二十話 見ろ! この洗練された動きを!
「この通り! ほらこの通り!」
炎王の城の会議室。定例の統括会議で各地の魔王が集まる部屋の真ん中で、リーシェッドの背中を眺めるラグナは複雑な心境であった。
目の前の彼女は身を粉にする勢いで、土下座を通り越して五体投地までやって退ける。その余りにも洗礼された動きはもはや仙人の域である。
(魔王は頭下げないんじゃ……土下座慣れしてんのかコイツ?)
リーシェッド渾身の平伏に対して、これまた慣れたもので全員が興味無さそうに話を続ける。中でも聖王は居眠りまでしてしまう始末であった。
「リーシェッドよ〜、今回は流石に勝手すぎんぜ? 七人の時も相当揉めたってのにまた魔王増やすってクレイジー極めてちゃってんじゃん」
「だからすまんってオオダチ。ほら、反省しておる。ほら!」
「頭ん中全く反省してねえだろそれ」
獣王オオダチがチラリとラグナを見ると、ラグナは顔を強ばらせる。
ラグナの生まれは獣王が治めている。元々友であったタルタロスと違い、自身にとって本物の王様にあたる魔王だ。そこに並び立とうと思うだけでも甚だおかしい。
他の魔王達も、貫禄からしてラグナとは天と地の差がある。やはり場違いだったかと項垂れそうになったその時、最古にして聖王と並ぶ最強の魔王から思ってもない言葉が投げられた。
「僕は有りだと思うね」
「本気で言ってんのかミッドフォール。どこの馬の骨とも知れないヤツを魔王にした所で、国作る前に賊に狩られるのがオチだぜ」
「オオダチの不安もわかる。でも、僕は彼のことも見ていたからね。最低でも戦闘に関しては問題ないだろう」
それを聞いて、辺りは僅かにざわつく。魔王レベルの力がそう簡単に現れるとは思えない。それならば、魔神などとうの昔に
ミッドフォールの言葉にタルタロスも同意する。そして過去のラグナが何をしてきたのかを細かく説明し始めた。
タルタロスと幼馴染ということ。
共に魔神を倒す鍛錬を詰んだこと。
リザードマン救済のため世界を巡ったこと。
そして、盗賊団になった経緯も含めて。
本来タルタロスにとっての汚点である話まで包み隠さず話したのは、彼の本心がラグナと同等でいたいと願っているからだ。
話を聞いていくウチ、好戦的なオオダチは次第に目を輝かせていった。
「へ〜、お前強いんだな!」
「ふっふっふ。当たり前だ。ラグナは我とタルタロスを足して二で割ったような実力者だぞ?」
「足して、割って……あ? それつまり魔王一人分じゃねえか。なんで足して割るんだよ」
「ん? あそうか。別にいらんな」
「反省してねぇなお前」
「この通り! この通り!」
いつの間にか立ち上がって話に割り込んできたかと思うと、すぐさま五体投地。ラグナはもうリーシェッドを見ていられなかった。
そして、鼻ちょうちんを割って「んがっ」と仰け反った聖王の声で静まり返る。目を覚ました寝癖金髪の少年は、起きてましたよとばかりにうんうん頷く。
「私もそれに賛成」
「何の案も出てねぇよコルカドール。もう帰れよ居眠り常習犯」
「え、聞いてたし。この通りこの通り」
「お前も土下座すんのか?」
聖王コルカドールはわけも分からず土下座しそうになって、そんな理由もないなと座り直す。常に寝惚けている彼は頻繁に意味不明な行動を取るが、間違いなく孤王と肩を並べる魔王双翼の一人である。
そんなコルカドールに、丁寧に説明し直すミッドフォール。寝落ちしそうな少年は何とか頭を働かせ、今度こそ理解してから頷いた。
「私は構わないよ。ラグナくん誠実そうだし」
「適当だな」
「そうでもないさ。それに、相当強いよ彼。前のリーシェッド、何回か殺されたんじゃない? それでリーシェッドも強くなったんだね」
その発言によって、オオダチが立ち上がる。戦いたくてうずうずしている顔だ。
「なぁ、今やろうぜ! リーシェッドに負けたって聞いてたが、その前に何回も殺しただって!? くぅ〜っ! 戦士の血が疼くんだよぉおお!!」
狼の遠吠えがタルタロス領にこだまする。オオダチの声を間近で聞いていた魔王達は一斉に耳を塞いで、隣にいたセイラが頭を叩いて黙らせた。
「耳! 潰れるから!!」
「悪ぃ悪ぃ。興奮しちまってよ。まぁでも、話し合う事なんてもうねぇだろ。反対は三人。賛成が四人で可決だ」
反対をしていたのは獣王、海王、烈王。話を持ち込んだ不死王と炎王に加え、実質代表者のような孤王と聖王が賛成。統括会議での二択は票取りと決まっており、一人が駄々を捏ねたところで覆ることは無い。
「よし、ではラグナを、八人目、【震王】として迎え入れる」
領主であるタルタロスの取り仕切りの元、ラグナは晴れて魔王の中にその名を刻んだ。
会議を終えた魔王達は、相変わらず跡を濁さず凄まじい速さで自国に帰って行った。恨めしそうな顔をするオオダチは、隣国のセイラに引っ張られてその場を後にする。
残ったラグナは一息つこうと、ローブで顔を隠して下町の小さな酒場に向かうつもりだった。しかし、それを止めたのはタルタロスである。
「…………」
「…………」
全てが解消したわけではない。お互いの胸の内にはまだ過去の因縁が渦巻いており、彼らが目指した同じ舞台に立ったとしてもどんな顔をすればいいのか分からずにいた。
子供の頃のように元通りに。その想いがより強かったタルタロスは、意を決して口を開く。
「酒、飲まないか」
「別に……いいけどよ」
「その後、その……」
「あんだよ」
ただでさえ
しかし、それもすぐに晴れる。
「宝探し、行こう」
「お前覚えて……っ!」
「うん」
「…………ばぁか。一国の王がトレジャーハンターなんてしてる暇あんのかよ」
「一日だけなら、問題無い、はず」
「……っはは! 相変わらず自信なさそうだな」
ぎこちなくて、全く自然じゃない。それでも、二人は子供の頃のように、親友であった頃のように、また関係を築いていくだろう。
ようやく巡り会えた親友は。
魔神のいない世界で魔王となり。
共に平和を目指す仲間となった。
後に引き継がれる伝承に、そう記されていることだろう。
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