第80話 電波
「 電波 」
きみは、視えないんだね、いや、違う、わ
たしのほうこそ、使える周波数を限定してい
た。優しいんだよ。それが、イノチ、さ。
不思議だね。きみは、一度、手を離れたら
ずっと、そのまま。まっすぐ進むのが好きみ
たいだね。って、いうか、まっすぐしか進め
ないというか。不思議だ。
きみからしたら、ぐにゃぐにゃしているわ
たしたちのほうが奇怪かもしれない。
互いに不思議がっているとしたらしゃあな
い、という。まったくだ。
でも、きみのおかげで、きみが一心不乱に
進んでくれるおかげで、わたしの声も、気持
ちも、遠くまで、あんなに遠くまで運べる。
そしてイノチでは行くことのできない、遠く
のことまで感じることができる。
そう、感じることができる。不思議だ。と
ても不思議だ。きみはわたしでわたしはきみ
なのかな。混ざりたいけど。混ざれない。混
ざれないけど変われる?
人工衛星は交信していて、たくさんの事件
は昼も夜もなく飛び交っていて、わたしはラ
ジオを聞いていて、しかし、もうすぐ人間ド
ックで、どこかで赤ん坊が生まれている。
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