第44話

 どうも【解析者】は、聞いて答えてくれる類いのスキルでは無いようで、字面から想定するしかないのがツラいところだ。


 槍術のレベル上昇……これは別にそのまんまだから良いだろう。

 レベルの上昇を境に、オレの頭で考えた訳でもない技が、まるで長らく使っていた技の様に感じられるようになる感覚。

 以前と同じ技でも、技の冴えとでもいうべきが全く異なり、別モノに昇華されているという実感。

 これらは以前にも経験しているので、そこまでの驚きは無い(もちろん凄いことでは有るが……)。


 自習も理解できる。

 単に自ら習うことを指す言葉なのだから、この場合は鎗の鍛練が該当したのも想像にかたくはない。

 自得……自ら、得る……か。

 それらの心得、うん。

 まぁ……何となくは分かるな。


 鍛練や学習した場合の習熟……熟練度上昇率の向上といったところだろう。

【解析者】のスキル能力が更に拡張と補強されたと思っておけば良さそうだ。

 もともと努力するのは嫌いでは無いし、自分が凡才なのも痛いほど理解している。

 凡庸な才能しか持たないなら、努力するのは当然だと思っているので、今さら苦にもならない。

 努力したから必ずしも報われるなんて思ってもいなかったが、思いがけない巡り合わせで、努力の効果が保証されたのだ。

 その労力を惜しむべきではないだろう。


 気付いた時には、もうかなり汗だくになりながらも、たのしげに鎗を振るっていたオレは、帰って来た妻や兄達に呆れられてしまったのだった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 昼食後の話し合いは、兄達の戦果報告から始まったのだが、オレが鍛練中に得たスキルについて報告し、先ほど見られてしまった醜態の弁明をしていると……


「ヒデちゃんって、昔からそういうところ有るのよね~」


 妻が何を思い出しながら笑っているのか、心当たりが……いっぱい有るので、どれのことだか分からない。

 料理?

 日曜大工?

 スノボ?

 模様替え?

 釣り?

 マッサージ?

 ゴルフ?

 うーむ……やはり分からない。



「だな。良く飽きないな……ってぐらい同じゲームやってると思ったら、いつの間にか達人級になってたりとかな」


 兄が言うのはアレのことか。

 アレは兄に負けまくったのが悔しくて、毎日ひたすら練習したのだ。

 大会にも出て、そこそこ良いところまでいった記憶がある。


「あぁ、ヒデ特訓とかな。マルセイユターンだっけか?」


 父が言っているのは……マルセイユ式ルーレットのことか?

 いや……クライフターン?

 小さい頃は、サッカー少年だったからなぁ。

 出来ない技があると、とことん練習するクセがあって、両親はそれを『ヒデ特訓』と名付けていた。

 裏街道(※サッカーの技名)の特訓の時は、爺ちゃんにずっとディフェンダー役やらせちゃってたなぁ……。


「……いや、ゴメン。分かった。そろそろ時間も無いし、話し合いの続きしよう?」


 どうにかこうにか、黒歴史(?)の掘り出し会になりかけた流れを断ち切り、話題を実務的な方向に戻す。


 まず探索の結果として、今回の戦利品。

 これの分配についてだ。


 まずは、俗にいう本部鑑定から戻ってきていた謎の靴だが、これは新緑の靴という名の貴重な魔法の靴だった。

 形状はブーツ。

 常時、新緑のように(?)若々しい気持ちのまま探索が続けられるという、一種の精神疲労耐性の魔法が付与されたものだ。

 さらに投射武器(弓、ボウガン、銃、チャクラム、ブーメランなど)の使用時に、普段の5割もの命中補正が付くらしいのだから、かなりの優れものだろう。

 ……まぁ、現状のオレ達の中には、投射武器の使い手が居ないのが残念なところではある。

 しかし今後のことを考えれば、サブウェポンとして銃を持ったり、片手で扱える投擲武器を携行したりすることは有り得る話だし、全く不要な能力というわけでもない。

 防御性能は炭素結合時のタングステン級……タングステンって何だっけ?

 何かとても硬い金属だった気はするのだけど……門外漢なので、正確なところが分からない。

 後で調べてみよう。

 なお、自動サイズ可変は予想通り付与されていた。

 これで存分に使い回せる。


 今回の収穫の目玉は何と言ってもスキルブック……スキル【罠解除】の籠められた本だろう。

 今回は【解析者】スキルでの成長も期待される形で、オレが得ることになった。


 そして、ギガントビートルから再び得られた甲殻の護符。

 これは父と妻の同時使用を基本とし、兄やオレの単独探索時は流用する。


 他には……

 ポテンシャルオーブとストレングスクッキーを妻が。

 持久力向上剤を父が。

 スタミナマフィンとポテンシャルキャンディを兄が。

 オレは、何と8つものスクロール(魔)と、ポテンシャルオーブを1つ貰った。


 兄達の方が浅い階層で活動しているのにも関わらず、モンスターの討伐数が多いからだろうか?

 それともやはり、元々オレより兄の方が運が良いからなのか、ドロップアイテムの数や質で並ばれている気がする。

 ここは気合いを入れて、第4層の攻略を開始しなきゃだなぁ。


 デスサイズとの再戦を制し、新たな階層に挑む覚悟を胸に、オレは今日の探索に向かう。

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