第4部 「摩天楼の決戦編」
25話
「トーナメントの部」を見事に勝ち抜いた桐生。 ここ、五階層は、芭部流の塔の中間点でもある。 そして今、この階層の闘技場に三人の戦士が入場し、横一列に並ぶ。
『ではこれより五回戦が始まるのですが、その前に。見事トーナメントを勝ち抜き、"ベスト一“に輝いた桐生選手とこれから戦う三人の戦士、" 塔の番人"のご紹介を行います。
まずは一人目、 『魔獣先輩』!!
ワアアアアアアアアア (きも〜い)
そして二人目、 『あばれない君』!!
ワアアアアアアアアア (ハゲだ〜)
そして三人目、『タイラのマチャカド』!!
ワアアアアアアアアア (かっけ〜)
以上3人の『塔の番人』を倒すことにより、桐生選手は準々決勝に進出することが出来ます!!頑張ってくださいっ! 』
桐生はすでに闘技場にいた。ここから先はずっと、次の番人が来るまではそれぞれの階層の闘技場の端で待機ということになるそうだ。
「ずっと立ってなきゃいけねーのか・・。しんどいな。」
闘技場の中央に桐生が立つ。 その目の前には三人の『塔の番人』が横に並んで桐生と向かい合っていた。
『それでは早速五回戦、始めちゃいましょうか。"塔の番人"一人目、"魔獣先輩"! 前へ」
ザッ。
"魔獣先輩"という男が桐生の前に立ちはだかる。他の二人の番人は後ろに下がり、戦いの見物という形になった。
『それでは皆さん、桐生選手vs魔獣先輩の戦いが始まります!! 両者とも、準備はいいですが?それでは。よーーーーーい、 はじめ!』
ビーーーーーーーーーーッ
試合はいきなり開始された。
「おいおい急にかよ・・。」
桐生は身構えて、対戦相手をまじまじと観察する。 相手の特徴はまず、コーンのシャツにトレーニングパンツ。筋肉質で肌はうんこ色に近い。スネがテカっている。
そしてその男はいきなり自己紹介を始めた。
「二十四歳、学生です。身長百七十cm、体重が七十キログラム。」
「・・風俗には行ったことあるのか?」
桐生は質問する。
「行ったことありますよ。」
魔獣先輩はあっさり返答した。
「そうか。なんかスポーツとかやってんのか?がっちりしてるけど。」
「特に・・は、やってないですけど、筋トレやってます。」
「ふーん、そうか。なるほどよくわかったぜ。じゃあ早速戦おうか!」
「あーい、あーイイヨイイヨイイヨー。」
最初に魔獣先輩が先制攻撃を繰り出した。
「コッ↑コッ↓」
魔獣先輩は人間とは思えない発音で声を発した。それは使い魔を呼び出す合図だった。
その直後。
どこからともなく大量のニワトリが桐生に襲いかかってきた。そして一斉に桐生の頭をクチバシで突っつく。
コッコッコッコッコッ。
「うわ、いってえ!!やめろ、このっ。離れやがれ!」
桐生はニワトリたちを必死に手で振り払うと、ニワトリはびっくりして退散した。
「テメエ、なにしやが・・」
ビチャア!!
「ふごっ!?」
桐生が喋ろうとするが魔獣先輩はそれすらも許さない。魔獣先輩はアツアツのラーメンを桐生の顔面にぶっかけてきた。
「この辺にィ、うまいラーメンあるらしいっすよ。じゃけん今食いましょうねー。」
「アッチィィィィィ!!」
あまりの熱さに桐生は五メートルくらい跳ね上がる。
「テメエよくも!!」
桐生は顔を火傷した程度じゃ怯まない。魔獣先輩の顔面を殴るために拳を振り上げる。
しかしガシィッ!と、魔獣先輩は桐生の腕をキャッチし、 そのまま耳元に顔を近づけて囁く。
「喉乾かない? 」
「なにいっ!? ・・あ、でも確かにさっきからぶっ通しで戦ってるから喉がからっからだな。 ワリィ。なんかジュース頼むわ。」
そして魔獣先輩は後ろを振り向き、テーブルを用意し、どこから持ってきたのかすらわからないコップに茶色い色の飲み物を注いだ。
「サーーーーーッ。」
そしてトッピングになんかの粉を入れて、それをこちらに手渡した。
「お待たせ。アイスティーしかなかったけどいいかな?」
『おーーッと、魔獣先輩、戦いの最中に敵である桐生選手になんとアイスティーを差し出したー!!なんて懐が深い紳士でしょうか!』
「ストーーーップ!!今なんか入れたろ!!」
桐生がアイスティーを拒む。
だがそれでも強引にアイスティーを飲ませようと迫る魔獣先輩。
それに対し桐生は魔獣先輩の股間にキックを入れてなんとかその場を凌ぐ。
「なかなかやりますねぇ!!ならこっちも本領発揮だっ!」
魔獣先輩は何かをするつもりだ。嫌な予感がする。
「なんのつもりだ!」
「必殺、 "魅惑のフォッグ!"」
魔獣先輩の全身からピンク色の霧が現れる。
『おっと桐生選手!!その霧に触れたら大変なことが・・』
「やばい、なんか変な気分になって来やがった・・。」
『あ。手遅れでしたねw』
「どうだ!俺の体から発する霧に触れると、"人間のあらゆる感情がバラバラに混合するようになる"のだ!」
桐生は訳も分からなく面白くなったり、悲しくなったり怒り始めたりした。
一方、これを見てた観客席では・・。
「うわ!桐生の奴、いきなりどうしちゃったもー!?気持ち悪いもー!!」
敷島が言った。
「おそらく奴の能力、『魅惑のフォッグ』のせいだろうね。あの霧を直接浴びると喜怒哀楽すべての感情がごちゃ混ぜにシャッフルされてしまう。今の桐生は、感情を思った通りに制御できない。」
マナトがネットを見ながら説明した。
その頃桐生はまだ魔獣先輩の『魅惑のフォッグ』に苦戦していた。
「くくっ、くくくっ!!」
(くそ、まともに喋れねえ!心の中は悔しい気持ちで一杯なのに!!何故か悲しくて、嬉しくて、笑いが止まらねえ!!今回は感情を操る能力か!!)
「そのまま自滅してしまえ!!」
魔獣先輩は勝利を確信し始めていた。
その時だった。
「頑張れ桐生ーー!!」
「こんなところで凹んでんじゃねーぞー!!」
東ゲートの観客席の方からなにやら応援の声が聞こえて来た。そしてその応援は次第に辺り全体に伝播していく。
それを見た桐生は・・
「グスっ、グスっ・・!」
(みんな・・! そうか、ここにいる全員がこの俺に期待してくれているのか!!)
桐生は魔獣先輩の術によってわけもなく泣きながらも、立ち上がる。
「馬鹿なッ!!俺の霧を受けてもなお戦うつもりか!?」
動揺を隠せない魔獣先輩。
「ヒヒヒッ、どうやら・・ヒヒッ、俺は、そんな子供騙しの術じゃあ、ヒヒヒッ。響かないみてーだぜ?」
「クソクソクソォン!」
約10万人のみんなの応援が桐生に力を与えてくれたのだ。
「いくぞ、変態野郎。"泣いても笑っても"お前の負けだあああああッ!!」
桐生は目にも留まらぬ速さでダッシュする。
そのまま魔獣先輩に突っ込むつもりだ。
「な、ならばもう一度・・」
魔獣先輩は慌てて『お待たせアイスティー』に睡眠薬を入れて桐生にぶち撒けようと急ぐが、
「もうおっせえ。」
桐生は魔獣先輩の動きを止めて、手からアイスティーを奪い取り、そのまま無理やり魔獣先輩の口の中に流し込む。
「もがががががッッ!!??」
「オラ、全部飲みやがれ!!」
「・・グゥ・・。」
体内に睡眠薬をバッチリ流し込まれた魔獣先輩はそのまま眠りについてしまった。
ビーーーーーーーーーーッ!
『試合終了!!桐生選手の勝利です!』
「やったやったやったー!!」
喜ぶサファイ。
「もはや桐生を止められる奴はいないもー。」
敷島はうんうんと頷く。
一方桐生は、
「・・今回は案外楽勝だったな・・。」
これまで多くの強敵の存在が桐生を強くしてくれたのだ。今更そんな桐生の感情を少し弄ったぐらいでは無駄だったのである。
魔獣先輩はそのままスタッフの手によって適当に片付けられた。
そして桐生は二人目の『塔の番人』と戦うべく、上の六階層へと赴く。
優勝まであと・・ 五戦!!
To be continued..
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