カリムが接触し、自分達の計画と私の存命を告げられた。時間がかかったのはカリム自身が宮城に上がれるようになるまで出世するのにある程度時間が必要だったからだ。
その情報により彼女は完全に息を吹き返した。まずはモニールに反感を持つ女官達を調べて味方に付けた。そして彼女達をまとめ上げ、カリムに後宮内の情報を伝える手段を作り上げたのだ。そして仕事をやり遂げた彼女は後宮を辞し、遥々ジャルディードにやってきたのだ。
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