求めていた俺 sequel

第5部 「東西学園闘争編」

28話 搭乗

桐生達聖川東学園生は貴重な日曜日を返上して『浪速のドッチボール大会』に出場するため開催地の大阪に遠路遥々飛び立つ事になった。

なんでこんな羽目になったのか。有り体に言えば、朝霧財閥火天焔学園による『聖川東学園の校舎、土地及び経営権の吸収』を阻止するためである。

そして今日がその日曜日。 聖川東学園2年♢組の生徒達は日本最大の空港である、東京『翼男空港』国内線ターミナル1F出発ロビーに集合していた。 当然今日は休日なので数多の利用客で溢れている。

2年♢組の生徒達と言っても、クラス約40人全員がいるわけではない。

その中からクラス内投票で選抜された12人の選手達が来る・・・はずなんだが。

「2年♢組選手団の斎藤良樹君と伊藤雫さんが腹痛と頭痛で来れないとの連絡が今入った」

クラスメイト(選手団)の監督責任者として同伴している担任が携帯電話を耳に当てながら言った。

ちなみに搭乗手続きは、『ワイなりのおもてなしだから感謝しーや』という事で朝霧雄馬が事前に済ませてくれたそうだ(ただし交通費は担任が全額負担)。ちなみに、当の雄馬は仲間の選手団員11人と共に大阪 『間酉玉祭空港』エントランスにて待機中だ。

あとは残すところ手荷物検査のみなのだが、大会規定の選手団の数がまだ2人ほど足りていない。

「先生！」

サファイが大きな声を出して手を挙げた。

「こんなことがあろうかと、予備の代わりを2人呼んでおきました！！」

「おっ、マジで？」

もうじきその2人も空港に到着する頃だが・・

「おまたせ！」

褐色肌のくさい男がトレーニングパンツ一丁でこちらに向かって猛ダッシュで近づいて来た。

「キャーーーーーーーーッ！！」

ロビーの椅子に座っている一般女性客が悲鳴を上げているが、まぁ気にしないでおこう。

「あっ来た来た。おーいこっちこっちー！」

サファイがくだんの変態男を歓迎する。

そしてその場にいる桐生とマナトはこの男と面識があった。

「魔獣先輩！！」

「大阪でドッチボールやるって聞いてやって来ました。ちょっと遅刻しちゃったけどまぁ多少はね？」

かつて皇楼祭にて桐生の対戦相手として立ち塞がった男である。あと、相変わらずくさい。

そしてもう1人。桐生とマナトは魔獣先輩とは違った意味で危険な男を発見する。

パリィーーーーーン！！

炎の剣を持った真っ赤な装束の男が、発着ロビー天井のガラス窓をバイオレンスに突き破って上から降って来た。

「なんだなんだ！？」

「逃げろー！！」

「あーもう、めちゃくちゃだよ」

辺り一帯にガラスの破片が飛び散り、一般客達が狼狽する。

そんな客達にはおかまいなしに、

「おう、サファイ。そして桐生、ご無沙汰だな」

赤い装束の男はメラメラと燃える炎剣を片手で担いだまま挨拶を交わす。

「来てくれてありがとう、ルビア！」

ルビア。『四刹団』のリーダーを務める男で、『炎』を司る聖者である。

「お前、毎回派手な登場するな！」

桐生がポカリと、ルビアの頭を軽く叩いた。

「フハハ。せめて “演出” と言ってくれたまえよ」

ルビアは全く反省の意を見せない。

てんやわんやで、選手団12人が勢揃いした。

担任が名簿を片手に点呼を取って確認をする。

「よし！欠員補充も済んだことだし、一人一人名前を呼ぶから全員しっかり返事をしなさい。いいな！ まずは聖川東学園生徒会長、

“ 砦外みくた ” 」

「はい！」

聖川東学園選手団代表を務める黒縁メガネの少年だ。

「次に “ 香月あずさ “ 」

「はいっ！」

彼女は選手団副団長に任命された。学級委員としての責任力や行動力は後の試合でも大いに発揮されるだろう。

「”石丸達巳“ 」

「はい」

「 ” 栗山マナト “ 」

「はい」

小柄で少食、クラスでも大して目立たない少年で、常に愛用のノートパソコンを持参している。

「 “ 暮五リウス ” 」

「ハーイ」

イギリス人の父とミャンマー人の母を持つハーフの少年だ。

「 “おつり旬 ” 」

「フッ」

サラッサラの銀髪で、クラス一のナルシストだ。

「 “サファイ” 」

「はいはいはーい！」

『四刹団』最年少のメンバーで、『水』を操る聖者だ。もういい加減説明するのも飽きたのである。

「 ”菅原聡彦“ 」

「はいはい」

スクールカーストで中の上くらいに君臨するマナトの友人である。

「 ” 馬場コウスケ “ 」

「おいっす！」

『氷結』の能力者だ。

「 “ルビア“ 」

「あいよー」

先程説明した通りだ。

「 ”桐生“ 」

「はい！」

『触れた者の全身を硬直させる力を宿す』諸手を扱う能力者だ。

「そして最後に、 ”魔獣先輩“ 」

「オォン！」

「 ちゃんと返事をしろステハゲ！！」

「アォン！」

「もういいや・・・。とりあえず全員いるな！これからターミナル3Fに上がり、荷物検査をする。不要物を持ち込んでる生徒は今のうちに先生に渡しなさい」

無事に選手が揃い、一同は担任を先頭に3F荷物検査場に向かうため、エスカレーターを上がる。

だが荷物検査場にてちょっとしたトラブル発生。

「あ、そこの茶色い人と赤い人！」

荷物をチェックする坊主頭の保安検査員、三浦に呼び止められてしまったのは魔獣先輩とルビアだった。

「おいおい、やっぱりあいつら捕まってるよ」

既にチェックを潜り抜けた他のメンバー達が遠くから2人を見てケタケタ笑っている。

2人が補導されたのにはれっきとした理由がある。

「まずは赤い君。その炎剣はまずいでしょ〜炎剣は。火災が起こったら大変よ〜。置いて来なさい」

「ちぇ〜、仕方ねぇなぁ〜」

ここにいる誰よりもプライドが高いルビアだが、案外聞き分けが良いようだ。 ルビアは渋々炎剣を検査員に預けた。

「よし、通ってよろしい」

「まぁいいや。また100均で買えば良いし」

ルビアは口笛を吹きながら無事検査を通過した。しかし問題なのがもう1人。

「次に茶色い君！」

「はい」

魔獣先輩のことだ。

「申し訳ないけど、君ちょっとくさすぎるよ。くさすぎて他のお客様にご迷惑だし、くさすぎて運行の乱れが生じる恐れがあるから通せないな」

保安検査員にボロクソ言われる魔獣先輩。

「じゃあ風呂入ってサッパリさせてくださいよ〜」

保安検査員にしがみついて懇願する気持ち悪い男、魔獣先輩。

そしてボウズの検査員はゲフンと、一度咳き込んで答えた。

「ここに風呂はないな。というか、服を着なさい服を」

「どうやら意地でも通してはくれないみたいだね！」

「当たり前だよなぁ」

坊主頭の検査員、三浦と呼ばれる男が言った。

ズルッ！

すると魔獣先輩は自身のトレーニングパンツを検査員の目の前で下ろした。

「なっ」

魔獣先輩の急な奇行に驚いた検査員三浦が目をパチクリさせている。

「こうなったら強行突破だゾ〜」

ブッチッパ！！！

「ぐわぁーーーッ！！汚ねぇ！！前が見えねぇーー！！」

魔獣先輩は、まるで人間とは思えない音を発して検査員三浦の顔面に排泄物を直接ぶっつけた。『ベチャア』という、この世で最も汚い音が聞こえた。(こんなのばっかで本当に申し訳ない・・・)

「ちょっと通るよ〜ごめんよ〜」

この隙に魔獣先輩は再びトレーニングパンツを履き直して検査場をこっそり脱出した。

こうして聖川東学園選手団12人と担任の13人は検査場をすぐ抜けたところにあるコンコースにようやく辿り着いた。 一面ブルーの絨毯が敷かれており所々に椅子が設置されている、いわゆる飛行機の出発まで待機するための広場だ。 縦長でガラス張りの窓がズラリと並んでおり、外の飛行場や滑走路、物資運搬用の自動車などが走っているのが中からはっきり見える。

そしてコンコースは一般客で溢れていたが比較的静かであった。

「いいかみんな、今日君たちが乗る飛行機は

”スカイフェニックス810便“ だ。あとわずか2分足らずで出発してしまう！ 全員急いであの

搭乗ゲートに突っ走れ！！！」

「「「あいあいさー！」」」

魔獣先輩とルビアが検査にひっかっかったせいでこのザマである。あと少しで東京に取り残される所だった。

聖川東学園選手団は倫理やモラルという壁をぶち壊し、一般客を押しのけて搭乗ゲートを通過。これで『翼男空港』はオサラバ。

そしてついに東京・大阪間約1時間半の空の旅がスタートした！