5章

月のライン 5-1


 夜12時ごろに起こしてくれ、とゴンドラの船夫には言っていたので、眠いながらも、ロイは目を覚ますことができた。


 浜から少し沖に漕いだ場所。


 そこからは、本土と島の両方が見える。


 ロイはそれまで寝そべっていた、赤いビロードの長椅子から、上半身を起こした。


 揺れるゴンドラの中で、2つの町を見比べる。


 本土は強い、都会の明かり。


 ビルや電波塔の白々とした光が、夜なのに昼間のように放たれている。


 それに比べて島のほうは、ぼんやり灯るガス灯のともしび。


 たくさん点いてはいるけれど、やわらかに広がる、淡いきらめき。


 ロイはよく澄んだ冬の空を仰ぎ見た。


 島寄りに、細い月が浮かんでいる。


 満月だったら、島の明かり具合に似ているだろう。


 島は毎晩、月のようだな。ロイは思った。


「島に着けてくれ」


 船夫に言った。


「ありがとう。ちゃんと料金は支払うよ」


「頼みますぜ。ずっとこうしてたんじゃ、商売にならねえ」


 船夫は長いオールで漕ぎ出した。


 先頭に立って、バランスよく左右から漕ぐ。


 どいつもこいつも、ロイは心の中で呟く。


 お金が本当に好きなんだな。


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