光速突破は10光年先の王子と

有原ハリアー

本編

舞い降りた“2柱”

「何、あれ……」

 現役女子高生の黒田くろだ星子せいこは、突如現れた巨大な2機のロボットに驚愕していた。

 そう。漆黒のロボットと純白のロボットは音もなく現れ、右膝をついて鎮座していたのだ。

「セミラミスとは違う……。けれど、何あの2機、いえ2柱は……!」

 ロボットを見るとつい妄想してしまう星子は、涎を垂らしながらロボットに近づく。

「星子さん」

 と、その時。

 星子の手を引く者がいた。

「誰、あんた? ああ、思い出した。何故か人狼のコスプレをしてる、有原ハリアー……」

「こっちに来て!」

「きゃっ!?❤」

 ハリアーが星子をお姫様抱っこすると、全力でロボットの前まで運ばれる。

 男性に免疫の無い星子は、たちまち顔が茹で上がった。


     *


「よし、ここならいいね」

「ちょ、ちょっと……。あんた、何なのよ!?」

 突然の事態に、星子は戸惑いっぱなしである。

 しかしハリアーは自然な様子で、星子に話しかけた。


「単刀直入に言うよ。星子さん、キミにはこのロボット、“ファルヴェード・リーリエ”に乗ってもらう」


「えっ……」

 願ってもいない話だった。

 ロボットオタクがロボットに乗れるなど、夢のまた夢だからだ。

「だから、これを持って行ってほしい」

「これは……腕、時計?」

 ハリアーは自分と持っているのと同型の腕時計を渡すと、軽く咳払いをした。

「そして自己紹介が遅れたね。僕は有原ハリアーじゃない。


 ファルヴェード王国が第一王子、“アルブレヒト・ファルヴェード・ハーラルト”さ」


「ア、アルブレ……」

「“ハリアー”でいい。それよりもまずいね。僕の耳が反応してる。教えるから、乗って!」

 アルブレヒトに言われるがまま、星子はファルヴェード・リーリエに飛び乗った。


     *


「さて、まずはウサ耳とウサ尻尾を付けて」

「え?」

「付けて!」

 ハリアーにせっつかれ、星子は渋々ウサ耳とウサ尻尾を身に着けた。ウサ耳はカチューシャ、ウサ尻尾はベルトで固定するシロモノである。

 と、次の瞬間。星子が平衡感覚を乱した。

「!?(えっ、何、今の……?)」

 一瞬ではあったが、脳を直接揺さぶられた感覚に星子は襲われた。

 その直後、再びハリアーからの指示が来た。

「次に腕時計を外して。外したら、赤いスイッチを押すんだ」

 言われるがまま、星子は腕時計を外してスイッチを押す。

 と、腕時計が鍵に変形した。

「そしたら、スリットが見えるはずだ。差し込んで」

 先ほどの腕時計を差し込むと、キーボードが出現した。

 すると急に、ハリアーが焦った様子で叫んだ。

「急いで! パスワードは"Semiramisセミラミス"、最初の"Sエス"は大文字!」

 それだけ言い残すと、ハリアーのファルヴェードは空中に上昇する。

「想像以上の早さだねっ……!」

 ハリアーの声を尻目に、星子はパスワードを正しく入力する。


 それを確認したファルヴェード・リーリエは、コクピットに操縦桿を出現させた。


「お、おおっ……!❤」

 星子は夢が実現したとばかりに、喜んでいる。

「ちょこまかと……ぐぅっ!」

 と、ハリアーのファルヴェードがグラウンドに着地し、騒音やら地響きやらを上げた。

「くっ、手ごわい……! いくら僕が未熟だからって、これは……!」

「ハリアー!?」

 星子がコクピットのモニター越しに、ハリアーのファルヴェードを見る。


 立ち上がって反撃するが、動きがぎこちない。関節などを損傷したのだろう。


 上を見ると、4機のF-35Aがハリアーのファルヴェードを仕留めんと、爆弾と機関砲をばら撒いていた。

「やらせるかぁあああああッ! !」

 星子は無意識のうちに、操縦桿のトリガーを引いていた。

 “ファルヴェード・リーリエ”の腕から、50mm機関砲弾が乱射される。狙いの甘いそれらは、しかし偶然にもF-35Aの落とした爆弾を撃ち抜いていた。

「助かった! 行くよ星子さん!」

 ハリアーのファルヴェードが体勢を整えると、ファルヴェード・リーリエに続いて応射する。

 F-35Aの1機が、一瞬でバラバラになった。

「ええ!(何これ、いろいろカッコイイ……!❤)」

 星子もまた、ファルヴェード・リーリエの操縦桿を握ってF-35Aに狙いを定める。

「そこっ!」

 機関砲を連射すると、2機目が四散した。

「そろそろ僕も、いい所見せないとね……!」

 ハリアーのファルヴェードが飛翔し、手にした大剣で3機目を両断する。

「来てるよ……!」

「分かってる、ハリアー!」

 星子が操縦桿を操ると、ファルヴェード・リーリエが飛翔する。

(おぉ……っ! 飛んでる、今私は飛んでる……!)

 軽く動かすだけで、ファルヴェード・リーリエが大剣を構える。

 最後のF-35Aは、せめて刺し違えようと迫り――


「貴様の心臓を、握り潰してやる!」


 星子の叫びと共に放たれた一閃で、真っ二つに両断される。

 刹那、残骸を爆散させたのであった。


     *


「ふぅ、何とかしのぎ切ったね……。ありがとう、星子さん」

 2機のファルヴェードの活躍で、校舎に若干の損害こそ発生したものの、死者は0人、負傷者は0人である。“ほぼ”というのは、「逃走中に転んだ軽症者を除いて」という意味だ。

「ふん。クソにも劣る」

「あの、星子さん?」

「あっ、ごめんなさいハリアー……。けれど、あのF-35Aは……それに、このファルヴェード・リーリエは、一体何なの? ねえ」

「話せば長くなるんだけどね……」

 ハリアーは秘匿回線を繋ぐと、自分達の国について話した。


 要約すると、

「“帝国”なる存在が侵略しに来ている為、地球にファルヴェード2機を連れて逃げていたが、戦禍せんかが地球にまで及びそうになったので、止む無く打って出る事にした」

 というものになる。

 ちなみに話の過程で出たのだが、コクピットにあったウサ耳とウサ尻尾は、「王国に入る為のパスポート」にして、「操縦者の運動の癖や意識を反映させる装置」だった。

 ハリアー曰く、「僕の国は獣人の国だから、ヨソ者は“獣人になってもらう”というしきたりがある」とあった。


「そういう訳だよ」

「へえ……。あのF-35Aは、“帝国”にクラッキングされた、ねえ……」

 星子はとんでもないものに巻き込まれたと感じながら、豊かな髪をさっと広げる。

「ところで、ハリアーの機体は?」

「これ? “ファルヴェード・リントヴルム”。王族専用機で、僕だから持ち出せたんだよ。そこのファルヴェード・リーリエも、本来は王族専用機なんだけどね」

「う、うん……」

 重ね重ね星子は、驚愕しきりであった。

「それよりも、星子さん。僕の星で、お礼がしたいな」

「えっ!? ほ、星って、一体……!?」

 悲鳴を上げる星子にも構わず、ファルヴェード・リントヴルムがファルヴェード・リーリエの肩と腰を掴む。

「10光年先にあるけど、このファルヴェードシリーズなら一瞬だよ」

「えぇえええっ!? ちょ、ちょっと待っ――」

 星子が言い終える間もなく、2機のファルヴェードは文字通り、星の彼方へと去っていった。




 黒田星子が地球に帰還するのは、それから1年半後の事である……。

※続きません。打ち切りENDでございます。

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