第30話 Birds of the Round Table
私と織音さんって、”なにか”あったんだろうか?
思わず自分の体に聞いてみるが、一人で”ごにょごにょ”したぐらいか……。
もちろんそんなこと、四人の殿方に向かって話すわけにはいかない。
白鳥さんの言葉の意味はわかるけど、どう答えたらいいかわからない。
そんな
「ここ何日か、織音の様子がおかしいのよ。ぼーっとして、心ここにあらずってかんじね」
そうなんだ。じゃあやっぱりあのことが……。
目黒さんが両手を頭の後ろで組みながら体を反らし、ちょっと話しづらそうに口を開く。
「別に俺たちはよぉ~織音とアンタがどうこうしたってのには興味はねぇけど、織音のあの様子は無視できねぇんだわ~」
乾さんが腕を組んで目を閉じながら、
「我らとて、仲間の悩みや心配事は
隼さんは横になって座り、
「なんにせよ、あとはおまえ次第だ。話したくなければそれでいい……」
どうしよう……。
赤裸々に話すのも織音さんに悪いし。
(貴女の心を、目の前の殿方にゆだねなさい)
そうだ! 私一人でどうにかできるとは到底思えない!
五人、いや、マルゲリータも巻き込んで六人で織音さんを何とかしないと!
「思い当たることは、あります」
四人の空気がわずかに揺れた。
私はこれまでの出来事を話した。
ウンベルトさんの喫茶店の為に、織音さんといろいろな喫茶店巡りしていたこと。
そこで、織音さんの古い知り合いである、議員のご令嬢と出会ったこと。
その方の口から、織音さんが考えていた喫茶店に似た首都のお店が、近いうちこの辺りに出店すると。
「『Fairy Sweets』か……。確かに織音が口にしていた喫茶店とはコンセプトが
隼さんがボソッと呟いた。
あれ? 私、お店の名前は口に出していないのに?
乾さんが
「なるほど、貴族院議員、平井末義先生のご令嬢か……。これですべてがつながったな」
えっ!? 私、貴族院議員とも名前も言っていないのに?
目黒さんが吐き捨てる。
「けっ! 秘書かなんだかしらねぇが、こそこそしやがってまったくよぉ!」
えっ? 秘書!? なにがなんだか?
「あの? なにかありましたか?」
白鳥さんが
「ここ何週間、その議員の秘書らしき女性が、この辺りをうろついていたのよ。織音を探してね。マダムの喫茶店のお客様にも聞いていたわ」
「あ、もしかして戸辺さん……」
「安心しなさい。私たち全員、織音は売っていないわよ。でも不覚だったわ。貴女にも一言声をかけておくべきだったわね。もう遅いけど」
四人全員が鼻からため息を流す。
「あの……私も一度しか話をしていませんが、少なくともそのご令嬢、平井お嬢様は織音さん、そして私たちの敵ではないと思います」
「青田殿、なぜ、そうと断言できる?」
乾さんの重い言葉が、問い詰めるように放たれる。
「平井お嬢様も戸辺さんも、私や織音さんと同じ、貴族の魂が取り憑いています。先日お会いした時、腹を割って話しました。織音さんを事務所にスカウトしたくて行方を捜していましたが、やりたいことがあればそれに協力するともおっしゃっていました」
「そうか……ならそれでいい」
隼さんが独り言のように呟いた。
そして目黒さんが、私にちょっといやらしい笑みを向けてくる。
「ま、とりあえずお互いの情報交換はこんなモノだな。さすがの俺たちでも、織音とアンタの痴情のもつれまではどうしようもないからよ」
「えっ!?」
白鳥さんもいやらしい微笑みを浮かべながら
「まぁそんなの、最初の一言でわかるけどね」
「えっ!? えっ!?」
乾さんも鼻で笑いながら
「青田殿はまさしく、鳩が豆鉄砲をくらった顔をしていたな」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
隼さんは顔を上げて、流し目のように横目でにやけながら
「『織音となんかあったのか?』と問われた時、もし本当に何かあればすぐさま否定するか、意図して沈黙するか、『関係ないでしょ!』と怒鳴りつけるからな。本当、女ってのはわかりやすい生き物だ」
「んな……んな! なんですかそれはぁ~~~!」
笑い声がお店の中を満たされる。
それは、心地いい空気。
でも、その笑い声の中に、織音さんは……いない。
意を決して、私はすべてを話す。
信用、信頼、仲間。そんな言葉じゃない。
貴族の霊が取り憑いている私や織音さんを、この方達は受け入れてくれたから。
「皆さん、今まで隠していてごめんなさい!」
謝る私に、四人の目がわずかに見開いた。
「実は、先生方から口止めをされていましたが、皆様方のバーを
隼さんがきちんと椅子に座り直して、ポツリと呟く。
「”青田”。なぜ、あやまるのだ?」
「え?」
初めてだろうか。隼さんが私の名前を呼んだのは。
乾さんは、両の眼でまっすぐ私を見つめる。
「青田殿は我らの為に尽力してくれたのだろう? むしろ礼を言うのはこちらだ」
目黒さんも真顔で
「そんなこと、織音や”真里ちゃん”の行いを見ればすぐわかるさ」
目黒さん、私のことを”真里ちゃん”って。
白鳥さんは申し訳なさそうに
「むしろ私たち自身、己の無力さを痛感しているのよ。仲間一人助けることができず、貴女にまで苦労を掛けていることにね……」
「あ、いえ、そんな」
隼さんが意を決したように、みんなを代表するかのように、私に向き直った。
「我々もできる限りのことはする。この体を好きにこき使ってもいい! 織音の為、そしてこの店の為になんでもいい! いいアイデアがあれば教えてくれ! 頼む!」
四人が一斉に頭を下げる。
同人誌即売会の時みたいに、マルゲリータに向かってではない。
なんだろう、無理難題を押しつけられた気がするのに、体中から力が、いえ、四人から力をもらっているこの感覚……。
(殿方に寄生するのは凡俗な女。本当の淑女はね、多くの殿方から頼られて輝くのよ。これで貴女も淑女の仲間入りね)
淑女。私が。
でも、迷っている暇はない。そして、迷うことはない。
「わかりました。ですが皆様もほんのわずかでもかまいません。何かアイデアがあったら出し合って全員で検討しましょう!」
『『『『oui Mademoiselle Marina!!』』』』
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