第42話

 デスサイズの遺した宝箱から得たアイテムをインベントリーに収納し終えた時には、もう既に事前に予定していた帰宅時間を、かなり過ぎていた。


 とにかく帰りを急ぐオレは、モンスターとの戦闘回数を最小限に抑えるため、ここに至るまでに来た道をなるべく正確に逆トレースしていくよう心掛ける。

 それでも全くエンカウントしないわけではなく、仕方なく行く手を阻むモンスターを突き倒していたのだが……幸運なことに帰路のドロップアイテムはかなり充実していて、戦利品の質と量とが増えていく。

 ……眠る時間は減っていく。


 結局、ダンジョンを出て、ダン協の建物に到着したのは、そろそろ23時になろうという時間だった。

 いつもの受付のお姉さん(だいぶ歳上……)ではなく、若い男性職員に戦利品を提出。

 魔石、ダブつき始めたノーマルポーション、解毒ポーションなどは概ね売却。

 簡易鑑定に出したいアイテムを預け、残りは手早く仕舞う。

 明らかにベテランの風格が漂うお姉さんよりは、どうしてもこの男性職員の方が手際が悪く、時間の無いオレは不満を覚えてしまう。

 変に顔に出ないよう、最大限に努力する必要があった。


 こちらは普段通り、ガラガラの待合室で鑑定を待つ。

 ハッと気付いてスマホを取り出し、メッセージアプリを確認すると……うわ、これヤバいなぁ。

 取り急ぎ、妻と兄に無事を報せるメッセージを返信して、ようやく一息ついた。

 すると新着メッセージを知らせる表示が……開くとそこには薄明かりの中、スヤスヤ眠る我が子の写真が添付されている。

 我知らず笑みが浮かぶ。

 このほんわか暖かい情動の前には、オレのポーカーフェイスも大敗北を喫してしまった。


「番号札3番でお待ちのお客様、窓口までお越し下さい」


 呼び出しの声に気付いたオレは、慌てて表情を戻して、職員の居る窓口に急ぐ。


 いつものお姉さんといい、この青年といい、自分の座る窓口の番号は割愛しているクセに、こちらの番号札はしっかり読み上げるのな。

 何か内部規定とか、そういうルールが有るのかもしれない。


 さて……今回、取得したアイテムのうち、鑑定が必要だったものは4種類。


 探索に時間が掛かったわりには少なく思えるかもしれないが、今までにも入手したことのあるマジックアイテムが数点。

 さらに鑑定不要(壁貼りの買い取りリストに写真があった)の素材アイテムも有ったのだから、戦果としては充分なものがある。


 素材とは何か?

 それはゼラチナス・キューブ由来のゼラチンだ。

 妙なクセも無く、むしろ上質だとかで高値が付いている。

 これは少し売却して、残りは持ち帰る。

 お菓子作りの得意な義姉へのお土産だ。


 そして、お楽しみの鑑定結果だが……


『死蟷螂の護符……斬擊武器の柄に貼ることで、デスサイズの鎌と同程度の斬擊力を、元々の武器性能に追加で付与する。着脱自在』


ふくろうのピアス……装備時に限り魔法への抵抗力が、およそ1割向上する。特に事前のピアス穴の開通は不要。装備箇所も問わない』


『耐痺のミサンガ……所持者の身体が麻痺しにくくなる。必ずしも手首に巻く必要はなく、自然に切れることで願いが叶うなどの副次効果は無い』


『スタミナマフィン……食べると持久力の成長率が高まる。限界値には寄与しない。効果(僅少きんしょう)口にする前に千切ちぎってはいけない』


 今回の探索も、かなり質の高い装備品や、面白い効果のあるアイテムが手に入ったと思う。

 鑑定不要アイテムの方も同様だ。

 ギガントビートルから、腕力向上剤。

 ヘルスコーピオンから、獄蠍尾の護符。

 その他にも、敏捷向上剤、ストレングスクッキー、アジリティの指輪、ポテンシャルキャンディと、ネタ……いや、スクロール(魔)が6つ。


 まさに大収穫といった内容だ。

 無論、これらは全て持ち帰りとする。


 ……さすがに分配会議、今からやんないよな?


 オレは、そんな一抹の不安を胸に、ようやく帰路についたのだった。

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