第255話
何度となく奇襲と一時撤退とを繰り返し、徐々に力の差を埋めていく作業に腐心している。
さすがに一息に喰らうには大きすぎる相手だ。
神鳥とでも呼ぶべき相手。
シルバードラゴンやティターンなどのモンスターをひたすらに喰らい尽くしたオレをもってして、いまだに格が違い過ぎると思わざるを得ない相手。
遭遇時点での彼我の戦力差は過去最高レベル。
手を変え品を変えオレに考えつく限りの手段を全て試した結果、最初に通用した奇襲のアレンジぐらいしか策が無いという結論に落ち着いたわけだ。
もちろん、決め手になりそうな唯一は、今の段階では使うわけにはいかない。
万が一にもそれだけで倒してしまえたならば、オレに待っているのは確実な墜落死。
とても現状で試せる手では無いのだ。
最初はどうにか地上戦に持ち込めないものかとアレコレ試行錯誤を繰り返していたが【無属性魔法】での拘束は上手くいかず、翼を斬り落とそうにも斬撃に対する耐性が異常に強く到底かなわず……重力を操る魔法は簡単にブロックされてしまい……それならばと地上から挑発してみても、飛んで来るのはジズ本体ではなく凶悪な魔法ばかり。
大空の象徴を地に墜とすのは、やはり至難の業だったのだと言わざるを得ない。
繰り返し、繰り返し、地上から瞬時にヤツの背中の上に乗ったり自由落下(ヒモ無しバンジーともいう……)中に、どうにか転移したりしているわけだが、これはなかなかリスクが高い作業で、ちょっとでも撤退時の転移のタイミングがズレたり、察知されないまでもヤマを当てられたりして奇襲が失敗した場合には、いとも簡単に全てが水泡に帰する結果に繋がりりかねない。
単純な繰り返し作業とは決して言えない、危険な試み。
ジズの魔法行使能力と魔法への抵抗力は、ちょっと洒落にならないレベルで、いわゆる当てずっぽうに放たれた魔法が、何度となくオレの生命を奪いかけている。
いまだにオレが何とか戦えているのは、これまでに喰らって来たモンスター達の持っていた、数々の耐性スキルや防御スキル……それから魔法抵抗力そのもののおかげだった。
即死さえしなければどうにかなるというだけのモノは、既にオレにも備わっているのだ。
ジズから継続的に破格の魔法抵抗力を奪えているのも非常に大きい。
特に、この戦闘中に得た【風の護り】というスキルは、ジズの得意とする落雷の魔法への対抗手段として、かなり有用なモノだった。
恐らくジズも同じスキルを持っているのだろう。
少なくとも、オレの【風魔法】でジズが傷付くことだけは、天地が逆さまになったとしても有り得なさそうだ。
何十回、繰り返し奇襲を仕掛けたことだろう。
撤退時は思いきってダンジョンの領域外の安全地帯にまで飛んでいたが、ジズの当てずっぽうは次第にダンジョンの領域外にまで雷を落とすようになって来ているため、そろそろ周辺には逃げ場所が無い。
魔力の消費は格段に大きくなるが、先ほどから撤退時には自宅の最寄りのダンジョン……その守護者の間にまで転移している。
そこでポーションを飲んで傷や魔力を回復したり、ジズの様子を【遠隔視】で観察したりした後、改めて奇襲に出掛け……そして暫くの攻防の後またここに戻ってくることを繰り返すようになっていた。
この行動パターンの最大の利点は、ジズに奇襲のタイミングを読まれにくくなったことだろう。
オレが肉眼でジズを視認出来ている時、ジズもオレの居場所を視認出来ていた筈だ。
なるべく死角になる位置に転移するようにはしていたが、それでも再び転移が出来るようになるまでの僅かな時間で、ヤツは確実にオレを見付けて魔法を放って来るようにまでなっていた。
そうなると回避のための転移なのか、奇襲のための転移なのかさえ曖昧にならざるを得ず、次第に奇襲の効率は低下していく。
そうした負の連鎖を断ち切るためにも、こうして完全に安全と言い切れる位置まで撤退して
来るようにしたのは、恐らく正解だったのだろう。
そして……今、オレはある試みを思い付いて、それを実行に移しているところだった。
超長時間の放置。
北風と太陽の話では無いが、ジズを地上に墜とすのが難しいなら、ヤツが自ら降りて来るのを待てばよい。
これに気付いたきっかけは、とても単純なことだった。
……腹が減ったのだ。
早朝からティターンなどと戦い続け、ようやく昼過ぎに掃討戦が終わったかと思えば、初めて目にするイレギュラーの発生現場……そして勃発したジズとの戦闘。
先ほどまで必死に戦い続けていたため、意識せずにいられただけの話で、オレはとっくに腹が減っていた。
妻が持たせてくれた弁当……おにぎりがメインだが唐揚げや玉子焼きなど、すぐに口に放り込める一口大のおかずも何種類か入っていた。
この唐揚げの肉にしても、玉子焼きの玉子にしても、最近は単なるニワトリのそれではなくなっている。
かりんとう好きなハーピーが守護者を務めている、スーパー跡のダンジョン産の素材が使われているのだが、肉も玉子もむしろこちらの方が旨い。
由来さえ考えなければ、文句のつけようが無い味だ。
続いて仮眠。
さすがに今日は朝が早かったので、腹が満たされると今度は眠くなってきた。
神経を磨り減らしながら戦っていたのだし、スタミナポーションでは癒やしきれない種類の疲れが
一時間以上の仮眠はかえって逆効果になるとか聞いた気もするし、スマホのアラームに頼って45分ほど寝台に横になった。
そういえばこのベッドに横になったのは初めてかもしれないな。
食べてすぐの睡眠は至福。
本来なら太りやすい行動かもしれないが、さすがにあんなに運動しておいて、そんな心配はするだけ無駄だろう。
アラームに気付いて目を覚ますと、先ほどまでの消耗が嘘だったかのように快調になっていた。
さぁて……まだ無駄に飛んでいるのか、それともとっくに地に降りているのか、そろそろ【遠隔視】で見てみるとしますかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます