第2話
別段あまり悪い予感の様なものは感じなかったが、やはり無事な我が子の姿を見ると安心する。
2歳になるまでまだ少し日にちのある長男は、親の心配をよそに、テレビで人面機関車のアニメを見ながら、何がおかしいのかキャッキャと笑い声をあげていた。
「あら? お帰りなさい……って、何か忘物?」
キッチンで何か家事をしていたらしい妻が、出掛けたばかりで帰って来たオレの姿を見付けて、
「ただいま。いや、そういうわけじゃなくてさ……」
今しがた遭遇したゴブリンのことを、妻に話すが、もちろん最初は信じて貰えなかった。
何か証明する手段は無いかと、あらましを話しながら考えていると、ふとした拍子に魔石のことを思い出した。
「ほら……これがゴブリンがさっき落としたヤツだよ」
「あら……じゃあ、本当なの? ちょっとゴメンね~」
どうやら信じてくれたらしい妻は、息子に謝りながらも、手慣れた様子でリモコンを操りチャンネルを変えると同時に、愛息の大好きな飛び出す仕掛け絵本を
「うーん、どこもまだそんなニュースはやってな……って! ちょっとコレ、そうなんじゃない!?」
そこには、そこそこ見慣れたお天気キャスターが、慌てた様子で後方に見える煙を指し示す様子が映っていた。
若干、距離が有るせいで何が起きているのか、画面を見ているだけでは判然としないが、何かしらの変事が発生したことは疑い無かった。
続けて緊急速報を告げる音とテロップ。
『東京都港区台場でモンスター出現 死傷者が多数出た模様』
死傷者多数!?
ゴブリンで?
いや、ゴブリンとは限らないのか?
そんな思考の間にもキャスターを置き去りにしそうなほどのスピードで、テレビカメラは現場に近付いていく。
階段を登り、驚く通行人の間を縫い、ひたすらに駆けていく。
煙はおろか、燃え上がる高級外車の車体そのものや、倒れている人々、そして恐怖の象徴をカメラは映していた。
これ以上は無いというぐらいに、それは分かりやすい脅威だった。
ドラゴン。
赤い鱗を持つソレは、自らが繰り広げた惨状に飽き足らず、新しい獲物を捜すかの様に、眼下を
カメラに遅れること数瞬、普段なら人の好さが滲み出る風貌を醜く歪ませながら、キャスターが追い付いて来て、普段には上げない金切り声で、必死に現場の状況を伝えている。
しかし、オレはそんな悲壮感すら漂う男性お天気キャスターの声より、また新しく変事を伝える緊急速報のテロップに、意識を捉われていた。
『名古屋城倒壊 大型のモンスターが付近で暴れている模様』
いったい、オレは何を眼にしているのか。
無邪気に絵本を見ながら、また可愛らしく笑う子供の声だけが、茫然自失に陥りそうなオレの意識を、まだ現実世界に繋ぎ止めてくれていた。
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