第220話

 その後もオレ達は、何体もの各種レッサードラゴンを倒していった。


 1体目のレッサードラゴンから得た存在力が、オレを飛躍的に強化してくれたからこそ達成出来た荒業だ。

 竜鱗の色によって変わるブレスと属性相性に、時には想定以上の時間を割いてしまったことも有ったが、逆に相性の良い属性のレッサードラゴンは極めて短時間で撃破することも出来たので、平均すれば最初の1体に掛かった時間の半分以下でドラゴン退治が可能だったことになる。

 レッサードラゴンの存在力を喰らうたびオレの身体能力は劇的に上昇していき、毎回のように新しいスキルが手に入ったり、既得スキルのレベルが上がったりもしていた。


 中でも特筆すべきは【竜身ドラゴンボディ】というスキル。

 これは7体目のレッサードラゴンを倒した際に奪ったものだ。

 恐らく全てのレッサードラゴンが所持していたスキルなのだろうが、人の身で得るには過ぎたスキルということなのか、1体目のレッサードラゴン撃破ですぐに取得……とまではいかなかった。


 実はこうしたスキルは良くある。

 スキルを使いこなせない状態で強奪したスキルは、スキルレベル1未満の熟練度にまで減算されたまま、オレの内部に何らかの形で蓄積していくようだ。

 そして何回かの戦闘を経て、取得準備が整った段階か、内部熟練度がスキルレベル1相当にまで達した段階で、めでたくスキル取得となる。

 ギャザーが持つ【呪眼】なんかがそうだった。

 その時に倒したモンスターはギャザーでは無くガーゴイルだったので、こちらは前者(取得準備が整った段階)という判定だろう。

 反対にバンシーの持っていた【鬼哭】は、かなりの数を倒した後に、当のバンシーを倒した瞬間に得られたので、後者(内部熟練度の蓄積)と推測される。

 まぁ、泣き叫びながら戦う趣味は無いので、残念ながらこのスキルが有用とは言い難いのも事実なのだが……。

 ちなみに、マイコニドを何百体倒してもマイコニドの持つ状態異常を引き起こす胞子のスキルは覚えられない。

 オレ自身に胞子というモノを作る生理機能が存在しないためだ。


 閑話休題それはそれとして……


竜身ドラゴンボディ】は、あくまでも人間という枠組みから外れなかったオレの身体の脆弱さを補ってくれるスキルで、つまりは肉体自体の防御力や耐久力が爆発的に上昇するものだった。

 さすがに竜の鱗がオレに生えてくるわけでは無いので、身体自体が硬くなったといってもオリハルコンやミスリルには遠く及ばないし、耐久力が上昇したといってもドラゴン並みの巨体になったわけでは無いので、さすがにレッサーで並みに無尽蔵の生命力を得られたわけではない。

 それでも今までとは違い、ちょっとやそっとのダメージで簡単に死んでしまうような脆弱さは無くなった。

 簡単に言うならば、車に轢かれても即死とまではいかないだろうし、よっぽどの急所に直撃したので無ければ拳銃で撃たれても死なないぐらいには、人間ばなれしてしまったことだろう。

 まぁ、ダンプカーに轢かれたり、バズーカで撃たれでもしたら、結局は死んでしまうことになるのだろうけれど……。


 それにしても安全地帯に面した外縁部だけで、こんなにも多くのレッサードラゴンに遭遇することになるとは、さすがに思っていなかった。

 レッサードラゴン以外のモンスターに限ったとしても、質量ともに今まで攻略して来たダンジョンの周辺とは全く違う。

 外縁部にこんなに大量のモンスターの居るエリアは、今までには見たことが無い。

 事前の予定では徐々に内部に侵入していき、もし可能ならばダンジョンも攻略してしまうつもりだったのだが、今日はダンジョン自体の攻略は諦めるしか無さそうだ。

 既に薄暗くなり始めている。


 その後も本来的に真っ暗になる前にと、出来るだけ急いでダンジョン外をウロつくモンスター達を間引きしていったが、半分も終わる前に予定していた時間を過ぎてしまっていた。

 ダンジョンの領域内部の戦闘では、さすがに一方的な狙撃だけで片が付くことは少なくなった分、どうしても一戦一戦に時間が掛かってしまうため、この結果も仕方が無いだろう。

 予想していたより遥かに多くのレッサードラゴンを狩れたのだから、一日の成果としては充分だ。

 今日のところは大人しく引き返すことにしよう。


 ◆


「ヒデちゃん! 無事で良かった。……心配してたんだからね?」


 オレが帰宅した直後に帰って来た妻は、開口一番でそう言うと、真っ直ぐオレの胸の中に飛び込んで来た。


「なんとか……ね。今回、勝てたのは完全にトリアのおかげだよ。でも時間が足りなくてダンジョンまでは辿り着けなかった」


「もともと3日ぐらいは掛けても良いって話だったでしょ? あんまり無理しないで」


「うん、分かってる。でも、一度倒せたモンスターには二度と負けないぐらいには強くなれちゃうからさ。明日はそんなに心配いらないと思うよ? 3日ってのは、あくまで今日中にドラゴンを倒せなかった場合の話だし」


「そうだけどさ……頭では分かったつもりでもザワザワしちゃうの! 心配ぐらいはさせてよ」


「うん、そうだね。無理はしない。いけると思った時には頑張るけどさ」


「……うん」


 まだ涙目の妻の頭を軽く撫でてやり、気を利かせてくれたのか黙って見守ってくれていたマチルダとカタリナの方を見やる。

 すると……まるで砂糖を噛み砕いてしまったような表情の2人と目が合った。


「相変わらず仲が良いよね~。生還おめでと。私は……信じてたからね」


「アイが心配する気持ちも分かってやって欲しいところだけれどもね。人の身で竜に挑むなんて、本来的には無謀極まりないのだから」


 そんなところに帰って来たのが父と兄。

 2人も心配してくれていたようだし、祝福もしてくれたが、どことなく疲れたような表情にも見える。

 その後の祝宴の席で、その理由を聞いたオレも思わず、2人と同じような表情になってしまった。


 一難去ってまた一難……レッサードラゴンさえ倒してのけたオレからしても、それは確かに厄介ごとにしか思えない内容だったのだ。

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