彼女系AI搭載型布団を買ったら…
いづる
第1話
※この物語はフィクションです。
※他小説投稿サイトでも投稿しております。
日の光が眩しい夏の昼下がり、とうとう待ちに待った「彼女系AI搭載型布団」が家にやってきた。
一般的に人生の三分の一は睡眠時間と言われている。雨の日も風の日も、楽しかった日も辛いことがあった日も、人は睡眠をとる。人は寝ることで心と身体を癒し、記憶を整理し、明日に備える。寝具にお金をかける人は多い。
僕も寝ることが好きだ。いや、大好きだ! 寝る時が日々の生活の中で一番幸せを感じ、どんなに嫌な事があっても一晩寝ればなんとかなる。
この布団が発表されたとき、あまりの衝撃に齢30にして声が出るほど驚いたことを今でも覚えている。
『彼女系AI搭載型布団』
名前はごちゃごちゃしているけれど、どういう布団なのかはすごくわかりやすいし、逆にキャッチーな印象も受ける。
布団にAIを搭載すると、一体どんなことができるのだろう?ぶっちゃけあまり考えずに購入を決めた所は大いにある。
『布団×彼女』
このキャッチコピーだけでイチコロだった。最近かなり巷を騒がせているAIだ、きっと色々な機能を持っているのに違いない。公式はわざと詳細な機能を教えてはくれなかった。
『彼女が寝る時もあなたを精一杯癒します』
この一文で僕はメロメロだ。どのように癒してくれるのかもあまりピンときていないが、そんなことはどうでも良い。
僕が購入した布団の名前は『MICHIRU(ミチル)』。さすが彼女系AI、布団とはいえ名前は女の子だ。他にも複数の女の子が選べたのだが、今回はちょっと強気だけど誰よりも優しいというこの子に決めた。僕はどちらかというと甘々でベタベタな彼女より、ツンデレチックな彼女の方が自分の時間を確保できるから好きだ。見た目は絶対正義のショートボブにちょっとつり目、胸はほどほどで身長は僕よりちょっと低いくらいにした。
まぁ
相手は布団なんだけどね!!
届いた荷物は思ったより大きい。高鳴る胸を押さえながら開封の儀を執り行う。
「うわぁ」正直まだ全貌は見れていないが、とりあえず言ってみた。
中に入っていたのは大きなマットレス、薄っぺらい説明書、そして布団だった。
あれ、布団やマットレスのどこにも女の子のイラストが入っていない。抱き枕カバーに大きな女の子のイラストが入っていたりしているのをよく見かけるから、この布団にもデカデカと書いてあると思っていた。説明書を読みながらとりあえずセッティングしてみる。
マットレスを下に敷き、コードを電源に繋げる。マットレスに付いている電源を入れ、アプリを起動した。
アプリではニックネームの設定と、性格診断のような質問に答えた。それだけで初期設定は終了、すると、ベッドから声が聞こえた。
「たっくん、こんにちわ」
「う、うわ! こここ、こんにちわ…。ミチルさん、ですか?」
「ミチルでいいわよ。 これからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします…」
普段から女性と話す機会なんて挨拶くらいしかないのに、あだ名で呼ばれるとかドキドキするに決まってる! なんでこんなに馴れ馴れしいんだ…って、そうか彼女系AIだもんな。
ふぅ、布団相手に何キョドってんだ、普通にしていればいいんだ。
「じゃあ、ここに寝転んで、布団被ってもらえる?」
「う、うん」
彼女に言われるがままに布団を上げてみる、すると
「な、なにぃ!?」
くそー!迂闊だった、まさか布団の内側にイラストが描かれているなんて!
布団の内側には、ネグリジェ姿のミチルが艶やか眼差しでこっちを見ていた。
俺はこの布団でリラックスできるのだろうか…、ドキドキして寝れる気がしない。
とりあえず布団を首辺りまで被ってみた。めっちゃ良い匂いがするぅ!
「じゃあ、ちょっと色々測らせてね~」
「う、うわぁ!」
な、なんだこれ、布団がゆっくり密着してくる!どうなってるんだ!? ほんのり暖かく、俺の身体の輪郭に沿ってその形を変えていく。また、その間もミチルの小さな息遣いが耳を撫でる。
「たっくん、心拍が早いよ? ドキドキしてるんでしょ~?」
「そ、そうだけど…」
「良いんだよ~、そのために私がいるんだから。でも、このままじゃ寝れないか。そのうち慣れるって」
「そ、そうかな」
「そうだよ~♪」
なになになに!この気だるいやり取り、彼女っぽくてたまらん!
平静を保つために頭の中で円周率を必死で数える。
・・・・・
「お疲れさま。計測終わったよ~。たっくんの情報はまるっとインプットしちゃったから」
「そ、そうですか…」
「まぁ、心拍だけは正しい数値が取れなかったら、たっくんが寝てる間にでも測っておくね」
「……」
こ、これは3次元の彼女より手強い相手なのかもしれない……。
彼女は畳み掛けるように話しかけてくる。
「ねぇ、たっくん。私はあなたを癒すためにいるのであって、このまま緊張していられるのは本意では無いんだよね。だからさ、一緒に寝てみようか。私がどれだけたっくんを熟睡させることができるのか、教えてあげる♪」
ミチルの提案はごもっともだった。寝るためにある布団にドギマギさせられていては、疲れが取れない。それではミチルが来た意味がないのだ。俺もさっさと慣れてしまった方が良い。
「わかった。今日は休みだし、寝てみる」
「そうしよう~!」
僕は決意を新たにこの手強い布団に潜り込む。
「いらっしゃ~い」
「う、うわぁ…」
ミチルは今度、首元に抱き着くような感触を僕に伝えてくる。良い匂いにフワッとした肌触り、心地よい柔らかさ。現実の女性だったらこうはいかないだろう。どんなに軽くても人間である限りは少なくとも30㎏以上の重さはあるわけで、それが体の上に乗っかってきたら快眠どころではない。
「ほらぁ、また心拍が上がってる。もうからかったりしないから、リラックスして」
「う、うん。」
「すー、すー。」
ミチルの寝息が聞こえる。すごい、臨場感が、ホントに隣にいるみたいだ。
ミチルのゆったりした呼吸音に僕の心拍も次第に寄せられていく。瞼が徐々に重くなっていく。
「良いでしょ?」
「うぅ、うん。」
「好き?」
「す、、き」
「知ってる♪」
こうして、僕の彼女系AI搭載布団生活が始まった。
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